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終わりの味

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洋服を渡した子供達の反応は様々だった。


「さーて、明後日から露店を開くからじゃんじゃん作るよー!」


ウィンスは死ぬほど驚いた顔で、
ラークとキャメルはへーっと反応が薄い。

キャメルにいたっては今も聞きながら手をとめず何かを作っているのだからそちらに集中しているのだろう。



女子2人で商業ギルドに行っている間にラークとウィンスにはお使いを頼んでいた。


ラークは木の実をとりに行くついでに雪の中にでも咲く花や草を採ってきてもらい、
ウィンスにはお金を多めに渡しご飯の買い出しに行ってもらった。

今日服と串焼きを買ったのと一緒に差し引けば残りの手持ちは

金貨5枚
大銀貨8枚
銅貨9枚だ。

最近買い物する事も多くなり、やっとこちらの硬貨にも慣れてきたところだ。
日本円感覚では残り58万90円といったところだろう。


「こんなの何に使うんだ?」


 
「模様のついた生地をあまり見かけないから作っちゃおうかと思って。
今日はもう遅いからまた明日にするよ。」




その言葉を合図かのようにウィンスが夕食の支度をし始めた。
と言っても購入してきたパンに木の実、家で育てているトマトに似た野菜ぐらいなのだが。

うん、今日もぼそぼそとしているなぁと
思いはするがせっかく買ってきてくれた物なのだしと胸の内にしまい何だかんだ完食した。




もう少し稼げるようになれば食器も揃えて料理をした方がいいかもしれない。

元の世界の味に想いをはせれば目元がじんわりとしてきたものだから、頭まで布団を被った。






目を覚ましたのは、身体の節々が痛む合図でだった。

唯一この家の個室で、皆で眠るようになって1週間程だろうか。
ベッドはなく床に寝ているため体が軋む。


ふと横を見れば子供達はまだ寝ていた。
だが1人足りない。


リビングへと顔を出すも見当たらず外へ出ると風が頬を掠めてぴりりとした。


「また一段と寒くなったなぁ」


その呟きと共に息が白くなり流れていくのだから、何処か元の世界を思い出させた。

実家では雪が降ると家の中でも除雪車の音が聞こえた。
あの頃はうるさいと感じていたのにそれでさえも懐かしくなる。



ギュッと雪を踏みしめる音が聞こえてはっとした。




「んなところで何してんだ」


ラークだ。


「そっちこそこんなに朝早くどうしたの。」


「あー…、ちょっとな。」


「風邪ひくから中入って。」



言い淀む彼をみれば手がかじかんで赤くなっており、痛そうなのを見て家へと押し込んだ。

全く…と言葉をこぼして手を暖めようと握ると顔を赤くしたラークに振り払われた。

「…さては思春期だなぁ?」


「はぁ!?ちげぇし!」


にやにやと笑い近づけば逃げられた。





皆が起きてきた頃にラークは重たく口を開けた。


「そろそろフルールが雪に埋まる。」


場が静まり返り、心地の悪い空気に耐えきれず私も口を開く。

「フルールが埋まると何か問題があるの?」


流石に異世界とだけあって冬にでもなる野菜もあるのだから木の実もそうだと思っていたのだが違うのだろうか。


「あれは雪に埋まると実をつけなくなるんだよ。探すのも難しくなるしね。」


ウィンスの言葉に朝の光景を思い出す。
ラークの手は真っ赤でかじかんでいた。
木の実を雪から掘り出していたからかもしれない。



「それって春まで採れないって事?」

「いや、春はまだ収穫できないから夏だ。」



それは厳しいねと言葉が漏れれば場は再び静まり返る。

でも、フルールが雪に埋まると採れなくなるという事は、
ラーク達は昨年の今頃どうしていたのだろうか。




今は明日ある露店の売れ行きを見てから考えようと言う事で一先ずその場は落ち着いた。

ラークは何ともいえない顔をしていたが。





万が一売れ行きが良くなくても私の手持ちを消費すれば何とか生きてはいけるだろう。
もしくは、石鹸を売りに出すかだ。

しかし出来るだけそれはしたくは無かった。


この先子供達が収入を得るために元手はあった方がいいし、
石鹸についてはこの世界の貴族でさえ臭いのきついものを使っているのだから今は売りに出すべきではないだろう。




私達はただでさえ、力も後ろ盾も無いのだから。









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