天使の翼 〜生徒会長が最強すぎて部下の出る幕がありません〜

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49章

「今度は…これかな」
宮浜は無い片腕を櫻木に向かって伸ばす。
すると無い片腕の先が不自然に蠢き肉の中から何かが出てきそうな感じがする。
そこから出てきたものは無数のガラス片。
ガラス片が勢いよく櫻木たちに襲いかかる。
櫻木は「たかがガラス片ごとき」と思い、避けることを行わなかったが。
その認識を改められさせられることになる。
1つのガラス片が櫻木に刺さった。
その瞬間、
ガラス片が櫻木の体の奥深くに入り込んでいった。
櫻木はその異常な動きに困惑する。
そして今度は避けないといけないか、と考えを改め避けるために右にずれようとする。
だが
「っ!」
鈍い悲鳴を上げた。
体に入ってしまったガラス片が動くたびに内部に刺さり激痛が走る。
しかもそれだけじゃない。
ガラス片には強力な動きを封じ込める能力がかかっていて動くことが困難になっていた。
櫻木は傷を修復できない人爽をかばい全てのガラス片をくらう。
その度に激痛が走り、そして傷は修復される。
だがガラス片は残ったままだ。
「結構効いてる感じですか?自身の欠損した部位の数によってガラス片を生み出す能力と自身の投擲物に多様な効果を付与させる能力。正直前者の能力は使い道微妙かなとか思ってましたけど。やっぱり組み合わせって重要なんですね」
宮浜がガラス片を出し終わるとそう言った。
黒山はもう死を経験をしすぎて感覚というものがおかしくなっていたが櫻木はまだその域に達していない。
ので、痛みを恐怖し動くことが出来ない。
今は黒山を助けるため死ぬことは出来ない。
自傷行為を繰り返していたときのように自暴自棄にはなっていない。
「そうでした。あなた死ねない能力ってものを持ってたんでしたっけ。十分致死かと思ってたんですが」
宮浜は思い出したように言う。
しかしそれには驚きもせず目をつぶる。
直感でわかる。
能力を探しているのだ。
不死を貫通するための。
「この能力いい感じですかね」
そう言うと宮浜は目を開ける。
それは櫻木への死刑宣告。
「1分以上触れた相手を確実に死に至らしめる能力。多分能力を貫通しますね」
そんな都合のいい能力が転がっているわけがない。
ハッタリかもしれない。櫻木はそう考えた。
宮浜が動けない櫻木に近づいてくる。
それを止めるため櫻木の後ろから人爽が突撃するが。
「邪魔です」
と一言。
その時にはもう人爽は空間から隔離され干渉できなくされていた。
邪魔者も居なくなり駆け足で櫻木の目の前に立つ。
そして睨みつける櫻木の顔をバスケットボールのように鷲掴みにする。
櫻木は抵抗しようとするが激痛が怖く出来ない。
そのまま30秒が経過する。
空間の向こうで人爽が壁を叩きながら何かを叫んでいる。
それを聞いても尚櫻木は抵抗できない。
生きたい。死んでも信二くんに会えるかもしれない。
どっちに転んでも櫻木にとっては良い。
だが
でも…やっぱり生きたい!こっちの世界で信二くんと会いたい!
今度は体が動いた。
情けない拳が宮浜に飛ぶ。
櫻木が動いたことに宮浜は驚いたが意に介さず拳を受ける。
その拳はぺちんという音を鳴らして宮浜の頭に入る。
だが掴む手は離されない。
あと10秒。
「お疲れ様。最後に勇気出して動いたのはすごかったよ。じゃあね」
宮浜は最後にそう言った。
ごめんね信二くん。約束守れなかった。
櫻木がそう思うと同時に。
1分が経過した。

宮浜は櫻木の力が抜けたことを確認すると手を離す。
櫻木はそのまま倒れた。
「さて次はあの男の子ですか」
そう言うと空間を繋げて人爽をこっちに連れてくる。
人爽はうつむいて目を擦っている。泣いているのだろう。
さっさと終わらせて帰らなきゃ。と宮浜が思ってガラス片を飛ばす用意をする。
人爽は目を擦る手を止めて顔を上げる。
その顔に宮浜は少したじろぐ。
笑顔だった。
「なん…で笑ってる?」
思わずその言葉が出てしまった。
その問いかけに人爽はこう答える。
「君の負けだよ」
その言葉の意味を宮浜が理解する前に後ろから誰かの拳が放たれた。
その拳は正確に後頭部に命中させ、宮浜は悶える。
悶ながら後ろを確認する宮浜。
そこに居たのは。
さっき死んだはずの櫻木だった。
意味がわからない。さっき確実に死んだはず。まさかさっきの能力は能力を貫通しないのか?と様々な思考が駆け巡る。
そして
パリーンという音と共に断裂された空間の壁が破れて元の空間に戻った。
「遅れてすいません」
その声の主は追人。
追人が能力の効果を消し去ったのだ。
追人はそのまま屋上に降り立つと櫻木の傍に近寄る。
櫻木の体の中になにかあることを確認するとガラス片の能力と効果付与の能力も消し去った。
その瞬間に櫻木の体は再生し、櫻木は自由を取り戻した。
宮浜は「なんで死んでいないんですか…。絶対に1分触れ続けましたよ…?」と聞く。
そしてそれを待ってましたと言わんばかりに人爽が答える。
「そもそもそんな能力なんて無いんですよ」
宮浜は驚愕した。
だが確かに自分の能力リストにはあった。そんな事があるはずが。
「僕の能力は人の思考を操る能力。それは人の考えている選択肢を書き換えることも。とある単語を気づかせなくすることも」
そこで宮浜は全てを理解した。
宮浜は能力を探す際、一度自分の脳を経由している。そのせいで人爽の能力が干渉できるようになっていてしまったのだ。
本当は触れるだけで人を殺す能力なんて存在しない。それは人爽が作った幻。
今の今まで騙されていたのだ。
そしてそれが致命傷と化す。
「そんな…そんなこと…」
と宮浜が膝から崩れ落ちる。
「…おろかだったなメイク。私を隔離すれば勝てるとか考えていたんだろうが、ここは生徒会。私が居なくても各々が考えて行動することができる。そして適切な行動をとることが出来るんだ」
メイクは悔しそうに話す奏臣をにらみつける。
全て読まれている。
やはり下位固体はオリジナルには敵わないのか。
そう思ってしまうメイク。
実際、二人に分かれてしまったときから絶対に埋めることができない実力差というものが存在した。
それを埋めるために秘術に手を出し、力を身につけた。
だがそれでもその差を埋めることはできない。
奏臣は仲間と力を合わせることを覚え、手の届かないところへ行ってしまった。
「ははは」
メイクが不可思議に笑った。
ここで笑う理由なんて1つもないのに。
「何がおかしいの?」
櫻木がメイクに言う。
もう宮浜は完全に諦めている様子でさらにこっちには能力を無効化できる追人がいて、最強の生徒会長がいる。
ここからの逆転なんかできるはずがない。
そう考えているのはメイクも同じだった。
メイクのその笑いは諦めの笑い声。
頭上を見上げ、何かを悟ったように笑い始めたのだ。
「真子。遅かったみたい。上」
メイクは奏臣に向かってそう言った。
櫻木たちはそのメイクの会長の呼び方に驚愕を覚えた。
突然下の呼び方に変わっている。
奏臣はそれを聞くとあわてて頭上を見上げる。
するとその顔が急激にあせりの表情に変わっているのが分かる。
咲川たちも頭上を見上げるがそこは普段と変わらないが少し珍しい雲ひとつない日本晴れの空が写っているだけで他は何も見えない。
まったく分からない。
ただ1人櫻木だけは驚きの表情を浮かべ
「え?何あれ?」と言っている。
「おーい」
と屋上下から声が聞こえた。
するとシュンと屋上の柵を飛び越えて牙忍が屋上にやってきた。
幽美が牙忍に「あなたは頭上に何か見える?」と聞かれて牙忍も頭上を見上げるが頭に?マークを浮かべるだけで芳しい反応は得られなかった。
そして奏臣が我に返るとすぐに気絶してる異人たちを瞬間移動でどこかへ飛ばした。
それを敵であるメイクが止めようともしない。
「…安全な場所へ飛ばしたが、どうなるか」
奏臣は手をはたきながら言う。
そんな奏臣に牙忍が
「上に何かあるんですか?」
と聞くと奏臣は「あぁ」とため息にも聞こえる声を出し
「最低最悪な展開だ」と答えた。
その意味を牙忍たちは理解できない。
なぜ奏臣とメイクと櫻木にしか見えていないのか。
何が上にあるかはまだ何も分からなかった。
すると
奏臣が突然空を見上げ「ちぃ!」と舌打ちをした。
そこで牙忍たちは何が起きているかしることになる。
空から何か強大なものが落ちてきていた。
それは例えるならば光線のようなもの。
落ちてくる威圧で感じる威力は確実にここら一体は吹き飛ぶ威力。
何故直前まで気づけなかったかは分からない。
光線の影響で辺りが昼にもかかわらず夕焼け色に染まる。
突然、奏臣が高くジャンプをする。
その瞬間。
背中から白い天使の翼がバサァと展開された。
しかしその翼は右翼しか存在していない。
その不安定な右翼のまま天使の翼をはためかせ光線に向かって飛んでいってしまった。
光線はまだ大気圏付近。
奏臣はそこまで飛んでいった。
「会長に羽?」
櫻木がそう呟く。
少なくとも櫻木が生徒会に入ったときからそんな姿は見たことがない。
それは櫻木以外の生徒会員も同じだった。
「びっくりした?」
呆然とする櫻木たちに声をかけたのはメイク。
そして背中からメイクも天使の翼が展開されていた。
それは左翼。
「何が起きてるの?」
櫻木がメイクに向かって聞いた。
だがメイクはメイクの口に指を当て押さえ、
「それは後で」と言った。
その瞬間、頭上の光線が弾けて爆発四散した。
光線の欠片はすぐに消えて地上に被害が加わることもない。
まだ何が起きているか理解できていない櫻木たち。
これが始まり。

「…何が聞きたい?」
生徒会室で奏臣が生徒会長席に座りながら、目の前にあるソファに座っている生徒会メンバーに聞く。
奏臣の後ろにはメイクも立っていて2人の姿は逆光で見えづらい。
「全部教えて下さい。羽のことも過去のことも」
牙忍がそう奏臣に聞く。
そこでメイクが奏臣に「あれ黒山くんは過去のこと話してないの?」と聞いてきた。
奏臣は苦い顔をして「…お前あいつに話してたのか。まぁいいが」と返す。
そして牙忍の質問に咳払いしてから答える。
「…私たちは異人でも、そもそもこの世の人間でもない。元の居場所を捨てて堕ちてきた四大天使のうちの1人だ」
その時点で話についていけていない。
生徒会全員混乱する頭を整理して話を聞き続ける。
「…そもそも異人は偶然生まれた奇跡の人種なんて大層なものじゃない。そうだな櫻木。異人の強さはどうやって決まるかは知っているか?」
そこで奏臣は櫻木に話を振る。
櫻木は突然話を振られ、慌てながら答える。
「えーとガソリンみたいなものの多さでしたっけ?」
「…あぁそうだ。それが異人の能力の源。名前は『奇跡』。それがなければ能力を振るえない。多さによって力が変わってくる。そして私はそのガソリンがほぼ無限に存在している」
それも前に聞いたことがある。
奏臣はまさに別次元の強さの存在だと。
「…それは何故か」
そこで言葉を区切る。
ゆっくり続きを話し始める。
「…その奇跡が天使が力を振るうために必要なものだからだ」
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