子守を引き受けただけなのに、その保護者から不審者扱いされています

四葉るり猫

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泣く子には勝てない…

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「うぎゃああああああぁぁぁ…!」

 自警団の建物に響き渡ったのは、幼児の泣き叫ぶ声だった。あまりにも大きな声に、道行く人までもが何事かと怪訝な表情で建物に視線を向けたほどだ。この部屋にいる者も全員、あまりの泣き声の大きさに手で耳を塞いていた。

「ル、ルイ様…」

 事情聴取もルイの身体のチェックも終わったので、いざ解散、とばかりにマシューがルイを抱き上げようとした瞬間、ルイは瞬間湯沸かし器のように盛大に泣きだした。あまりの泣き様に一瞬怯んだマシューだが、気を取り直してさぁ、ルイ様帰りますよ、と話しかけながらルイを抱き上げようとした。しかしルイは大音量で泣きながら、理緒にがっつりしがみ付いて微動だにしなかった。

 一方、抱き付かれた理緒もこの状況に戸惑った。先ほどから窓の外が暗くなってきたのが目に入り、早く帰りたかったからだ。治安が悪いこの世界では、暗くなってからは外を歩きたくなかった。ルイのためにも早く帰った方がいいだろう。

 しかし、理緒のそんな願いも虚しく、ルイは理緒にしがみついて離れないし、マシューもおろおろするばかりでお手上げ状態だった。世話係なのだからしっかりしてよ…と思うのだが、理緒の思いに反して事態は好転しそうになかった。自警団の人も、看護助手の女性も、ため息をつきながら眺めるだけだ。

「あの~そろそろ帰りたいので、ルイ君連れて帰って貰ってもいいですか?」

 さすがにいつまでもこの状態でいるのも困る。今日は一日中森で薬草採取をしていたのだ。汗もかいたから身体を清めたいし、怪我もしたから薬を塗っておきたいし、何よりも疲れたから早く休みたい。せっかくの今日一日分の労働で手に入れた夕飯は台無しになったのは大ダメージだが、それ以上に疲労感の方が大きかった。

 理緒が立ち上がろうとしたが、ルイが子泣き爺のように抱き付いて離れなかった。理緒はため息をつくと、幼いルイに話しかけた。

「ルイ君、もう夜になったし、これ以上は危険だからおうちに帰るよ。お腹も空いたでしょ?もうご飯も食べる時間だよ」

 まだ二~三歳と見られるルイの小さな背中を摩りながら、優しく諭すように話かけると、ルイはようやく掴んだ手を緩めておずおずと理緒を見上げた。ずっと泣きっぱなしのせいか顔も目も真っ赤なのが痛々しいが、子供は帰って寝る時間だ。既に外は暗いし、今から帰ってお風呂とご飯をしても、寝るのはかなり遅くなるだろう。

「ね?もう夜だから、おうちに帰ってご飯を食べてお風呂に入って寝ないと。ルイ君みたいなちっちゃな子は夜遅くまで起きてちゃダメなんだよ」

 頭を撫でながらそう話しかけるとルイは手が気持ちいいのか、表情を緩めて気持ちよさそうにしていた。ぷにぷにのほっぺ付きでそんな表情をされると可愛すぎて悶えそうだ。こんな時でもなければ思いっきり可愛がりたいとは思うが、今はその時じゃない。ルイは理緒のいう事は理解できているようで、理緒の目をじっと見つめながら言葉にはしっかり耳を傾けていた。

 ルイが泣き止んだところでそっと抱き上げてやると、ルイは抵抗する事もなく理緒に身をゆだねた。理緒の膝に座らせて笑いかけると、一瞬きょとんとしたが、直ぐににこぉっと笑い返してきた。その笑顔は反則だろうと思うほどに可愛い。さっきは泣いてばかりだったから育てにくい子かとも思ったが、こうしてみるとそういう訳でもなさそうだ。さっきは誘拐された事で気が昂っていたのだろう。
 ひょいと脇の下に手を入れて抱き上げると、理緒はそのまま側にいたマシューにルイを引き渡そうとした。落ち着いた今なら、ルイもマシューの元に戻ると思ったからだ。

「うわあああああぁん!」

 理緒がルイをマシューに渡そうとした瞬間、またルイが泣き出してしまい、事態は振出しに戻ってしまった。今度は理緒の腕をがっしり掴んで離さない。こんな小さな子のどこにそんな力が…と思うほど強かった。服の下に隠れて見えないが、爪を立てられて地味に痛い…
 これくらいの年なら、いい加減泣き疲れて寝ても良さそうなのだが、ルイは頑として寝ようとしなかった。幼児なのにとんでもなく体力があるらしい。こっちの世界の子供がこうなのか、はたまたルイが特別なのかわからないが、朝から何も食べていない理緒の方がいい加減倒れそうだった。何このエンドレス…と理緒の方が根負けしそうだった。

「あ~いっそ理緒も一緒について帰ったらどうだ?」

 その場にいた者の目が声の主に集まった。

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