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研究者
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7章
ホッカホカどころじゃない鉄板のような表面温度をした咲川を灼熱の外からマッハで一旦家に連れて帰り、まず咲川を自分の布団を敷いて寝かせ、冷蔵庫を開け中から冷やした水(夏はこれめっちゃ良い)が入ったコップを取り出し咲川に飲ませ、扇風機を点けて体を冷やす。咲川は意識が朦朧としているようで水を飲むのにもフラフラして水をコップからこぼしそうになっている。水を飲むとパタリと咲川はパタリと倒れた。黒山は一瞬ビックリしたがよく見ると息はしているようなので寝たようだった。
黒山は一息つき、台所まで歩くと、冷蔵庫から予備用の冷やした水を取り出し一気に飲む。
飲み干したコップを洗って乾かし棚に置いたところで寝ている咲川を見る。
「しっかし、こいつが完全引きこもりタイプのもやし人間だとしてもここまでなるのはおかしいよなぁ」
さらに言えば自分の家でなく俺に付いてきたのかも謎だ。
一瞬頭に「組織」という言葉が浮かんだがそれだったら既に死んでいると思うので多分ないだろう。そういえばキングって今どうなってるんだろう。まだ学校に囚われてんのかな。
そこで黒山のポケットに入っている携帯が鳴った。取り出して、黒山が表示を確認すると書いてあったのは生徒会長という文字だった。
会長がわざわざ電話してくるなんて珍しい。あの人話し全部口頭でやる主義があるから電話なんてそうそうかかってこないのに。
はいもしもし。と黒山が応答すると表示通り会長の声が聞こえてきた。
「…黒山、私は明日少し野暮用がある。そのため学校を一日休ませてもらう。明日一日だけ代理生徒会長として頑張ってくれ。ちなみにこの会話は自動的に録音されるようになっている。他の生徒会の奴らにも聞かせてやれ。以上だ」
「切る前に一個、俺のところに瀕死の咲川が来たんですけど何があったか知りませんか?」
「知らないな」
あっさり言われたなおい。
「…そしたら、一日だけ面倒を見てやってくれ。その声の様子だと大事には至っていないんだろう。…来たんですけどということは今お前の家に咲川が上がっているんだな?」
「はい、えぇそうですけど何か問題でも?」
すると会長の声がくぐもったような声に変わり憐れむように一言。
「…色々と気をつけろよ」
そこでぷつりと電話が切れた。
会長の言っている意味がわからず携帯からツーツーと流れてくる機械的な電子音を聞きながら、黒山は寝ている咲川のほうを見る。
「こいつを狙うやつに気をつけろっていうことかな」
咲川は異人としての能力で頭の回転がものすごく早い、さらにその能力を生かして科学をほぼ完全にマスターしている。その能力を買われて生徒会に入ったという話を会長から聞いたことがある。その知識を溜め込まれた頭脳にどれだけの価値があるのか、俺には全く見当がつかない。それを狙うやつも出てくるだろう。
そう考え、自分の頬を叩き気合を入れる。
とりあえず起きるまで待つか、と思い台所に移動する。
咲川あの様子だとお腹も減っているだろう。思い切り美味しものを作ってやる。そう意気込み冷蔵庫をバーンと開ける。しかし中にはコップに入った冷えた水と必要最低限の調味料しか入っていなかった。
こういうときに限って…。黒山は冷蔵庫の前に立ち尽くす。そして周りを見渡し食べるものがないか目視で探してみる。
するとある1つのものが黒山の目に止まった。それは台所の上にあるドアが開けっぱの物置の中にあった。黒山は冷蔵庫横の壁との隙間に置いてある脚立を取り出し、ドアが開けっぱの物置の下に置く。そして脚立に登ってその1つのものを手に取る。
それは缶パッケージに包まれた乾パンだった。非常食用の。
パッケージをぐるっと見て消費期限を確認すると二日前の日付が書いてあった。
「2日ぐらい…いやいやいや、一応焼いて何かしらの味をつけよう。醤油とか合うのかなぁ」
そんなこんなでフライパンを取り出し、乾パンをザラ~と流して軽く炒め、そこに醤油を適量入れまた軽く炒める。で、出来上がったのが乾パン醤油風味。
見た目は普通の乾パンに少し黒要素が入った感じでテカテカしてて美味しそうだ。匂いも醤油の匂いがして、あのよく売ってる醤油せんべいみたいな感じがする。
その醤油せんべいもどきを下に模様付きキッチンペーパーを敷きそれっぽく皿に盛り付けて完成。
本当なら買い物に行って何かを買ってくるのが咲川にとって良いのだろうが会長から気をつけろよと言われているため、咲川が寝てる時に外に出るのは気が引けるのでこれで我慢してもらうしかない。
それから大体二時間後、外が黒に染まり始めた時に咲川が目を覚ました。この時間に女の子を家に上がらせるのはどうかと自分でも思う。起きなかったし仕方ないよな。
「う…うん?あ…れ?ここどこ…?」
「おっすー、目覚ましたか。まぁまず水でも飲んどけよ」
そう言って俺が差し出した水を咲川が手に取りごくごくとゆっくり飲んでいく。ついでにさっき作った醤油せんべいもどきも咲川の直ぐ側に置いてあるちゃぶ台に置いて咲川からなぜこっちに来たのか、なぜ倒れたのかについて話を聞くことにした。
「えっと、学校でいつもどおり実験してたら先生からお前何やってんだ!って怒鳴られちゃって…言われるがまま外に出ちゃって…実は自分の家の鍵も…失くしちゃってて。あの学校を住むところにしてたんですね…だからどうしていいかわからなくてお腹も空いたままどうしよう…ってなってたら黒山くんが見えたから相談乗って欲しいって思って追ってきてたんです…」
「ちょっと待て軽く流されてるが家の鍵がないっていうのはどういうことか詳しく」
「えっと…今まで黙ってたんですけど…実験してる時に間違えて薬品に漬けちゃって…そのまま溶けちゃったんですね…それで家の鍵がなくてあの学校に住んでたんです…」
その薬品絶対やばいやつだろ。鍵が溶けるとかもう学校で勝手に使っていい薬品じゃないって。
「鍵がないことは会長も知ってるのか?」
そう聞くと咲川は首をブンブンと振って
「そんなこと言えるわけ…恥ずかしいし…それにこれ以上あの人に迷惑かけるわけには…」
なにか深い事情でもあるのかな。
ふと窓の外を見るともう既に漆黒で何も見えない。時計を見てみるともう九時を回っていた。もう学校はしまっているだろう。
「今日は俺の家に泊まれよ。泊まるところ無いんだろ?布団は親が来た用のやつを出せばいい」
俺は普通に言ったつもりだったがやはり異性の家で二人きりでというのは引けるのか顔を赤くしながら首を横に振る。ちなみに俺にそんな下心は一切ない。
「でも泊まるところ無いんだろ?」
「そそそそそうですけど!やっぱりあれというか…ほら!朝ごはんとか!作るのめんどくさいでしょ!そしたらどこかのホテルに泊まりに行きますし…」
「今からチェックインできるホテルなんてこの近くにあると思うなよ。おとなしく人の好意を受け入れるんだな」
ううう…何で私が…とほぼ半泣きで呟きながらうつむく咲川を見るとそんなに嫌われてるのか…と俺まで泣けてくるよ。一応このことは後で会長に伝えておこう。
「さて、そうなったら少し買い出しに行ってくる。咲川がようやく起きたから外に出れる。いま冷蔵庫の中空なんだよね。あ、じゃあその間に風呂でも入っておいてくれ。俺が居ないほうが安心できるだろ?」
「正直に言ってしまうとその通りです…。じゃあお言葉に甘えて…」
そう言うと咲川は脱衣所に入っていった。
これで一旦落ち着いたかな。
おっと危ないあいつ着替え持ってないだろ。俺のサイズで悪いけどYシャツでも脱衣所の前に置いておくか。気付けるように紙に詳細を書いて隙間からポイッと。
これで準備万端。買い物へれっつごー。
「…懐かしいな」
奏臣は一人立入禁止のテープが貼られている場所の前に立って、その向こうを見つめていた。その向こうは地平線が広がっておりなにもない。奏臣の後ろには今でも普通に人が生活している住宅街がある。その住宅街の明かりで周りがかろうじて見える。テープを境にあの世とこの世のような違いがある。
かつて奏臣はこの向こうに住んでいた。まだ普通の女の子として。
いつからこんな風に化け物になってしまったのかはもう覚えていない。だが思い出したくもない記憶ということはわかっている。
ふと、気づくと自分の周囲に人が集まっている。だが普通の人達ではない。手には普通の住宅街には似合わないバットやナイフ、更には銃も持っている人たちが全員こっちを見ている。その人だかりの真ん中から仰々しく一人の女が人をかき分けてこっちに近づいてきた。
「久しぶり。奏臣ちゃん」
久しぶり。その言葉に奏臣は反応する。そして振り向いて女の顔を見ると確かにそいつには見覚えがあった。
迎者 澪。奏臣があの学校に入る前まで住んでいた研究所の研究者だ。この能力の特異さで何年か研究所に隔離されていた。その時に私の体をいじくり回していたのがこの迎者だ。しかしこいつは私の体をいじくり回しすぎて手に負えなくなり、脱走した私の責任をとって研究所を追い出されたという話をあの学校に入ってから知った。
そこでピンと思いついた迎者の目的。復讐。
奏臣は確かめるように迎者に聞く。
「…貴様が出てくるということは私を本格的に潰しに来たということで間違いないな?」
「ピンポン、やっぱりあんたは頭の回りが速い。そう、どうしてもあんたは私が殺したくてね」
「…それは自分の望みを実現させるためだろうな」
ふふんと、得意げな顔ををする迎者。だがその顔は一瞬で憎悪の顔に変わった。
「秘術、慈悲無き処刑」
そう言った迎者の手に一本が腕ぐらいの長さのサーベルが二本、両手に現れた。中世の世界に出て来るようなサーベルだ。迎者はそのサーベルをくるくると回しながら言う。
「さてそろそろ私の失敗に決着をつけましょう」
「…秘術を使っているということはわざわざ私を殺すためだけに組織に入ったということか。自分の目的のためなら何でもするな」
その言葉をもう迎者は聞いていない。
回りに居た部下達と迎者が一斉に飛びかかってくる。周りに逃げ場はない。
いつの間に迎者の部下たちに包囲されていたようだ。
一瞬で奏臣の姿が人に埋まれていく。
あの量の人間に一斉に攻め込まれたらいくらあの化け物でも勝てるわけがない。
迎者が集団の真ん中にいる奏臣に声をかける。
「数の力には流石に勝てないでしょ。あんたの能力、調べた時に全部知り尽くしてんのよ。それにあんたの武器はその異常な身体能力がメインでしょ。それだけじゃ、大量の人間は倒せないわよ」
「…私を見くびりすぎだ」
すぐに集団の中から聞きいたことがある声が聞こえた。迎者の部下たちの声ではない。
部下たちの集団の中から奏臣が迎者の部下を倒しながらこっちに向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。誰一人として奏臣に触れられていない。奏臣が近づいてくるだけで倒れていく。
絶対の王の歩み。
「…知り尽くしているわけないだろう。私は全部の能力を貴様に見せていない」
「そんなはず…。肉眼だけじゃない…機械でもあんたの体は見た!でも何もなかった!今更他の能力があるなんて信じられるもんですか!」
「…信じる信じないの話じゃないのだがな…」
最後の一人の部下が倒れた。その瞬間に迎者が動いた。
「確実に息の根を止めるため首を斬る!サーベルで両方から首を狙ってしまえば何も持ってないあんたはかんたんに殺せる!迎車はそう思っていた。
超高速で動き始める迎者。その動きは目に見えないほどのスピードだ。
そのスピードであるにも関わらずその奏臣の声は鮮明に耳に入ってきた。
「確か秘術の基本的な恩恵だっただろうが。その程度の速度では私は斬れない。たかが秘術だ」
迎者が急いで首を斬ろうと奏臣の首にサーベルを掛ける。
だが、ガキン!という音とともにサーベルは阻まれた。見るとどこかから現れた刀が奏臣の手に握られていて奏臣の首とサーベルの間に挟まっている。もう一度力を入れたがびくとも動かない。さらにビキッとサーベルにヒビが入った。
武器もチャンスを無くした迎者の顔が真っ青に染まっていく。
対して奏臣は立ち姿変わらず、刀をどこかから出した鞘にしまいながら普段とは違う少し砕けた口調で言う。
「…貴様も嫌いじゃなかったんだけどね。殺しはしないよ。…だが次私の部下を狙うのなら躊躇なく殺す。忘れるな」
最後は生徒会長奏臣として言った言葉だろう。
まさか、あのアパートに送ったあいつらのことも知っているというの…。そんな…嘘よ…。
自分の計画のすべてを破壊されへなへなと座り込む迎者。
その姿を尻目に奏臣は最強としてその場を去っていった。
ホッカホカどころじゃない鉄板のような表面温度をした咲川を灼熱の外からマッハで一旦家に連れて帰り、まず咲川を自分の布団を敷いて寝かせ、冷蔵庫を開け中から冷やした水(夏はこれめっちゃ良い)が入ったコップを取り出し咲川に飲ませ、扇風機を点けて体を冷やす。咲川は意識が朦朧としているようで水を飲むのにもフラフラして水をコップからこぼしそうになっている。水を飲むとパタリと咲川はパタリと倒れた。黒山は一瞬ビックリしたがよく見ると息はしているようなので寝たようだった。
黒山は一息つき、台所まで歩くと、冷蔵庫から予備用の冷やした水を取り出し一気に飲む。
飲み干したコップを洗って乾かし棚に置いたところで寝ている咲川を見る。
「しっかし、こいつが完全引きこもりタイプのもやし人間だとしてもここまでなるのはおかしいよなぁ」
さらに言えば自分の家でなく俺に付いてきたのかも謎だ。
一瞬頭に「組織」という言葉が浮かんだがそれだったら既に死んでいると思うので多分ないだろう。そういえばキングって今どうなってるんだろう。まだ学校に囚われてんのかな。
そこで黒山のポケットに入っている携帯が鳴った。取り出して、黒山が表示を確認すると書いてあったのは生徒会長という文字だった。
会長がわざわざ電話してくるなんて珍しい。あの人話し全部口頭でやる主義があるから電話なんてそうそうかかってこないのに。
はいもしもし。と黒山が応答すると表示通り会長の声が聞こえてきた。
「…黒山、私は明日少し野暮用がある。そのため学校を一日休ませてもらう。明日一日だけ代理生徒会長として頑張ってくれ。ちなみにこの会話は自動的に録音されるようになっている。他の生徒会の奴らにも聞かせてやれ。以上だ」
「切る前に一個、俺のところに瀕死の咲川が来たんですけど何があったか知りませんか?」
「知らないな」
あっさり言われたなおい。
「…そしたら、一日だけ面倒を見てやってくれ。その声の様子だと大事には至っていないんだろう。…来たんですけどということは今お前の家に咲川が上がっているんだな?」
「はい、えぇそうですけど何か問題でも?」
すると会長の声がくぐもったような声に変わり憐れむように一言。
「…色々と気をつけろよ」
そこでぷつりと電話が切れた。
会長の言っている意味がわからず携帯からツーツーと流れてくる機械的な電子音を聞きながら、黒山は寝ている咲川のほうを見る。
「こいつを狙うやつに気をつけろっていうことかな」
咲川は異人としての能力で頭の回転がものすごく早い、さらにその能力を生かして科学をほぼ完全にマスターしている。その能力を買われて生徒会に入ったという話を会長から聞いたことがある。その知識を溜め込まれた頭脳にどれだけの価値があるのか、俺には全く見当がつかない。それを狙うやつも出てくるだろう。
そう考え、自分の頬を叩き気合を入れる。
とりあえず起きるまで待つか、と思い台所に移動する。
咲川あの様子だとお腹も減っているだろう。思い切り美味しものを作ってやる。そう意気込み冷蔵庫をバーンと開ける。しかし中にはコップに入った冷えた水と必要最低限の調味料しか入っていなかった。
こういうときに限って…。黒山は冷蔵庫の前に立ち尽くす。そして周りを見渡し食べるものがないか目視で探してみる。
するとある1つのものが黒山の目に止まった。それは台所の上にあるドアが開けっぱの物置の中にあった。黒山は冷蔵庫横の壁との隙間に置いてある脚立を取り出し、ドアが開けっぱの物置の下に置く。そして脚立に登ってその1つのものを手に取る。
それは缶パッケージに包まれた乾パンだった。非常食用の。
パッケージをぐるっと見て消費期限を確認すると二日前の日付が書いてあった。
「2日ぐらい…いやいやいや、一応焼いて何かしらの味をつけよう。醤油とか合うのかなぁ」
そんなこんなでフライパンを取り出し、乾パンをザラ~と流して軽く炒め、そこに醤油を適量入れまた軽く炒める。で、出来上がったのが乾パン醤油風味。
見た目は普通の乾パンに少し黒要素が入った感じでテカテカしてて美味しそうだ。匂いも醤油の匂いがして、あのよく売ってる醤油せんべいみたいな感じがする。
その醤油せんべいもどきを下に模様付きキッチンペーパーを敷きそれっぽく皿に盛り付けて完成。
本当なら買い物に行って何かを買ってくるのが咲川にとって良いのだろうが会長から気をつけろよと言われているため、咲川が寝てる時に外に出るのは気が引けるのでこれで我慢してもらうしかない。
それから大体二時間後、外が黒に染まり始めた時に咲川が目を覚ました。この時間に女の子を家に上がらせるのはどうかと自分でも思う。起きなかったし仕方ないよな。
「う…うん?あ…れ?ここどこ…?」
「おっすー、目覚ましたか。まぁまず水でも飲んどけよ」
そう言って俺が差し出した水を咲川が手に取りごくごくとゆっくり飲んでいく。ついでにさっき作った醤油せんべいもどきも咲川の直ぐ側に置いてあるちゃぶ台に置いて咲川からなぜこっちに来たのか、なぜ倒れたのかについて話を聞くことにした。
「えっと、学校でいつもどおり実験してたら先生からお前何やってんだ!って怒鳴られちゃって…言われるがまま外に出ちゃって…実は自分の家の鍵も…失くしちゃってて。あの学校を住むところにしてたんですね…だからどうしていいかわからなくてお腹も空いたままどうしよう…ってなってたら黒山くんが見えたから相談乗って欲しいって思って追ってきてたんです…」
「ちょっと待て軽く流されてるが家の鍵がないっていうのはどういうことか詳しく」
「えっと…今まで黙ってたんですけど…実験してる時に間違えて薬品に漬けちゃって…そのまま溶けちゃったんですね…それで家の鍵がなくてあの学校に住んでたんです…」
その薬品絶対やばいやつだろ。鍵が溶けるとかもう学校で勝手に使っていい薬品じゃないって。
「鍵がないことは会長も知ってるのか?」
そう聞くと咲川は首をブンブンと振って
「そんなこと言えるわけ…恥ずかしいし…それにこれ以上あの人に迷惑かけるわけには…」
なにか深い事情でもあるのかな。
ふと窓の外を見るともう既に漆黒で何も見えない。時計を見てみるともう九時を回っていた。もう学校はしまっているだろう。
「今日は俺の家に泊まれよ。泊まるところ無いんだろ?布団は親が来た用のやつを出せばいい」
俺は普通に言ったつもりだったがやはり異性の家で二人きりでというのは引けるのか顔を赤くしながら首を横に振る。ちなみに俺にそんな下心は一切ない。
「でも泊まるところ無いんだろ?」
「そそそそそうですけど!やっぱりあれというか…ほら!朝ごはんとか!作るのめんどくさいでしょ!そしたらどこかのホテルに泊まりに行きますし…」
「今からチェックインできるホテルなんてこの近くにあると思うなよ。おとなしく人の好意を受け入れるんだな」
ううう…何で私が…とほぼ半泣きで呟きながらうつむく咲川を見るとそんなに嫌われてるのか…と俺まで泣けてくるよ。一応このことは後で会長に伝えておこう。
「さて、そうなったら少し買い出しに行ってくる。咲川がようやく起きたから外に出れる。いま冷蔵庫の中空なんだよね。あ、じゃあその間に風呂でも入っておいてくれ。俺が居ないほうが安心できるだろ?」
「正直に言ってしまうとその通りです…。じゃあお言葉に甘えて…」
そう言うと咲川は脱衣所に入っていった。
これで一旦落ち着いたかな。
おっと危ないあいつ着替え持ってないだろ。俺のサイズで悪いけどYシャツでも脱衣所の前に置いておくか。気付けるように紙に詳細を書いて隙間からポイッと。
これで準備万端。買い物へれっつごー。
「…懐かしいな」
奏臣は一人立入禁止のテープが貼られている場所の前に立って、その向こうを見つめていた。その向こうは地平線が広がっておりなにもない。奏臣の後ろには今でも普通に人が生活している住宅街がある。その住宅街の明かりで周りがかろうじて見える。テープを境にあの世とこの世のような違いがある。
かつて奏臣はこの向こうに住んでいた。まだ普通の女の子として。
いつからこんな風に化け物になってしまったのかはもう覚えていない。だが思い出したくもない記憶ということはわかっている。
ふと、気づくと自分の周囲に人が集まっている。だが普通の人達ではない。手には普通の住宅街には似合わないバットやナイフ、更には銃も持っている人たちが全員こっちを見ている。その人だかりの真ん中から仰々しく一人の女が人をかき分けてこっちに近づいてきた。
「久しぶり。奏臣ちゃん」
久しぶり。その言葉に奏臣は反応する。そして振り向いて女の顔を見ると確かにそいつには見覚えがあった。
迎者 澪。奏臣があの学校に入る前まで住んでいた研究所の研究者だ。この能力の特異さで何年か研究所に隔離されていた。その時に私の体をいじくり回していたのがこの迎者だ。しかしこいつは私の体をいじくり回しすぎて手に負えなくなり、脱走した私の責任をとって研究所を追い出されたという話をあの学校に入ってから知った。
そこでピンと思いついた迎者の目的。復讐。
奏臣は確かめるように迎者に聞く。
「…貴様が出てくるということは私を本格的に潰しに来たということで間違いないな?」
「ピンポン、やっぱりあんたは頭の回りが速い。そう、どうしてもあんたは私が殺したくてね」
「…それは自分の望みを実現させるためだろうな」
ふふんと、得意げな顔ををする迎者。だがその顔は一瞬で憎悪の顔に変わった。
「秘術、慈悲無き処刑」
そう言った迎者の手に一本が腕ぐらいの長さのサーベルが二本、両手に現れた。中世の世界に出て来るようなサーベルだ。迎者はそのサーベルをくるくると回しながら言う。
「さてそろそろ私の失敗に決着をつけましょう」
「…秘術を使っているということはわざわざ私を殺すためだけに組織に入ったということか。自分の目的のためなら何でもするな」
その言葉をもう迎者は聞いていない。
回りに居た部下達と迎者が一斉に飛びかかってくる。周りに逃げ場はない。
いつの間に迎者の部下たちに包囲されていたようだ。
一瞬で奏臣の姿が人に埋まれていく。
あの量の人間に一斉に攻め込まれたらいくらあの化け物でも勝てるわけがない。
迎者が集団の真ん中にいる奏臣に声をかける。
「数の力には流石に勝てないでしょ。あんたの能力、調べた時に全部知り尽くしてんのよ。それにあんたの武器はその異常な身体能力がメインでしょ。それだけじゃ、大量の人間は倒せないわよ」
「…私を見くびりすぎだ」
すぐに集団の中から聞きいたことがある声が聞こえた。迎者の部下たちの声ではない。
部下たちの集団の中から奏臣が迎者の部下を倒しながらこっちに向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。誰一人として奏臣に触れられていない。奏臣が近づいてくるだけで倒れていく。
絶対の王の歩み。
「…知り尽くしているわけないだろう。私は全部の能力を貴様に見せていない」
「そんなはず…。肉眼だけじゃない…機械でもあんたの体は見た!でも何もなかった!今更他の能力があるなんて信じられるもんですか!」
「…信じる信じないの話じゃないのだがな…」
最後の一人の部下が倒れた。その瞬間に迎者が動いた。
「確実に息の根を止めるため首を斬る!サーベルで両方から首を狙ってしまえば何も持ってないあんたはかんたんに殺せる!迎車はそう思っていた。
超高速で動き始める迎者。その動きは目に見えないほどのスピードだ。
そのスピードであるにも関わらずその奏臣の声は鮮明に耳に入ってきた。
「確か秘術の基本的な恩恵だっただろうが。その程度の速度では私は斬れない。たかが秘術だ」
迎者が急いで首を斬ろうと奏臣の首にサーベルを掛ける。
だが、ガキン!という音とともにサーベルは阻まれた。見るとどこかから現れた刀が奏臣の手に握られていて奏臣の首とサーベルの間に挟まっている。もう一度力を入れたがびくとも動かない。さらにビキッとサーベルにヒビが入った。
武器もチャンスを無くした迎者の顔が真っ青に染まっていく。
対して奏臣は立ち姿変わらず、刀をどこかから出した鞘にしまいながら普段とは違う少し砕けた口調で言う。
「…貴様も嫌いじゃなかったんだけどね。殺しはしないよ。…だが次私の部下を狙うのなら躊躇なく殺す。忘れるな」
最後は生徒会長奏臣として言った言葉だろう。
まさか、あのアパートに送ったあいつらのことも知っているというの…。そんな…嘘よ…。
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義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
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