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はじめての危機感

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結果と言えば、ヘアバンドは中々売れた。

あの後目の前を通るお客さんに直接声をかけて商品の説明をしたのだ。


商品の魅せ方が重要というのは次の課題だろう。


ヘアバンドの最後の購入者は商業ギルドのあのお姉さんだった。
いつもと違い束ねた髪を降ろしていたのだからおそらくプライベートで来ているのだろう。


「ありがとうございます。他の商品は中々売れなくて。」

苦笑いを浮かべて商品を手渡せば、お姉さんは少し考える素振りを見せた。


「そうですね…手足に物をつける習慣はあまりないからかもしれませんね。」


ミサンガを見て言うお姉さんの言葉に頷く。
元の世界では願掛けとして結んだりとしたが、そういった概念の無いこちらには需要がないかもしれない。



「そうですよね。なのでこれは髪紐や飾り紐として売ろうと思います。
それに…」



概念が無いのなら作ってしまうのはどうだろう?


「次回からは文字の入った物も売ろうかと思います。」


花言葉をいれたり、安全を願ったり、身近な物に感じて貰えるように。


お姉さんは驚いた顔をした後、素敵です。と呟きミサンガを手にとった。


「私が初の購入者ですかね?」


ふふっと笑みを零せば美人の周りには花が咲いたようだった。

軽く世間話をしてお姉さんの名前がアリシャと言う事が判明した頃、また商業ギルドで、とお互いに手を振る。

早速宣伝とばかりに付けて帰った黄色のヘアバンドはアリシャの青い髪によく似合っていた。



____________


売上
あみぐるみ1個   銀貨1枚
ミサンガ1個       大銅貨1枚
ヘアバンド7個   銀貨2枚大銅貨1枚

合わせて銀貨3枚と大銅貨2枚。

大銅貨8枚の赤字だが、学べるものは多かった。

ミサンガは先程アイシャと話した通りだが、
あみぐるみも需要が無かった。
店の置物として買っていった人は居たが、生活必需品ではないため少しお高いぬいぐるみを買う人がいないのだろう。

カゴはと言うと、ありふれた物のため何も私達の露店で買う必要性が無かったので売れなかったのだと思う。


これ等も次回に持ち越そう。


____________



物は売れたが赤字と聞けば子供達も喜びようがないのか何とも言えない顔をして露店を片付けていた。

いざ帰るとなったときに子供達は一斉にその場で服を脱ぎ始める。


「えっ、ど、どうしたの!?」

「何がー?」


ぎょっとして答えたキャメルに目を向ければいつもの服を着ていた。
どうやら子供達は上に新しい服を重ね着していたようだ。
寒いからだろうか?


「アイーリ、路地裏は安全な訳じゃないよ。
良い服を着てればそれだけで目をつけられる。」



息を飲んだ。
人通りが少ないあの場所は確かに危険だろう。
井戸の近くでお年寄りや怪我人を時折見かける事はあったが、実際家の周辺しか私は知らず、路地裏の奥へは進んだ事がないのだ。


見てみようとも思わなかった事に頭の何処かでは危険を察知していたのかもしれない。
その事実を認識して思わず自分を抱き締めた。


「だから、目を付けられないための安全対策だよ。」


ウィンスが服を折りたたんでしまう。


隣り合わせ危険を認識してしまったものだから、その日は思わず子供達にしがみつき辺りを落ち着きなく見渡しながら路地裏を帰った。

かなり挙動不審だっただろう。


今日の売上が赤字だとか、商品を売る後ろ盾がないうんぬんよりも、
今、生きている身近での危険を自覚してしまった事の方が何倍も堪えた。


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