北国から異世界へこんにちわ

川で日向ぼっこ

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はじめての採取

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お風呂と言う物はこの世界庶民は滅多にお目にかかれないのだそうだ。
井戸から水を組んで身体を拭くのが当たり前の世界。

最近は匂いのキツい石鹸が貴族の間で出回っているらしいが、庶民には中々手が届かないお値段。

無いなら作るしかない。が、私の知っている材料はあるのかと頭を悩ませる。

「しそ葉・・・。」

ふと昨日の子供達が薬草を仕分けする光景が頭を過ぎると、とある事を思い出す。

エゴマ油。
確かシソ科の種を使って出来たものだ。
昨日はよく見なかったので私の知っているシソかはわからない。

しかし確かめる価値はある。

子供達に目も振らず麻袋を持ち慌てて外へ出て行くのを止めるかのように壁が立ちはだかった。

「うわっ・・・何だ?」

丁度外から帰ってきたユウにシソ葉を見に行きたいと言えばもう日が暮れるぞと捕まり近くの井戸水を汲んでこいと言われて筋肉が悲鳴をあげた。
そして、夕食にもそもそと食べるパンにもそろそろ飽きて来た。





ぽつりぽつりと雪がチラつき、
白く淀んだ空は朝とは思えなかった。

吐息を吐けば白く舞い、じんわりと鼻が赤くなる。

昨日までは快晴で暖かったと言うのに今日とくれば最悪だ。
布切れ1枚で過ごして居たとは思えない気温差だった。

「だから言っただろ。
どうせお前の事だからダサいとか言って着るなんて思わなかったけどな。」

上着を貸してくれようとしたが断りそのまま出てきたが、ごつごつとした質感のそれは私には似合わないと感じた。
それにしてもどう言う意味だろうか。
たった2日で知ったつもりでいるのは良して欲しいとムッとしながらも私達2人はしそ葉を探した。

積もった雪の間からひょこりと葉を出すそれは、最早何の葉なのかもわからず掻き分けて見るしかない。


薬草もシソ葉も自生力が強くよく似ている。
見分け方は香りらしいがこのかじかんだ鼻が役立つのかと心配になったところでシソ葉はすんなりと見つかった。

「あった・・・」

 雪を掘り起こせば、知っているものよりは少し大ぶりの種子がなっていた。


再び雪を踏みしめて街に戻れば、不思議と街の外より暖かい気がした。

よく見れば屋根には雪が積もっていると言うのに道には殆どない。

「大きい通りは火のクズ石が埋め込まれてるからな。」

クズ石とは使い物にならない程小さな魔石らしい。
石畳を眺めて歩みを進めれば時折黒い石が垣間見え、それに向かって降る雪がじんわりと溶けていくのはとても不思議な光景だった。




午後からは1人で商業ギルドと道具屋を訪れる事にした。
採ってきた種子から油をとるためだ。
フライパンで温めるのが早いのだが何せ料理道具があの家には1つも無かった。

乾燥させれば出来ない事は無いのだがいささか時間がかかり過ぎる。

キャメルが熱中して作りすぎた籠を両手に4つずつぶら下げ、商業ギルドまで向かう道で人とすれ違う度にぶつかりそうになる。
持っている私でも邪魔だっただろうと思う。

無事に大銅貨8枚を手に入れれば
道具屋へ向かった。

街に来た初日とは違い、すんなりと店に入れば物色する。

「すいません。塩ってありますか?」

包丁、鍋を2つ、木のまな板と器3つを購入したが店舗には調味料類が見当たらない。

「ん?塩何て高価なもんはここら辺で滅多に売ってないよ。」

道具屋の叔母さん、というよりマダムは呆れたように声を発した。

聞くところによると調味料全般がないようだ。
日頃食べているボソボソのパンにも頷けた。

再び石畳の合間に光るクズ石を見ながら帰路につく。
路地裏に近づけば近づく程石畳は所々剥がれており、クズ石は最早無かった。

路地裏の家に帰れば先に帰宅していたユウに灰を貰えるように頼み、早速鍋と器を取り出して火のついた釜戸《かまど》に振り返る。
釜戸の周りだけ床の木板がなく土がむき出しになっている。

「これ・・・火力弱くない・・・?」

ジトリと人の顔を見たあと溜息をついたユウは、薪作りも大変何だからなと文句をいいながらも灰の入った壺を置いて追加の薪を部屋の隅から持ってきてくれた。
この家では暖房等はないため釜戸の中では薪を焼くだけで、少しの暖をとっていた。


火が薪から飛び出した頃、鍋を埋め込みフライパン代わりにシソ葉の種子を寝かせて炒めていく。

久しぶりの料理をしている様な感覚に頬は緩み、鼻歌まで出た。

「・・・何処に置こう」

焦げ付かない程度に火から鍋を離すと、鍋敷きを忘れて置き場がなくウロウロとした。
鍋を持ったまま入口の扉を開け、
近くの雪でジュッと冷やした。

石畳も剥がれているのだからクズ石も勿論ないこの区域は雪が所々積もっていてある意味都合が良かった。

冷めた鍋を持って種子の粗熱が取れるまで置いておく。
 
合間に片手鍋に水を張り、沸騰すれば灰が入った器に熱湯を注いでいく。
これで1時間程寝かせれば


石鹸作りに必要な
灰汁が浮かび上がって行くのだ。









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