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二章
奥野家の実態 ※
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「実は…母は料理が苦手なんだ」
「…は?」
奥野の言葉を、花耶は直ぐには消化できなかった。
「だから、うちの母親は料理が出来ないんだよ。昔からいつも買ってきたものや冷食ばっかりだったんだ。来客が来る時は、どこそこのデパートで話題なんだとか言って総菜を出して…高級志向で洒落たイメージで通ってたんだが、実際は料理が出来ないのを隠すためだったんだよ」
「ええ?」
「多分久美も同じだ。高校の頃だったか、母親が熱出した時ですら自分の弁当箱も洗わないって、あいつの母親が嘆いていたからなぁ…未だに実家暮らしだし」
「…そ、うなんですか…」
奥野から告げられた意外な事実に花耶は驚いた。自分の年齢よりも長い主婦歴があるのに料理が出来ない事もそうだし、久美もわざわざ料理をふるまいに来たのだから、それなりに自信があるのだろうと思っていたからだ。
「料理をふるまっていい妻アピールしたかったんだろうが…花耶がぐうの音も出ないくらいに撃退してくれたからな」
「で、でも…何も言われなかったし…」
「あれは何も言わなかったんじゃなく、言えなかったんだよ。花耶の料理があそこまで美味いとは思わなかったんだろうな。料理しないんだから仕方ないが。ま、俺は花耶が料理下手でも全然気にしないけどな」
別に撃退したつもりはないんだけど…と思いながらも、花耶は母親と久美の態度を思い返した。そうか、あれは不味いとか味付けが合わないって言うんじゃないのか…と思うと少しだけ気が楽になった。もっとも、別の意味で反感を買った気がしないでもない。特に久美にとっては思いがけない事で、屈辱的だったのではないだろうか。
「でも…かえって不興を買ってませんか?」
「それなら気にしなくていい。特に久美にはいいけん制になっただろう。この前話をしたから諦めたかと思っていたんだがな…」
「そう…ですか…」
「花耶が気にする必要はない。そもそもあいつが仕事が楽しいなんて、変だと思っていたんだ。昔から勉強嫌いだったし、大学に行ってからは合コンだコンパだと遊びまわっていたから。地元に帰ったのも、一人暮らしだと遊ぶ金がなくなるからだと妹から聞いた。思うように結婚出来なかったから俺の事を思い出したんだろう」
「そうなんですか」
なるほど…彼女は奥野が苦手だと言う類の女性だったのか、と花耶は奥野の久美に対する素っ気ない態度の理由が分かった気がした。奥野は腰かけで仕事をする女性をあまりよく思っていないのはこれまでの態度でも明白だった。辞めていった篠田や橋本などがその最たるものだ。
「母親の事も…あの人は過保護すぎるんだ…俺はそれが嫌で実家を出たんだが…」
「過保護、ですか?」
「ああ、うちは親父が仕事人間だったから家の事はあの人に丸投げで、子供の頃は愚痴ばかり聞かされていたんだ。その頃は子供心に母親を助けたいと思って手伝いなんかもしたんだが…それが悪かったのか、俺ばかり構うようになって…」
そこまで言うと奥野が苦々し気に顔をしかめたが、花耶の視線に気が付くと、表情を緩めて言葉を続けた。
「高校の頃には俺も大人と変わらない背格好になってたが、その頃からおかしくなったんだ…何かと俺を連れまわすようになった。そのうち俺が女友達と一緒にいるのを見かけたらあれは誰だ、何をしていたんだとしつこく聞いてくるようになって…ある時連れに、お前の母親って恋人みたいな態度だよな、って言われて、ああ、そういう事かと…」
「恋人…」
「まぁ、はっきり本人から聞いたわけじゃないが、俺を父親の代わりにしていたんだろうな。それもあって俺は県外の大学に進学したんだ。それでも卒業したら地元に就職しろって騒いで、終いには勝手に入社試験に応募したって言い出すし…さすがにそれは困ると断ったが、そういう事もあって、もうずっと実家には最低限しか近づかないようにしているんだ…」
奥野の話は思いがけないもので、花耶はどう返していいのかわからなかった。ぱっと見はとてもそんな風に見えなかったが、そんな事があったとは…
「でも、じゃ…久美さんは…」
「あれは…多分、俺を手放さないためだろう。俺が久美と結婚すれば、あの人にも久美にもメリットがあるからな。ついでに久美の母親の面倒も俺に被せる気だろう。昔からあの人と久美の母親は仲がよくて、あの人が久美の母に、久美と結婚させて、二人一緒に俺に面倒見て貰おうって言っていたんだ」
「そんな…」
「家を出てから十年経つし、もう諦めたかと思っていたんだが…」
順風満帆に見えた奥野にもそんな事があったのかと、思いがけない告白に花耶は心が揺れるのを感じた。母親の執着に不安を感じる一方、親という最大の味方である存在に勝手に人生を縛られようとしていた事に妙な共感を覚えた。それは母が亡くなった後、祖母の面倒をみなければいけなくなった花耶の立ち位置と似ているように思えたのだ。
「俺は実家に戻る気はないし、久美との結婚なんて御免だ。昔からあの人の子供を差別したり支配するやり方が俺は受け入れられなかった。自分の子をあの人に近づけたくないんだ」
そう告げる奥野は誰かの事を思い浮かべていたのだろうか。痛ましいような、苦しそうなものが滲んだ表情は、奥野の家族への複雑な感情を表しているように見えた。優遇される側の奥野ですら思うところがあるのだから、他の弟妹にも何かがあるのだろう。そしてその原因の多くは、母親にあったのだろう、と花耶は感じた。
「あと…すまない。勝手に実家に行くと言って」
料理の事ですっかり忘れていたが、そう言えば…と花耶は母親が帰り際に何度も言っていたのを思い出した。あんなに何度も頼み込むなんて…しかも花耶も一緒でいいだなんて、どういう事かと思ったのだ。
「私も一緒って…」
「ああ、あの人がそんな風に言うのが気になるんだが…行くと言ってしまったし、すまないが一緒に行ってくれないだろうか?長居はしない。本当に顔を出すだけだ」
奥野は先ほどとは一転して、今度は申し訳なさそうな表情を浮かべた。奥野としては母親に言われての帰省は不本意かもしれないが、その内実家に花耶を紹介したいと言っていたので、嫌というわけではなさそうだった。むしろ紹介できるなら喜んでいきそうに思えた。
「ただ…あの人が花耶も一緒になんて言うのが気になるんだが…」
奥野の言葉に、花耶は自分の引っ掛かりが間違いではなかったとの思いをさらに強めた。行けばアウェー感が強そうであまり行きたいとは思えないが、奥野一人で行かせるのも不安だった。母親と久美がどうしても諦めたとは思えず、表現しようのない不安を感じたのだ。母親と言う最も近しい存在が関わっているだけに、距離をとっていると言う奥野でも、事情によっては情に流されるのではないか…家族のいない花耶はその影響力がどれほどのものかは想像するしか出来なかったが、それでも血の絆は切っても切れないだけに自分に対抗出来るかどうか、欠片も自身がなかったのだ。
「大丈夫です。一緒に…行ってもいいですか?」
「もちろん」
花耶が心もとなげにそう答えると、奥野は表情を綻ばせて力強く答えた。顔を出すだけなら特に何も起きないだろう…と思う。思った以上に訪問が早まったせいで心の準備がまだ出来ていないが、まだ数日ある。その間に奥野に家族の事などを聞けば、準備も自ずと出来るだろう…
「え…ちょ…どこ触って…」
「ん~胸」
「まだ片付け…が…」
「そんなの、後で俺がしておく。今は食後のデザートが食べたい」
「デ、デザート…って…んっ…」
自分の思考に落ちてた花耶だが、急に奥野が胸を揉みだして慌てた。まだ片付けが終わっていないし、ここはキッチンだ。こんなところでやめて欲しいと思うのに、奥野はお構いなしに深く口づけて花耶を味わい始めた。段々深くなる口づけと愛撫に、花耶は抵抗を諦めて身体の力を抜いた。こうなってしまうと花耶が何を言っても奥野を止めるのは無理なことは、短い日数の間で理解したからだ。もっとも、こうして求められる事を困ると思う一方、嬉しく感じる自分もいた。抱き上げられた花耶は、赤くなったであろう顔を奥野の胸にうずめた。
「…んっ…ぁあ…ダメ…ッ…」
「嘘はダメだぞ、花耶。ほら、こんなに締め付けて…」
「ぁあ…やっ…ん…」
奥をぐりぐりと捏ね繰り回す様に刺激され、花耶はその刺激に悶えた。休みに入ってからはちょっとしたタイミングでこうして身体を重ねていたが、その度に花耶の身体はすぐに燃え上がった。以前持っていた性に対する恐怖心や嫌悪感が薄れた事で、前向きに行為を受け入れるようになったが大きかったのだろう。快楽は愛情だと繰り返し教え込まれれば、快楽を拒む事は愛情を拒む事になるため、花耶に逃げ場はなかった。それでも過ぎた快楽は苦しくて、無意識に逃れようとしてしまう。だが、奥野が逃してくれる筈もなかった。
「やぁ…そこ…やぁ…っ…」
奥を淫靡な動きで刺激されながら、奥野の大きな手が豊かなふくらみの先端をねっとりと刺激すると、花耶は背を逸らしながらいやいやと子供のように頭を振った。黒くて真っすぐな髪が白い肌に映えて、より一層男の劣情を誘っているのだが、花耶にはもうそんな余裕はなかった。既に何度もいかされた身体にその刺激は過ぎるもので、もう与えられる刺激以外の事を考える余裕もなかった。大きくて熱い身体も、逃すまいと絡みつくように自分を拘束する手も、自分の中を限界まで押し広げて奥を刺激する雄も、全てが甘い毒となって奥野に縫い留めた。
「…ああ、…俺だけの……いっそ…」
「あ、っ…や、ま…ぁ…ぁあああっ」
何度目かの絶頂は、花耶の限界を超えて襲い掛かった。途切れだした意識の中できつく抱きしめられて、花耶は自分がいつか奥野に食い殺されるように感じた。でもそれは恐怖よりもどこか甘美で魅力的なものにも感じられたが、その感覚を追う前に花耶の意識は薄紫の闇の中に落ちていった。
「…は?」
奥野の言葉を、花耶は直ぐには消化できなかった。
「だから、うちの母親は料理が出来ないんだよ。昔からいつも買ってきたものや冷食ばっかりだったんだ。来客が来る時は、どこそこのデパートで話題なんだとか言って総菜を出して…高級志向で洒落たイメージで通ってたんだが、実際は料理が出来ないのを隠すためだったんだよ」
「ええ?」
「多分久美も同じだ。高校の頃だったか、母親が熱出した時ですら自分の弁当箱も洗わないって、あいつの母親が嘆いていたからなぁ…未だに実家暮らしだし」
「…そ、うなんですか…」
奥野から告げられた意外な事実に花耶は驚いた。自分の年齢よりも長い主婦歴があるのに料理が出来ない事もそうだし、久美もわざわざ料理をふるまいに来たのだから、それなりに自信があるのだろうと思っていたからだ。
「料理をふるまっていい妻アピールしたかったんだろうが…花耶がぐうの音も出ないくらいに撃退してくれたからな」
「で、でも…何も言われなかったし…」
「あれは何も言わなかったんじゃなく、言えなかったんだよ。花耶の料理があそこまで美味いとは思わなかったんだろうな。料理しないんだから仕方ないが。ま、俺は花耶が料理下手でも全然気にしないけどな」
別に撃退したつもりはないんだけど…と思いながらも、花耶は母親と久美の態度を思い返した。そうか、あれは不味いとか味付けが合わないって言うんじゃないのか…と思うと少しだけ気が楽になった。もっとも、別の意味で反感を買った気がしないでもない。特に久美にとっては思いがけない事で、屈辱的だったのではないだろうか。
「でも…かえって不興を買ってませんか?」
「それなら気にしなくていい。特に久美にはいいけん制になっただろう。この前話をしたから諦めたかと思っていたんだがな…」
「そう…ですか…」
「花耶が気にする必要はない。そもそもあいつが仕事が楽しいなんて、変だと思っていたんだ。昔から勉強嫌いだったし、大学に行ってからは合コンだコンパだと遊びまわっていたから。地元に帰ったのも、一人暮らしだと遊ぶ金がなくなるからだと妹から聞いた。思うように結婚出来なかったから俺の事を思い出したんだろう」
「そうなんですか」
なるほど…彼女は奥野が苦手だと言う類の女性だったのか、と花耶は奥野の久美に対する素っ気ない態度の理由が分かった気がした。奥野は腰かけで仕事をする女性をあまりよく思っていないのはこれまでの態度でも明白だった。辞めていった篠田や橋本などがその最たるものだ。
「母親の事も…あの人は過保護すぎるんだ…俺はそれが嫌で実家を出たんだが…」
「過保護、ですか?」
「ああ、うちは親父が仕事人間だったから家の事はあの人に丸投げで、子供の頃は愚痴ばかり聞かされていたんだ。その頃は子供心に母親を助けたいと思って手伝いなんかもしたんだが…それが悪かったのか、俺ばかり構うようになって…」
そこまで言うと奥野が苦々し気に顔をしかめたが、花耶の視線に気が付くと、表情を緩めて言葉を続けた。
「高校の頃には俺も大人と変わらない背格好になってたが、その頃からおかしくなったんだ…何かと俺を連れまわすようになった。そのうち俺が女友達と一緒にいるのを見かけたらあれは誰だ、何をしていたんだとしつこく聞いてくるようになって…ある時連れに、お前の母親って恋人みたいな態度だよな、って言われて、ああ、そういう事かと…」
「恋人…」
「まぁ、はっきり本人から聞いたわけじゃないが、俺を父親の代わりにしていたんだろうな。それもあって俺は県外の大学に進学したんだ。それでも卒業したら地元に就職しろって騒いで、終いには勝手に入社試験に応募したって言い出すし…さすがにそれは困ると断ったが、そういう事もあって、もうずっと実家には最低限しか近づかないようにしているんだ…」
奥野の話は思いがけないもので、花耶はどう返していいのかわからなかった。ぱっと見はとてもそんな風に見えなかったが、そんな事があったとは…
「でも、じゃ…久美さんは…」
「あれは…多分、俺を手放さないためだろう。俺が久美と結婚すれば、あの人にも久美にもメリットがあるからな。ついでに久美の母親の面倒も俺に被せる気だろう。昔からあの人と久美の母親は仲がよくて、あの人が久美の母に、久美と結婚させて、二人一緒に俺に面倒見て貰おうって言っていたんだ」
「そんな…」
「家を出てから十年経つし、もう諦めたかと思っていたんだが…」
順風満帆に見えた奥野にもそんな事があったのかと、思いがけない告白に花耶は心が揺れるのを感じた。母親の執着に不安を感じる一方、親という最大の味方である存在に勝手に人生を縛られようとしていた事に妙な共感を覚えた。それは母が亡くなった後、祖母の面倒をみなければいけなくなった花耶の立ち位置と似ているように思えたのだ。
「俺は実家に戻る気はないし、久美との結婚なんて御免だ。昔からあの人の子供を差別したり支配するやり方が俺は受け入れられなかった。自分の子をあの人に近づけたくないんだ」
そう告げる奥野は誰かの事を思い浮かべていたのだろうか。痛ましいような、苦しそうなものが滲んだ表情は、奥野の家族への複雑な感情を表しているように見えた。優遇される側の奥野ですら思うところがあるのだから、他の弟妹にも何かがあるのだろう。そしてその原因の多くは、母親にあったのだろう、と花耶は感じた。
「あと…すまない。勝手に実家に行くと言って」
料理の事ですっかり忘れていたが、そう言えば…と花耶は母親が帰り際に何度も言っていたのを思い出した。あんなに何度も頼み込むなんて…しかも花耶も一緒でいいだなんて、どういう事かと思ったのだ。
「私も一緒って…」
「ああ、あの人がそんな風に言うのが気になるんだが…行くと言ってしまったし、すまないが一緒に行ってくれないだろうか?長居はしない。本当に顔を出すだけだ」
奥野は先ほどとは一転して、今度は申し訳なさそうな表情を浮かべた。奥野としては母親に言われての帰省は不本意かもしれないが、その内実家に花耶を紹介したいと言っていたので、嫌というわけではなさそうだった。むしろ紹介できるなら喜んでいきそうに思えた。
「ただ…あの人が花耶も一緒になんて言うのが気になるんだが…」
奥野の言葉に、花耶は自分の引っ掛かりが間違いではなかったとの思いをさらに強めた。行けばアウェー感が強そうであまり行きたいとは思えないが、奥野一人で行かせるのも不安だった。母親と久美がどうしても諦めたとは思えず、表現しようのない不安を感じたのだ。母親と言う最も近しい存在が関わっているだけに、距離をとっていると言う奥野でも、事情によっては情に流されるのではないか…家族のいない花耶はその影響力がどれほどのものかは想像するしか出来なかったが、それでも血の絆は切っても切れないだけに自分に対抗出来るかどうか、欠片も自身がなかったのだ。
「大丈夫です。一緒に…行ってもいいですか?」
「もちろん」
花耶が心もとなげにそう答えると、奥野は表情を綻ばせて力強く答えた。顔を出すだけなら特に何も起きないだろう…と思う。思った以上に訪問が早まったせいで心の準備がまだ出来ていないが、まだ数日ある。その間に奥野に家族の事などを聞けば、準備も自ずと出来るだろう…
「え…ちょ…どこ触って…」
「ん~胸」
「まだ片付け…が…」
「そんなの、後で俺がしておく。今は食後のデザートが食べたい」
「デ、デザート…って…んっ…」
自分の思考に落ちてた花耶だが、急に奥野が胸を揉みだして慌てた。まだ片付けが終わっていないし、ここはキッチンだ。こんなところでやめて欲しいと思うのに、奥野はお構いなしに深く口づけて花耶を味わい始めた。段々深くなる口づけと愛撫に、花耶は抵抗を諦めて身体の力を抜いた。こうなってしまうと花耶が何を言っても奥野を止めるのは無理なことは、短い日数の間で理解したからだ。もっとも、こうして求められる事を困ると思う一方、嬉しく感じる自分もいた。抱き上げられた花耶は、赤くなったであろう顔を奥野の胸にうずめた。
「…んっ…ぁあ…ダメ…ッ…」
「嘘はダメだぞ、花耶。ほら、こんなに締め付けて…」
「ぁあ…やっ…ん…」
奥をぐりぐりと捏ね繰り回す様に刺激され、花耶はその刺激に悶えた。休みに入ってからはちょっとしたタイミングでこうして身体を重ねていたが、その度に花耶の身体はすぐに燃え上がった。以前持っていた性に対する恐怖心や嫌悪感が薄れた事で、前向きに行為を受け入れるようになったが大きかったのだろう。快楽は愛情だと繰り返し教え込まれれば、快楽を拒む事は愛情を拒む事になるため、花耶に逃げ場はなかった。それでも過ぎた快楽は苦しくて、無意識に逃れようとしてしまう。だが、奥野が逃してくれる筈もなかった。
「やぁ…そこ…やぁ…っ…」
奥を淫靡な動きで刺激されながら、奥野の大きな手が豊かなふくらみの先端をねっとりと刺激すると、花耶は背を逸らしながらいやいやと子供のように頭を振った。黒くて真っすぐな髪が白い肌に映えて、より一層男の劣情を誘っているのだが、花耶にはもうそんな余裕はなかった。既に何度もいかされた身体にその刺激は過ぎるもので、もう与えられる刺激以外の事を考える余裕もなかった。大きくて熱い身体も、逃すまいと絡みつくように自分を拘束する手も、自分の中を限界まで押し広げて奥を刺激する雄も、全てが甘い毒となって奥野に縫い留めた。
「…ああ、…俺だけの……いっそ…」
「あ、っ…や、ま…ぁ…ぁあああっ」
何度目かの絶頂は、花耶の限界を超えて襲い掛かった。途切れだした意識の中できつく抱きしめられて、花耶は自分がいつか奥野に食い殺されるように感じた。でもそれは恐怖よりもどこか甘美で魅力的なものにも感じられたが、その感覚を追う前に花耶の意識は薄紫の闇の中に落ちていった。
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