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第一章 建国前夜編
1話 アメノミカゲ
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深い闇の中。
身体が地の裏に沈み込んでいくように重い。
世界の深淵を思わせるような、色も音も匂いもない世界に、俺の身体は沈み込んでいく。
ああ、これが死なのか。
大学を出てから誰よりも努力して、未来のために全てを賭けて働いてきたのに…
30年の人生の終わりは意外にも呆気なく、そして死後の世界はどうしようもないくらいの無が広がっていた。
何時間、いや、何日経っただろうか。
この無の世界を漂ってから。
少し前からずっと遠くの方で、ボンヤリと光が見えるけど、一向にたどり着く気配はない。
でも確実にその光に向かってる気がする。
------
次に気がつくと何もない闇の世界から一変して、何もない白の世界が広がっていた。
これがあの光の中か…?
今は地に横たわる感触が背中に残る。
力の入らない身体をなんとか起こし、辺りを見渡してみた。
ここは…、いったいなんなんだろうか。
少なくとも俺が知っている天国や地獄の類とは似ても似つかない景色だけど…。
まあ死後の世界なんて誰も証明できないし、これが本当の死後の世界ってものなのか…。
「面白いスキルをお持ちですね」
呆然としている俺の後ろから、囁くような声が聞こえ思わず身を竦めた。
恐る恐る振り返ってみるとそこには20代くらいの白装束の男がしゃがみ込んで俺を眺めている。
「えっ…」
何を聞けばいいのか、何を言っていいのか分からず言葉に詰まっていると、男は笑顔で喋り出した。
「大和健(ヤマトタケル)さんですね?すいません、突然のことで驚いていますよね。私の名前はアメノミカゲ、あなた方から言うところの神という存在です」
「はぁ…?神…?」
状況が全く掴めない俺にアメノミカゲという神は話を続ける。
「本来、人は死後、ただ無に帰すだけで意識も何も残らない魂へと変わり、輪廻を待つだけなんですが…。たまにいるんですよね、あなたみたいに偶然にも神の世界へ迷い込んでしまう魂が」
「迷い…こむ…?」
「ただ、あなたはさらに珍しいですね、魂が身体を再現して実体化している。しかも生前のスキルまで残っているなんて。その名前のせいですかね?」
ニコッと笑って俺の目を見るアメノミカゲに俺は呆然とその目を見返すことしかできないでいた。
「まあ、そうなるのも無理はないですね、あまりにも現実離れした状況ですから。これから話すことはもっと現実離れしてますから、少し覚悟が必要かもしれないですね。」
これ以上現実離れしたことが何かあるんだろうか…。
「実は輪廻を待つための無の世界から、この神の世界への道は一方通行になっていまして、もう元の世界の輪廻には戻れないんですよ…。で、残された選択肢は一つ。あなた方の世界からいうところの異世界と呼ばれる世界に転移することなんです」
「転移…!?え…、あのマンガとか小説でよくあるやつですか…?」
怪訝そうに質問する俺にアメノミカゲはまたニコッと微笑んで話を続ける。
「そのマンガとか小説というのは拝見したことはありませんが、あなた方の世界とは大きく異なった世界に、少し若返った状態で転移していただくことになります。」
「どっ、どんな世界なんでしょうか…」
「多種多様な種族が存在し、マナという不思議な力から魔法なども発現できる、そんな世界です。文明レベルも未発達で未だに争いが絶えない世界なんですが…。」
「は、はあ…」
魔法が使える争いが絶えない異世界って、大丈夫なんだろうか…。
選択肢は一つって…。
そもそも俺みたいな平和ボケした日本人がそんな世界に行って生き残れるんだろうか…。
異世界物といえば加護とかスキルとかを貰って無双するみたいなのがテンプレだけど、それがあればなんとかなるのか…?
「あ、あの…!何か特別な力を授けていただけたりはするんでしょうか?」
「ごめんなさい、そう言った干渉は神々のルールで禁止されてまして…。ただ、あなたが住んでいた世界、実は特別な世界でして、マナがなく魔法が使えないかわりに身体能力が非常に高く設定されてるんです」
怪訝そうに首を傾げる俺にアメノミカゲはニコニコと続ける。
「あなたが元々持っているスキルはそのまま引き継がれますし、身体能力が異世界人より高いっていうこともありますし、魔法を使える可能性だってあります。だから転移したとしても、そんなに困らないとは思いますよ」
いや、そんなこといきなり言われても、地球だとごく平凡な運動神経だったし不安しかないんだが…。
そもそもスキルっていう概念が理解できない…。
「あの、俺が持ってるスキルっていったいどんなスキルなんでしょうか…」
「あなたが持ってるスキルはかなり多いので、珍しいものだけお伝えすると、一つが軍神というスキルで、もう一つが掌握というスキルですね。日頃何かに祈りを捧げてましたかね?軍神スキルはそれで得たようです。掌握はあなたの職業柄なんでしょうか。」
軍神…?近所の神社に毎日お詣りをしてたからか…?
掌握に至っては職業柄って…。
「基本的には上位世界に当たる地球で非凡な活躍をして多くのスキルを持ってるあなたは異世界でも既に特別な存在と言えるのでなんの心配もないですよ」
アメノミカゲは変わらず笑顔で話しながら、右手を広げて俺の顔の前に置いた。
「あとは実際に行ってみてから理解してもらえればと思います。すいません、あまり時間が取れなくて。」
アメノミカゲの右手が光り出す。
「ちょっ、説明はそれだけですか…!?どういうところにどういう立場で転移するのか---」
言いながら目の前が真っ白な無に包まれていく。
「あ、そうそう、最低限干渉が許されてる範囲の、言語理解と鑑定のスキルだけ与えておきますね、転移者にはそれがないと異世界は大変なので。では、第二の人生を楽しんでください」
意識が遠のく中で、アメノミカゲの言葉が続いた。
楽しめって言われても、不安だらけでそんな気になれないだろ。
どうなるんだこれから…。
身体が地の裏に沈み込んでいくように重い。
世界の深淵を思わせるような、色も音も匂いもない世界に、俺の身体は沈み込んでいく。
ああ、これが死なのか。
大学を出てから誰よりも努力して、未来のために全てを賭けて働いてきたのに…
30年の人生の終わりは意外にも呆気なく、そして死後の世界はどうしようもないくらいの無が広がっていた。
何時間、いや、何日経っただろうか。
この無の世界を漂ってから。
少し前からずっと遠くの方で、ボンヤリと光が見えるけど、一向にたどり着く気配はない。
でも確実にその光に向かってる気がする。
------
次に気がつくと何もない闇の世界から一変して、何もない白の世界が広がっていた。
これがあの光の中か…?
今は地に横たわる感触が背中に残る。
力の入らない身体をなんとか起こし、辺りを見渡してみた。
ここは…、いったいなんなんだろうか。
少なくとも俺が知っている天国や地獄の類とは似ても似つかない景色だけど…。
まあ死後の世界なんて誰も証明できないし、これが本当の死後の世界ってものなのか…。
「面白いスキルをお持ちですね」
呆然としている俺の後ろから、囁くような声が聞こえ思わず身を竦めた。
恐る恐る振り返ってみるとそこには20代くらいの白装束の男がしゃがみ込んで俺を眺めている。
「えっ…」
何を聞けばいいのか、何を言っていいのか分からず言葉に詰まっていると、男は笑顔で喋り出した。
「大和健(ヤマトタケル)さんですね?すいません、突然のことで驚いていますよね。私の名前はアメノミカゲ、あなた方から言うところの神という存在です」
「はぁ…?神…?」
状況が全く掴めない俺にアメノミカゲという神は話を続ける。
「本来、人は死後、ただ無に帰すだけで意識も何も残らない魂へと変わり、輪廻を待つだけなんですが…。たまにいるんですよね、あなたみたいに偶然にも神の世界へ迷い込んでしまう魂が」
「迷い…こむ…?」
「ただ、あなたはさらに珍しいですね、魂が身体を再現して実体化している。しかも生前のスキルまで残っているなんて。その名前のせいですかね?」
ニコッと笑って俺の目を見るアメノミカゲに俺は呆然とその目を見返すことしかできないでいた。
「まあ、そうなるのも無理はないですね、あまりにも現実離れした状況ですから。これから話すことはもっと現実離れしてますから、少し覚悟が必要かもしれないですね。」
これ以上現実離れしたことが何かあるんだろうか…。
「実は輪廻を待つための無の世界から、この神の世界への道は一方通行になっていまして、もう元の世界の輪廻には戻れないんですよ…。で、残された選択肢は一つ。あなた方の世界からいうところの異世界と呼ばれる世界に転移することなんです」
「転移…!?え…、あのマンガとか小説でよくあるやつですか…?」
怪訝そうに質問する俺にアメノミカゲはまたニコッと微笑んで話を続ける。
「そのマンガとか小説というのは拝見したことはありませんが、あなた方の世界とは大きく異なった世界に、少し若返った状態で転移していただくことになります。」
「どっ、どんな世界なんでしょうか…」
「多種多様な種族が存在し、マナという不思議な力から魔法なども発現できる、そんな世界です。文明レベルも未発達で未だに争いが絶えない世界なんですが…。」
「は、はあ…」
魔法が使える争いが絶えない異世界って、大丈夫なんだろうか…。
選択肢は一つって…。
そもそも俺みたいな平和ボケした日本人がそんな世界に行って生き残れるんだろうか…。
異世界物といえば加護とかスキルとかを貰って無双するみたいなのがテンプレだけど、それがあればなんとかなるのか…?
「あ、あの…!何か特別な力を授けていただけたりはするんでしょうか?」
「ごめんなさい、そう言った干渉は神々のルールで禁止されてまして…。ただ、あなたが住んでいた世界、実は特別な世界でして、マナがなく魔法が使えないかわりに身体能力が非常に高く設定されてるんです」
怪訝そうに首を傾げる俺にアメノミカゲはニコニコと続ける。
「あなたが元々持っているスキルはそのまま引き継がれますし、身体能力が異世界人より高いっていうこともありますし、魔法を使える可能性だってあります。だから転移したとしても、そんなに困らないとは思いますよ」
いや、そんなこといきなり言われても、地球だとごく平凡な運動神経だったし不安しかないんだが…。
そもそもスキルっていう概念が理解できない…。
「あの、俺が持ってるスキルっていったいどんなスキルなんでしょうか…」
「あなたが持ってるスキルはかなり多いので、珍しいものだけお伝えすると、一つが軍神というスキルで、もう一つが掌握というスキルですね。日頃何かに祈りを捧げてましたかね?軍神スキルはそれで得たようです。掌握はあなたの職業柄なんでしょうか。」
軍神…?近所の神社に毎日お詣りをしてたからか…?
掌握に至っては職業柄って…。
「基本的には上位世界に当たる地球で非凡な活躍をして多くのスキルを持ってるあなたは異世界でも既に特別な存在と言えるのでなんの心配もないですよ」
アメノミカゲは変わらず笑顔で話しながら、右手を広げて俺の顔の前に置いた。
「あとは実際に行ってみてから理解してもらえればと思います。すいません、あまり時間が取れなくて。」
アメノミカゲの右手が光り出す。
「ちょっ、説明はそれだけですか…!?どういうところにどういう立場で転移するのか---」
言いながら目の前が真っ白な無に包まれていく。
「あ、そうそう、最低限干渉が許されてる範囲の、言語理解と鑑定のスキルだけ与えておきますね、転移者にはそれがないと異世界は大変なので。では、第二の人生を楽しんでください」
意識が遠のく中で、アメノミカゲの言葉が続いた。
楽しめって言われても、不安だらけでそんな気になれないだろ。
どうなるんだこれから…。
応援ありがとうございます!
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