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一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)
1、記憶がないっ!
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薬草の匂いに包まれて、名前を呼ぶ声を聞く。
「エーテル、エーテル……」
……深い闇に沈んでいた意識が、ふわふわと浮上する感覚。
眠っていた。
そして今、目が覚める――そんな風に、僕は自分の状態を認識した。
「気が付いたのか! よかった……っ」
ぱちりと目を開ければ、たくさんの人がベッドで横たわる僕をみていた。枕がふかふかで、掛け布団の内側の毛布がぬくぬくだ。二度寝したくなる心地よさだけど、周りの人が必死すぎて寝れる雰囲気じゃない。
「……お、おはよう?」
ぼんやりと言葉を発すると、自分の声が何故かとても幼いと感じた。その違和感は、自分の手を見てますます強くなる。
小さい。
幼い。
頼りない。
「……僕、何歳? 今は、いつ?」
「エーテル?」
「……それ、僕の名前?」
僕は気付いた。
僕、わからない。
覚えてない。
記憶がない。
「お約束みたいなことを言ってもいい?」
お約束ってなんだろう――そう自問しながら僕は質問を連ねた。
「ここはどこ? あなたたちは誰? 僕は何?」
僕が記憶喪失だと伝わると、大人たちは大騒ぎになった。医者が呼ばれ、術者が呼ばれ、原因と思われる事件について囁く声が耳に入る。
「第二王子だ。あの狂王子が何かしたに違いない」
――第二王子? 狂王子?
どうも記憶を失う直前、僕はそう呼ばれる同じ年齢の王子様に呼ばれてお話ししていたらしい。
「カジャは何をやらかしたんだ。あいつめ……」
王子の名前を呼び捨てにして、5歳くらい年上の『お兄さん』がベッドの脇で怖い顔をしている。
お兄さんは、真っ白な肌の僕と違って褐色の肌をしていて、髪の色も真っ黒だ。瞳は深い海みたいな青い色。とても整った顔立ちをしている。後ろには、お兄さんのお付きの従者らしき魔術師と騎士が控えていた。
――このお兄さんは、他の人と違う。
僕は一目でそのお兄さんが特別な存在だと感じた。
僕がじーっと見つめていると、お兄さんは困ったように眉を下げて表情を和らげた。
「お兄さん」
名前を知らない。そう思いながら手を差し出すと、一瞬戸惑う気配が感じられた。けれど、お兄さんは僕の手を握ってくれる。
「……ノウファムだ」
それがお兄さんのお名前らしい。
「ノウファム兄さん」
「……そうだ」
ちょっと恥ずかしがるような気配。
ノウファム兄さんは不器用な感じでもう片方の手を持ち上げて、僕の髪を優しく撫でてくれる。あったかい。くすぐったい。
「ノウファム兄さんは……」
無意識のようにポロリと言葉が出る。
「ノウファム兄さんは、僕のお兄さんなんだ……?」
兄さんの青い瞳が僕をじーっと見つめている。瞳に僕が映っている。赤い髪に橙色の瞳をした、幼い僕だ。
「ああ。俺はお前のお兄さんだ」
ノウファムお兄さんが頷くと、僕は嬉しくなって口元をゆるゆるさせた。
後から知ったことだけど、ノウファムお兄さんと僕は義理の兄弟という関係で、お兄さんはほんの数週間前に家に来たばかりだったのだとか。
来て早々に義理の弟が記憶喪失になって、きっとお兄さんもびっくりだね。
「エーテル、エーテル……」
……深い闇に沈んでいた意識が、ふわふわと浮上する感覚。
眠っていた。
そして今、目が覚める――そんな風に、僕は自分の状態を認識した。
「気が付いたのか! よかった……っ」
ぱちりと目を開ければ、たくさんの人がベッドで横たわる僕をみていた。枕がふかふかで、掛け布団の内側の毛布がぬくぬくだ。二度寝したくなる心地よさだけど、周りの人が必死すぎて寝れる雰囲気じゃない。
「……お、おはよう?」
ぼんやりと言葉を発すると、自分の声が何故かとても幼いと感じた。その違和感は、自分の手を見てますます強くなる。
小さい。
幼い。
頼りない。
「……僕、何歳? 今は、いつ?」
「エーテル?」
「……それ、僕の名前?」
僕は気付いた。
僕、わからない。
覚えてない。
記憶がない。
「お約束みたいなことを言ってもいい?」
お約束ってなんだろう――そう自問しながら僕は質問を連ねた。
「ここはどこ? あなたたちは誰? 僕は何?」
僕が記憶喪失だと伝わると、大人たちは大騒ぎになった。医者が呼ばれ、術者が呼ばれ、原因と思われる事件について囁く声が耳に入る。
「第二王子だ。あの狂王子が何かしたに違いない」
――第二王子? 狂王子?
どうも記憶を失う直前、僕はそう呼ばれる同じ年齢の王子様に呼ばれてお話ししていたらしい。
「カジャは何をやらかしたんだ。あいつめ……」
王子の名前を呼び捨てにして、5歳くらい年上の『お兄さん』がベッドの脇で怖い顔をしている。
お兄さんは、真っ白な肌の僕と違って褐色の肌をしていて、髪の色も真っ黒だ。瞳は深い海みたいな青い色。とても整った顔立ちをしている。後ろには、お兄さんのお付きの従者らしき魔術師と騎士が控えていた。
――このお兄さんは、他の人と違う。
僕は一目でそのお兄さんが特別な存在だと感じた。
僕がじーっと見つめていると、お兄さんは困ったように眉を下げて表情を和らげた。
「お兄さん」
名前を知らない。そう思いながら手を差し出すと、一瞬戸惑う気配が感じられた。けれど、お兄さんは僕の手を握ってくれる。
「……ノウファムだ」
それがお兄さんのお名前らしい。
「ノウファム兄さん」
「……そうだ」
ちょっと恥ずかしがるような気配。
ノウファム兄さんは不器用な感じでもう片方の手を持ち上げて、僕の髪を優しく撫でてくれる。あったかい。くすぐったい。
「ノウファム兄さんは……」
無意識のようにポロリと言葉が出る。
「ノウファム兄さんは、僕のお兄さんなんだ……?」
兄さんの青い瞳が僕をじーっと見つめている。瞳に僕が映っている。赤い髪に橙色の瞳をした、幼い僕だ。
「ああ。俺はお前のお兄さんだ」
ノウファムお兄さんが頷くと、僕は嬉しくなって口元をゆるゆるさせた。
後から知ったことだけど、ノウファムお兄さんと僕は義理の兄弟という関係で、お兄さんはほんの数週間前に家に来たばかりだったのだとか。
来て早々に義理の弟が記憶喪失になって、きっとお兄さんもびっくりだね。
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