40 / 47
手配書の存在
しおりを挟む
隣町に向かう馬車は、いつものようにゆっくりしたペースで進んだ。隣町までの需要は多いから一日に三往復は馬車が出るのだが、今回の馬は年を取って引退間際の老馬だったのだ。
ちなみに馬とは言っても、元の世界の馬に比べて足は太くて毛も長い。違和感ありまくりなのだが、皆が馬だと言うからどうしようもない。全ての物について、同じような感じだ。元よりこちらと言葉が通じるのが不思議なのだが、そこはもう考えないようにしていた。考えたところで答えが見つかりようもないと気が付いたからだ。
馬車に揺られながら理緒は、この世界に思いを馳せた。気が付けば二年近くこの世界にいた事になる。それは教育を受けてから気が付いた事で、それまでの理緒は暦すらも理解していなかったのだ。実際、これまでの生活では、せいぜい一月先のことがわかれば事足りたため、理緒はあまり気にしていなかった。この世界では一季節で一月と数えていて、一年は4ヵ月、一月が100日、一週は10日だとか、一日は20の時間に分かれていて、朝が一日の始まりだとか、微妙に違いがあるのはわかった。
それでも空は青いし、人は同じような見た目だ。魔術や魔獣や魔蟲がいるのは大きく違うが、平民として暮らしていれば魔術とは無縁だし、魔獣や魔蟲も猛獣や毒虫だと思えば違和感は少なかった。
元の世界に戻りたいが、そもそも自分と同じ境遇の人がいるのかもわからない。いるならぜひ帰れるかどうか聞いてみたいとは思うが、今のところその手の話は聞かない。時々店の客相手にそれとなく、寄っている時に冗談交じりで話を振ってみたが、それに対して期待できるような話は一つもなかった。
隣町に着いた理緒は、まずは頼まれた用事を終わらせるべくロイの店に向かった。ロイの店は乗合馬車の停車場から歩いて十分ほどの大通りに面していた。いわゆる八百屋のような店で、まだ開店準備中らしく、客は誰もいなかった。
「こんにちは…」
まだ早かっただろうかと思いながらドアを開けると、ちょうどそこにはこの店の主であるロイと、二人の冒険者がいた。
「ああ、エステルさんとこの…あ~ちょっと待っとくれ」
「え?あ、はい」
どうやら冒険者との話が終わるまでは待たなきゃいけないらしい。理緒は大人しく店の端に寄ってロイの用事が終わるのを待った。
「それじゃ、頼んだよ、ロイ」
「ああ、だが張っておくだけだぞ。探しはせんからな。商売が忙しいんだから」
「分かってるって。でも、見つけたら教えてくれよ」
「はいよ」
そう言うと冒険者の男たちは、嬢ちゃん、悪かったな、と理緒に声をかけて行ってしまった。どうやら用事は済んだらしい。
「待たせたね、嬢ちゃん」
「あ、はい、サラです。今日はまた息子さん達の品物を…」
「はいよ。相変わらずエルテルは過保護だねぇ…」
「それ、乗合馬車のおじさんにも言われました」
「やっぱりね。まぁ、旦那が死んじまったからしょうがねぇよな」
エステルと幼馴染だというロイは、どうやらエステルの夫とも知り合いだったらしい。会話の端々にそれを感じて、ロイがエステルを気にかけているのがよく伝わってきた。エステルに言わせるとロイは喧嘩仲間だったというが、ロイはそうじゃないようにも見えた。多分ロイはエステルが好きだったのだろう。
「ああ、そう言えば嬢ちゃんはこんな顔は知らないかい?」
そう言ってロイが見せたのは、尋ね人の紙だった。ロイはさっきいた冒険者が置いていったんだが、この娘を探しているのだという。理緒はその紙を見て、思わず息を詰めた。そこに書かれていた特徴は、どう考えても自分だったからだ。
「これは…」
「ああ、何でもお隣の領主様が人を探しているらしいよ。わざわざ隣の領地まで回ってくるなんて滅多にないんだけどねぇ…そう言えばサラの知り合いにはいないかい?どうやら同じような年ごろだけど」
「…いえ、知り合いでは、ちょっと…」
理緒はそう答えるのが精いっぱいだったが、ここに記されている特徴は確実に自分の事だろうと思った。髪の色や目の色だけでなく、髪の長さも年齢も一致するし、名前もリオで合っているのだ。手書きの人相書はあまり似ている様には見えなかったが、特徴と探しているのがあのファレル辺境伯なのだ。間違い様がなかった。
「そういえばロイさん、この街から出ている乗合馬車で王都って行けるの?」
「王都?何でまた?」
「うん、私が以前お世話になった人が王都にいるって噂を聞いて…簡単に行ける距離なのかなぁって」
「そうかい。まぁ、ここからだと隣のギラン伯爵様のとこのハーリーって街まで行って乗り換えすればいけるよ。そうだなぁ…最低でも十日はかかるかな」
「そっかぁ…結構遠いんだね」
「まぁ、ここは辺境だからね。でも、行くならしっかりした準備が必要だよ」
「そっか、ありがとう。また考えてみる」
「そうしな。何ならエステルに聞くと言い。あいつは昔、暫くだったが王都にいたからな」
「そうなの?」
「ああ。亡くなった旦那と知り合ったのも王都だったって言うしな」
エステルが王都にいたとは知らなかった、どうせならもっと話を聞いておけばよかったと思った理緒だったが、時すでに遅しだ。ここにまで手配書が回っているなら、戻るのも危険な気がする。理緒は焦る気持ちを抑えながら、停車場に向かった。
ちなみに馬とは言っても、元の世界の馬に比べて足は太くて毛も長い。違和感ありまくりなのだが、皆が馬だと言うからどうしようもない。全ての物について、同じような感じだ。元よりこちらと言葉が通じるのが不思議なのだが、そこはもう考えないようにしていた。考えたところで答えが見つかりようもないと気が付いたからだ。
馬車に揺られながら理緒は、この世界に思いを馳せた。気が付けば二年近くこの世界にいた事になる。それは教育を受けてから気が付いた事で、それまでの理緒は暦すらも理解していなかったのだ。実際、これまでの生活では、せいぜい一月先のことがわかれば事足りたため、理緒はあまり気にしていなかった。この世界では一季節で一月と数えていて、一年は4ヵ月、一月が100日、一週は10日だとか、一日は20の時間に分かれていて、朝が一日の始まりだとか、微妙に違いがあるのはわかった。
それでも空は青いし、人は同じような見た目だ。魔術や魔獣や魔蟲がいるのは大きく違うが、平民として暮らしていれば魔術とは無縁だし、魔獣や魔蟲も猛獣や毒虫だと思えば違和感は少なかった。
元の世界に戻りたいが、そもそも自分と同じ境遇の人がいるのかもわからない。いるならぜひ帰れるかどうか聞いてみたいとは思うが、今のところその手の話は聞かない。時々店の客相手にそれとなく、寄っている時に冗談交じりで話を振ってみたが、それに対して期待できるような話は一つもなかった。
隣町に着いた理緒は、まずは頼まれた用事を終わらせるべくロイの店に向かった。ロイの店は乗合馬車の停車場から歩いて十分ほどの大通りに面していた。いわゆる八百屋のような店で、まだ開店準備中らしく、客は誰もいなかった。
「こんにちは…」
まだ早かっただろうかと思いながらドアを開けると、ちょうどそこにはこの店の主であるロイと、二人の冒険者がいた。
「ああ、エステルさんとこの…あ~ちょっと待っとくれ」
「え?あ、はい」
どうやら冒険者との話が終わるまでは待たなきゃいけないらしい。理緒は大人しく店の端に寄ってロイの用事が終わるのを待った。
「それじゃ、頼んだよ、ロイ」
「ああ、だが張っておくだけだぞ。探しはせんからな。商売が忙しいんだから」
「分かってるって。でも、見つけたら教えてくれよ」
「はいよ」
そう言うと冒険者の男たちは、嬢ちゃん、悪かったな、と理緒に声をかけて行ってしまった。どうやら用事は済んだらしい。
「待たせたね、嬢ちゃん」
「あ、はい、サラです。今日はまた息子さん達の品物を…」
「はいよ。相変わらずエルテルは過保護だねぇ…」
「それ、乗合馬車のおじさんにも言われました」
「やっぱりね。まぁ、旦那が死んじまったからしょうがねぇよな」
エステルと幼馴染だというロイは、どうやらエステルの夫とも知り合いだったらしい。会話の端々にそれを感じて、ロイがエステルを気にかけているのがよく伝わってきた。エステルに言わせるとロイは喧嘩仲間だったというが、ロイはそうじゃないようにも見えた。多分ロイはエステルが好きだったのだろう。
「ああ、そう言えば嬢ちゃんはこんな顔は知らないかい?」
そう言ってロイが見せたのは、尋ね人の紙だった。ロイはさっきいた冒険者が置いていったんだが、この娘を探しているのだという。理緒はその紙を見て、思わず息を詰めた。そこに書かれていた特徴は、どう考えても自分だったからだ。
「これは…」
「ああ、何でもお隣の領主様が人を探しているらしいよ。わざわざ隣の領地まで回ってくるなんて滅多にないんだけどねぇ…そう言えばサラの知り合いにはいないかい?どうやら同じような年ごろだけど」
「…いえ、知り合いでは、ちょっと…」
理緒はそう答えるのが精いっぱいだったが、ここに記されている特徴は確実に自分の事だろうと思った。髪の色や目の色だけでなく、髪の長さも年齢も一致するし、名前もリオで合っているのだ。手書きの人相書はあまり似ている様には見えなかったが、特徴と探しているのがあのファレル辺境伯なのだ。間違い様がなかった。
「そういえばロイさん、この街から出ている乗合馬車で王都って行けるの?」
「王都?何でまた?」
「うん、私が以前お世話になった人が王都にいるって噂を聞いて…簡単に行ける距離なのかなぁって」
「そうかい。まぁ、ここからだと隣のギラン伯爵様のとこのハーリーって街まで行って乗り換えすればいけるよ。そうだなぁ…最低でも十日はかかるかな」
「そっかぁ…結構遠いんだね」
「まぁ、ここは辺境だからね。でも、行くならしっかりした準備が必要だよ」
「そっか、ありがとう。また考えてみる」
「そうしな。何ならエステルに聞くと言い。あいつは昔、暫くだったが王都にいたからな」
「そうなの?」
「ああ。亡くなった旦那と知り合ったのも王都だったって言うしな」
エステルが王都にいたとは知らなかった、どうせならもっと話を聞いておけばよかったと思った理緒だったが、時すでに遅しだ。ここにまで手配書が回っているなら、戻るのも危険な気がする。理緒は焦る気持ちを抑えながら、停車場に向かった。
2
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない
みん
恋愛
精霊に護られた国ルテリアル。精霊の加護のお陰で豊かで平和な国ではあったが、近年ではその精霊の加護も薄れていき、他国から侵略されそうになる。戦いを知らない国王は、スネフリング帝国に助けを求めるが、その見返りに要求されたのは──。
精霊に護られた国の王女として生まれたにも関わらず、魔力を持って生まれなかった事で、母である王妃以外から冷遇されているカミリア第二王女。このカミリアが、人質同然にスネフリング帝国に行く事になり─。
❋独自設定有り。
❋誤字脱字には気を付けていますが、あると思います。すみません。気付き次第修正していきます。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる