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二章

初めての週末※

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「やっ…あ、んっ…ま、っ…やぁっ…」

 どれくらいそうされているだろう…うつ伏せの状態で後ろから最奥をゆるゆると責められ続け、身体に走る甘い痺れを執拗なほどに繰り返されて、花耶は自分を苛む男から逃れようと身を捩った。先ほどから繰り返される緩慢な動きが、逆にじりじりと官能を押し上げ、感じ過ぎて脳の中まで蕩けて流れ出しそうだ。逃げ出そうにもしっかりと腰を掴まれ、力と体格の差の前では花耶の抵抗などないに等しかった。

「ん?どうした、花耶、まだ痛いか?
「…んっ、やぁ…っ、それ…だ、めぇ…」
「ダメ?痛くないようにしているだけだぞ?」
「っあ、ん…っ、やぁ…だ…っ…」

 奥の反応のいい場所を的確に、でも痛みがない様に優しく刺激されるのがもどかしい…なのに、それを告げるのははしたなく思われるのが怖くて、花耶はシーツを噛んでその痺れに必死で耐えた。

 想いを交わし合った二人は、これまで離れていた時間を埋めるように肌を重ねていた。いや、この言い方は語弊があるだろう、肌を重ねたがっていたのは奥野だけだったからだ。一方の花耶にしてみれば、あまりこの様な事は得意ではないためほどほどでよかったのだが、敏腕営業は口が上手い上に押しも強く、また花耶の気を許した人間相手には流されやすい性格などもあって、すっかり奥野のいい様にされていた。

 金曜日の夜、ようやく互いの気持ちが重なったことで散々貪られた花耶は、いつの間に寝たのかも記憶になかった。多分気を失うように眠ったのだろうな、と思っている。これまでも似たような事は何度かあったので、おそらく間違いないだろう。
 それでも奥野の腕の中で目覚めた時、これまでにないほどの満足感と安心感に満たされていた。一時は失ったと諦めていた恋する人が、再び自分に愛を囁き、全てをと乞うて来たのだからこれで嬉しくない筈はなかった。お陰であの後はもう無理と言いがらも、限界まで奥野を受け入れたのだ。

 ただ、さすがに体力と体格差、更には病み上がりなのも大きかったのだろう。目覚めた時は身体が怠いし、奥野の雄を受け入れた秘所にも痛みを感じた。これにはさすがの花耶も酷くないかと思い、もう少し手加減して欲しいと訴えたのだ。特に奥を激しく突かれるのはまだ慣れないせいか痛みの方が勝って辛い。ただその時に訴えても花耶はまともに口が利ける状態ではなく、奥野は奥野で制止する声が感じ過ぎて辛いのだろうと思っていた。
 一夜明けてからの可愛い恋人からの手厳しい指摘に、さすがに奥野もすまないと謝り、善処すると反省したように見えた。

 これで少しは回数を減らすなど改善してくれるかとホッとしていた花耶だったが、そこは考えが甘かった…奥野の善処とは、最奥の一歩手前で終わらせる事だったのだ。花耶が痛みを感じない一歩手前を執拗に責め立ててきて、花耶は別の意味で悶える事になったのだ。お陰で先ほどから延々といいところをひたすら甘く責められて、花耶はもう与えられる刺激の事しか考えられなかった。痛みがないそれはただ気持ちがいいばかりだった。

「やぁ…っあ、ゃ…こわ……あぁ…」
「ああ、怖くない…大丈夫だ」
「ひゃぁ…あ…ダメ…そ、ぁあっ」…
「俺が花耶の害になるような事、するわけないだろう?」
「ゃ…っ、あ、ぁあ…っん…んんっ…」
「もっと俺を感じて?」

 花耶に覆いかぶさってきた奥野に耳元で囁かれてしまえば、花耶に抵抗などできる筈もなかった。何度もおかしくなると言ったのに、実際にはそんな事にはなっていないのだ。どれだけ感じてもおかしくなる事はない、気持ちいいのは愛の証だと告げられると、それを否定するものを持たない花耶の身体はひたすらに高められるばかりだった。

「あぁ…ダ、ダメ…もッ…む…っり……」
「…っ、俺も、だ…」

 項に舌を這わされ、空いた手で胸の頂を遠慮のない動きで捏ねられては、花耶に耐えられる筈もなかった。

「っやぁ…りょ…ほぅ…ダ…ぁあっ…やぁ…もッ…」
「花耶…一緒に…」

 そういうと奥野は、頂きを目指すべく挿入を強めた。既に限界に届きつつあった花耶はそれだけで追い込まれた。

「ぁあ…やぁああああっ…」
「…ぅ…」

 頭の中が白く染まり、身体が震えた。雄の精を搾り取ろうと、蜜壺がきゅうきゅうと雄に絡みついた。その魅惑的な動きに奥野も逆らわず、薄い膜の中に己の白濁を満たした。荒い息をしながら、奥野は花耶を自分のものだと主張するかのように後ろからぎゅっと抱きしめた。その力強さと身体の熱さが花耶の心を満たした。



「もう…あ、明るいうちからなんて…」

 シーツを被ったまま、花耶は奥野の暴挙に慎ましやかな反抗を示していた。今日は既に日曜日で、しかももうすぐお昼になろうと言う時間帯だった。前日の土曜日はもっと酷く、記憶はかなり曖昧だった。奥野に抱かれているかそれが過ぎて気を失っていたかで、食事や入浴の記憶が朧げにあるくらいだった。そして今日も朝、目が覚めて朝食と入浴を済ませたのはよかったが、些細な触れ合いから奥野の方がその気になってしまい、気が付いたら押し倒されていたのだ。

「そうは言っても…花耶が可愛いのが悪い」
「…な…」

 臆面もなく可愛いと言う奥野の甘い言葉に中々慣れない花耶は、そう言われてしまうとそれ以上何も言い返せなかった。と言うのも、奥野が本気でそう思っているからだ。花耶としてはイケメンでモデルの様な奥野にそんな風に言われるのは褒め殺しのように感じるのだが、本人は至って真面目なのだから性質が悪いとしか言いようがない。だが、惚れた欲目でもそう言われるのは悪い気がしないくらいには慣れつつあった。

「ほら、今日のお昼は外で食べよう。ずっと家の中は嫌なんだろう?」

 そう言われて、花耶はもぞもぞとシーツから顔を出した。金曜日の夜から軟禁状態で外に出ていなかったのもあり、その提案は嬉しかった。奥野のことだ、今日どころか明日出勤するまでここから出られないと思っていたからだ。意外だと思いながらも、ここで下手にその疑問を口にする愚を花耶は犯さなかった。ここで下手な事を言うと、外に行きたくないなどと受け取られてそのまままた押し倒されるのが目に見えていたからだ。さすがにこれ以上は辛い…まだ痛みだって残っているのだ。外に出る機会があるなら、何としてでも出たかった花耶は、おずおずとベッドから下りて出かける準備を始めた。

「パスタと海鮮料理、どっちがいい?」

 そう尋ねられて花耶は暫し考え込んでしまった。多分どちらを選んでも、花耶の予想を上回る素敵な店で美味いのは間違いないからだ。パスタは麺類好きな花耶の好みだからパスタの確率が元より高かったのだが、花耶は海鮮料理の店がいいと答えた。この前キャンセルになった約束では、海鮮料理の店に行くと聞いていたし、多分奥野の頭に浮かんでいるのはその時の店だろうと感じたからだ。実は花耶はあの時の約束を楽しみにしていただけに、イルミネーションは無理でも食事くらいは行ってみたかった。

 奥野が連れてきた海鮮料理の店は文句なく美味しかった。様々な海鮮料理が一つの膳になっていて、刺身や焼き魚以外にもマリネやサラダにまで海産物がふんだんに使われていて、花耶の海鮮料理の概念を根本からひっくり返すものだった。お店も落ち着いた雰囲気で、座敷になっているので回りを気にしなくていいのもよかった。好きな人と美味しいものを一緒に食べるのがこんなに幸せだとは思っていなかった花耶は、胸がいっぱいになってかえって食べられなかった。それで奥野を心配させたが、そんな事も幸せで何だか泣きたくなりそうだった。

 その後は、奥野が見たい物があるからと言うので、ショッピングモールに行った。そこは以前ワンピースやネックレスを買って貰ったところで、数か月ぶりに来た事にまた懐かしさを感じた。クリスマス直前という事もあって、店内は想像以上に賑わいを見せていて、奥野ははぐれてはいけないからと言って手を繋いで来たため、花耶は恥ずかしさと戦う羽目になった。

(やっぱり…かっこいいよね…)

 周囲からの視線をチラチラと感じた花耶は、隣を歩く奥野をそっと見上げた。今日は茶色がかったグレーのセーターにキャメルブラウンのコーデュロイ素材のパンツだった。基本的に奥野が好むのはシンプルなデザインだが、それがかえって野性的な魅力を引き立てているように見えた。いや、何を着ても様になるので、きっと派手な服装でも難なく着こなしてしまうのだろう。背が高いからより目立つのだが、顔がいいだけに注目度は際立っていて、カップルであろう女性ですら自分の連れそっちのけで奥野に視線を送っていた。
 そんな奥野が自分と手を繋いで楽しそうに笑いかけてくるなど、花耶としては釣り合いの取れてなさに申し訳なく感じてしまう。きっと奥野と一緒にいる間はずっとこの感情がついて回るのだろうな…と花耶は小さくため息をついた。

「ああ、ここだ」

 奥野が向かったのは、以前ネックレスを買った宝飾店だった。今はクリスマス直前という事もあって店内はかなり賑わっていた。何の用だと花耶がこの先の展開に密かに怖気づいていると、奥野は迷わず指輪のあるコーナーを目指した。そう言えばあの時、いづれ指輪もと言っていたっけ‥と思い出して花耶の顔が引きつった。

「花耶はどんなのがいい?」
「え?何がですか?」
「何って…花耶の婚約指輪だが?」
「こっ…婚約指輪?」

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