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第1章
7、最後の竜騎士
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盗賊たちの遺体を埋めて宿場町に戻ると、こちらも遺体をあらかた片付け終わり、夕食の準備をしていた。
使える建物は盗賊たちが住処にしていた隊商宿だけだったので、ナイジェルが斬り殺した盗賊たちの遺体を片づけて、血を吸った絨毯を剥がして床に付いた血の跡を水で洗い流していた。
それでも死体が転がっていたところで食事をするのは、気味が悪いらしく調査団の学者たちは無言のまま手を動かして食事をとっていた。
「死体が転がっていたところで食事をとるのは気味が悪いですなあ」
カリームはそう言いながらも、平然とパンを千切って口に放り込む。
パンの他に数種類の野菜の入った汁物と山羊肉の串焼きが並んでいた。
「山羊肉なんてよくあったな」
「台所に有ったんでさあ」
「……盗賊の上前を撥ねるのか」
「もう後は食べるだけに解体されてたんですぜ。腐らせちまうんだったら頂いた方がこの山羊も幸せってもんでしょう」
カリームの言う通りなので、ナイジェルも苦笑しただけでそれ以上何も言わなかった。
ナイジェルが座るとドニアザードが杯を差し出して葡萄酒を注いできた。
「そいつも台所に転がってたんでさあ。こんなところに置いておいたら酢になっちまいますからね。味見してみましたが、飲めますぜ」
スライが食事の手を止めて息を呑んだ。
ユタは額に手を置いて天を仰いだ。
「悪いが、俺は酒を飲めない」
表情が消えて、恐ろしく不機嫌な声で言うナイジェルにドニアザードは顔色を失った。
「も、申し訳ありません。別の物をお持ちします」
涙を浮かべて謝罪するドニアザードが気の毒になったのか、向かいに座っていたジェインが憤然と文句を言ってきた。
「せっかくドニアザード殿が出してくれたものをそういう言い方はないだろう、ナイジェル隊長。子供ではあるまいし」
「好き嫌いで言っているわけではないのですよ、ジェイン殿。俺は一口飲んだだけでも酔ってしまう体質なんでね。この量を飲み干せば、まず動けなくなります。盗賊が襲って来ても対応できなくなりますが、それでもよろしいか?」
冷ややかに言うナイジェルに気圧されたジェインは黙り込んだ。
ドニアザードが震える手でナイジェルにお茶を差し出してきた。ナイジェルは八つ当たりしてしまったなと溜息をつくと、柔らかく笑いかけた。
「手間をかけて済まないな、ドニアザード」
「いえ、気が利かず申し訳ありませんでした」
一瞬ナイジェルの表情に見惚れたドニアザードは頬を赤らめて首を振った。
ジェインが嬉しそうに頬を染めるドニアザードを見て不機嫌そうにパンを口に運ぶ。
「ナイジェルの旦那は奥方がいるんですか?」
一連のやり取りを傍観していたカリームが話しかける。
「いいや? そう見えるのか」
「女が放っておかんでしょう?」
「生憎女に惚れられた経験がないな」
その言葉に呆れたような表情でカリームとユタがナイジェルを凝視する。スライも苦笑いを浮かべている。
「あれを気付かないなんて、どれだけ鈍いんですかい」
こっそりとユタに耳打ちするカリームにそれが聞こえたスライが苦笑を浮かべたまま、こちらも声を低めて理由を説明する。
「降るように縁談が来ているらしいのだが、婿にという縁談は閣下が握りつぶしていて、他はライギット辺境伯がどうやってか知らんが邪魔をしているな。花街に出る時はうちの大隊の連中が付いて行って、下手な女は傍に近寄らせないから気付かないのだろう」
ははあと半ば呆れ、半ば感心したようにカリームが頷いている。
ジェインの隣で黙々と食事をしていたマレンデスが食後のお茶を手に取り、ナイジェルに話しかけてきた。
「ところでナイジェル隊長。盗賊たちが溜め込んでいた物があったのだが、金貨で五百枚ほど他に銀貨と銅貨が大量にあってな。他にも宝飾品やら絹織物やらが多少あるな。これらをどう扱おうか?」
ディーナール金貨は一枚で庶民の一家をひと月賄えるほどの価値がある。五百枚もあれば一財産だ。
「持ち主に返すのは難しいでしょうね。かといって使ってしまってことが分かれば咎められるでしょう。持ち帰って報告するのが筋かと」
護衛隊の兵士たちはやや不満そうに騒めいている。
元から報酬目的で護衛隊に応募してきた連中だ。ある程度の分け前を期待していたのだろう。
「盗賊を退治したんだ。報奨金ぐらい期待できるだろう。我慢するんだな」
不満そうな兵士たちを宥めるようにナイジェルは言った。
それでもなお不満そうにしている兵士に対しては、冷淡な眼差しを当て厳しい口調で言う。
「アジメールの兵士としての規範を守れ。罪にはそれ相応の罰が下るものだ。それとも、盗賊たちと一緒の墓穴に入りたいのか?」
不満はあっても盗賊たちの半分以上を一人で斬り捨てたナイジェルに言われては黙るしかなかった。
「ここから遺跡まではどれくらいの距離なんだ?」
食事を終えてナイジェルはユタに質問する。
「ここからなら南西方向に四ファルサフ(約24㎞)程でしょうね」
地図を取り出しながら説明する。
「よくこんな場所で見つかったな」
「もともと最後の竜騎士アクサル・クベンタエの領地があった場所ですから。大まかな場所は伝承などで知られていたんですよ。盗掘した品物を王都の骨董屋に持ち込んだところをライラが見つけたんです」
ライラとは王立天文台の若き天文学者でユタの養父のマーティアス・ツィツェロの助手をしている。
王都の北東にあるウラプール近郊の豪農の娘で、何不自由ない生活をしていたのだが、十五歳の頃マーティアスに弟子入りしたのだ。
豪放磊落な性格で、ナイジェルを除いたユタの唯一人の友人でユタの暴走しがちな考古学談義を聞ける希少な人種でもある。
それ故にか専門外にも拘らず、考古学に詳しくなり紛い物を掴まされる時もあるが時たま貴重な遺物を発見してくる。
「アジメールは大災害時に北東の島国から渡ってきた人々による征服王朝ですからね。当時絶大な影響力を持っていた竜騎士アクサル卿の娘をアジメール王家の始祖ボルドレッド一世は妻にして王朝の正当性を謳った訳ですから、その竜騎士の墓を盗賊に荒らさせるのを放っておくわけにはいきませんからね」
マレンデスとジェインは不愉快そうに眉を顰め、ナイジェルは苦笑いをする。
仮にも仕えている王家に対するには事実にしろ随分あからさまに批判とも取れることを言う。
「……本当は誰の手にも触れられず、静かに眠って頂きたいのに」
死者の魂を悼むように沈痛な表情で語る彼をナイジェルは不思議に思った。
「随分思い入れがあるようだな、その竜騎士に」
ユタは僅かに瞳を揺らしてナイジェルを見るとにこりといつもの彼らしい笑顔になる。
「ええ、わたしが考古学を研究している理由ですから」
「王太子殿下は出来れば、遺体と副葬品を王都に運ぶようにとのことです。王都で丁重に埋葬するおつもりのようで」
「そして、静かな眠りの中にいる彼を王位を権威づけるための見世物にするのでしょうね」
「ユタ!」
皮肉とというにはあまりにも王家に対して無礼な言いようだった。
「ユタ殿、その発言は問題ですぞ!」
流石にマレンデスが語気を強めて非難する。
「ユタ殿、お主の才能は誰もが認めるところだが、あまりいい気にならん方がいいぞ」
ユタもジェインには言われたくないだろうが、彼の言い分は間違ってはいない。
忠告する響きすらある。基本的に人は良いのかもしれない。
「別に構わないじゃないですか。どうせ王立学問院の連中は私たちが失態をするのを待っているのですから。まあ、何も無くてもでっち上げて罰するでしょうけど。この調査自体、砂漠で死んでくれれば自分たちの手を汚さずに済むから命じられたわけですからね」
そう言うとその場から出て行ってしまった。
何とも言えない気まずい空気が残された。
「あいつがあんなに感情的になるなんてな」
ナイジェルは溜息をついた。
「マレンデス団長、どうかさっきのユタの発言は」
「ええ、忘れましょう。仮に先ほどの発言をたとえ王太子殿下に讒訴したとして、ユタ殿は処罰されるでしょうが我らも同様に責任を咎められるましょう。皆も良いな」
その場にいた学者たちは一様に暗い表情で頷き、ジェインも神妙にマレンデスの言葉を聞いていた。
「ユタ」
ナイジェルがユタを追って、外に出るとユタはぼんやりと星空を見上げていた。
「どうした、お前らしくもない」
「はは、そうですね。ちょっと感傷的になってしまいました」
「マレンデス団長も他の学者たちも聞かなかったことにすると言ってくれている」
「彼らも同罪になりますからね」
「……あのなあ」
溜息をついて、頑なな態度を崩さないユタを見つめる。
「考え様によってはこんな寂しい場所に置き去りにされて、盗賊に荒らされているよりは王都に連れて行った方がいいのかもしれないぞ。アジメール王家はその竜騎士の子孫なのだろう?」
「ナイジェルはそう思うのですか?」
「まあな」
「ちょっと罪悪感を抱いていたのですよ。盗賊を蔑みながら、やっていることは彼らと一緒だと」
「お前は違うだろう」
ユタはこちらをじっと見つめている。
夜の闇の中その表情は窺い知れない。
「……そうだといいのですが」
「ともかく明日は早い。もう寝ないと体が持たないぞ」
「こんなに死体の転がっていたところで普通に寝られるのはナイジェルくらいですよ」
「大昔の死体と一緒に生活している奴に言われたくはないな」
「な、何を言うのですか、あれは大災害以前の――」
ユタが古代の遺物について語りだすと長いことを知っているナイジェルは逃げるように足早に宿の中に入って行った。
使える建物は盗賊たちが住処にしていた隊商宿だけだったので、ナイジェルが斬り殺した盗賊たちの遺体を片づけて、血を吸った絨毯を剥がして床に付いた血の跡を水で洗い流していた。
それでも死体が転がっていたところで食事をするのは、気味が悪いらしく調査団の学者たちは無言のまま手を動かして食事をとっていた。
「死体が転がっていたところで食事をとるのは気味が悪いですなあ」
カリームはそう言いながらも、平然とパンを千切って口に放り込む。
パンの他に数種類の野菜の入った汁物と山羊肉の串焼きが並んでいた。
「山羊肉なんてよくあったな」
「台所に有ったんでさあ」
「……盗賊の上前を撥ねるのか」
「もう後は食べるだけに解体されてたんですぜ。腐らせちまうんだったら頂いた方がこの山羊も幸せってもんでしょう」
カリームの言う通りなので、ナイジェルも苦笑しただけでそれ以上何も言わなかった。
ナイジェルが座るとドニアザードが杯を差し出して葡萄酒を注いできた。
「そいつも台所に転がってたんでさあ。こんなところに置いておいたら酢になっちまいますからね。味見してみましたが、飲めますぜ」
スライが食事の手を止めて息を呑んだ。
ユタは額に手を置いて天を仰いだ。
「悪いが、俺は酒を飲めない」
表情が消えて、恐ろしく不機嫌な声で言うナイジェルにドニアザードは顔色を失った。
「も、申し訳ありません。別の物をお持ちします」
涙を浮かべて謝罪するドニアザードが気の毒になったのか、向かいに座っていたジェインが憤然と文句を言ってきた。
「せっかくドニアザード殿が出してくれたものをそういう言い方はないだろう、ナイジェル隊長。子供ではあるまいし」
「好き嫌いで言っているわけではないのですよ、ジェイン殿。俺は一口飲んだだけでも酔ってしまう体質なんでね。この量を飲み干せば、まず動けなくなります。盗賊が襲って来ても対応できなくなりますが、それでもよろしいか?」
冷ややかに言うナイジェルに気圧されたジェインは黙り込んだ。
ドニアザードが震える手でナイジェルにお茶を差し出してきた。ナイジェルは八つ当たりしてしまったなと溜息をつくと、柔らかく笑いかけた。
「手間をかけて済まないな、ドニアザード」
「いえ、気が利かず申し訳ありませんでした」
一瞬ナイジェルの表情に見惚れたドニアザードは頬を赤らめて首を振った。
ジェインが嬉しそうに頬を染めるドニアザードを見て不機嫌そうにパンを口に運ぶ。
「ナイジェルの旦那は奥方がいるんですか?」
一連のやり取りを傍観していたカリームが話しかける。
「いいや? そう見えるのか」
「女が放っておかんでしょう?」
「生憎女に惚れられた経験がないな」
その言葉に呆れたような表情でカリームとユタがナイジェルを凝視する。スライも苦笑いを浮かべている。
「あれを気付かないなんて、どれだけ鈍いんですかい」
こっそりとユタに耳打ちするカリームにそれが聞こえたスライが苦笑を浮かべたまま、こちらも声を低めて理由を説明する。
「降るように縁談が来ているらしいのだが、婿にという縁談は閣下が握りつぶしていて、他はライギット辺境伯がどうやってか知らんが邪魔をしているな。花街に出る時はうちの大隊の連中が付いて行って、下手な女は傍に近寄らせないから気付かないのだろう」
ははあと半ば呆れ、半ば感心したようにカリームが頷いている。
ジェインの隣で黙々と食事をしていたマレンデスが食後のお茶を手に取り、ナイジェルに話しかけてきた。
「ところでナイジェル隊長。盗賊たちが溜め込んでいた物があったのだが、金貨で五百枚ほど他に銀貨と銅貨が大量にあってな。他にも宝飾品やら絹織物やらが多少あるな。これらをどう扱おうか?」
ディーナール金貨は一枚で庶民の一家をひと月賄えるほどの価値がある。五百枚もあれば一財産だ。
「持ち主に返すのは難しいでしょうね。かといって使ってしまってことが分かれば咎められるでしょう。持ち帰って報告するのが筋かと」
護衛隊の兵士たちはやや不満そうに騒めいている。
元から報酬目的で護衛隊に応募してきた連中だ。ある程度の分け前を期待していたのだろう。
「盗賊を退治したんだ。報奨金ぐらい期待できるだろう。我慢するんだな」
不満そうな兵士たちを宥めるようにナイジェルは言った。
それでもなお不満そうにしている兵士に対しては、冷淡な眼差しを当て厳しい口調で言う。
「アジメールの兵士としての規範を守れ。罪にはそれ相応の罰が下るものだ。それとも、盗賊たちと一緒の墓穴に入りたいのか?」
不満はあっても盗賊たちの半分以上を一人で斬り捨てたナイジェルに言われては黙るしかなかった。
「ここから遺跡まではどれくらいの距離なんだ?」
食事を終えてナイジェルはユタに質問する。
「ここからなら南西方向に四ファルサフ(約24㎞)程でしょうね」
地図を取り出しながら説明する。
「よくこんな場所で見つかったな」
「もともと最後の竜騎士アクサル・クベンタエの領地があった場所ですから。大まかな場所は伝承などで知られていたんですよ。盗掘した品物を王都の骨董屋に持ち込んだところをライラが見つけたんです」
ライラとは王立天文台の若き天文学者でユタの養父のマーティアス・ツィツェロの助手をしている。
王都の北東にあるウラプール近郊の豪農の娘で、何不自由ない生活をしていたのだが、十五歳の頃マーティアスに弟子入りしたのだ。
豪放磊落な性格で、ナイジェルを除いたユタの唯一人の友人でユタの暴走しがちな考古学談義を聞ける希少な人種でもある。
それ故にか専門外にも拘らず、考古学に詳しくなり紛い物を掴まされる時もあるが時たま貴重な遺物を発見してくる。
「アジメールは大災害時に北東の島国から渡ってきた人々による征服王朝ですからね。当時絶大な影響力を持っていた竜騎士アクサル卿の娘をアジメール王家の始祖ボルドレッド一世は妻にして王朝の正当性を謳った訳ですから、その竜騎士の墓を盗賊に荒らさせるのを放っておくわけにはいきませんからね」
マレンデスとジェインは不愉快そうに眉を顰め、ナイジェルは苦笑いをする。
仮にも仕えている王家に対するには事実にしろ随分あからさまに批判とも取れることを言う。
「……本当は誰の手にも触れられず、静かに眠って頂きたいのに」
死者の魂を悼むように沈痛な表情で語る彼をナイジェルは不思議に思った。
「随分思い入れがあるようだな、その竜騎士に」
ユタは僅かに瞳を揺らしてナイジェルを見るとにこりといつもの彼らしい笑顔になる。
「ええ、わたしが考古学を研究している理由ですから」
「王太子殿下は出来れば、遺体と副葬品を王都に運ぶようにとのことです。王都で丁重に埋葬するおつもりのようで」
「そして、静かな眠りの中にいる彼を王位を権威づけるための見世物にするのでしょうね」
「ユタ!」
皮肉とというにはあまりにも王家に対して無礼な言いようだった。
「ユタ殿、その発言は問題ですぞ!」
流石にマレンデスが語気を強めて非難する。
「ユタ殿、お主の才能は誰もが認めるところだが、あまりいい気にならん方がいいぞ」
ユタもジェインには言われたくないだろうが、彼の言い分は間違ってはいない。
忠告する響きすらある。基本的に人は良いのかもしれない。
「別に構わないじゃないですか。どうせ王立学問院の連中は私たちが失態をするのを待っているのですから。まあ、何も無くてもでっち上げて罰するでしょうけど。この調査自体、砂漠で死んでくれれば自分たちの手を汚さずに済むから命じられたわけですからね」
そう言うとその場から出て行ってしまった。
何とも言えない気まずい空気が残された。
「あいつがあんなに感情的になるなんてな」
ナイジェルは溜息をついた。
「マレンデス団長、どうかさっきのユタの発言は」
「ええ、忘れましょう。仮に先ほどの発言をたとえ王太子殿下に讒訴したとして、ユタ殿は処罰されるでしょうが我らも同様に責任を咎められるましょう。皆も良いな」
その場にいた学者たちは一様に暗い表情で頷き、ジェインも神妙にマレンデスの言葉を聞いていた。
「ユタ」
ナイジェルがユタを追って、外に出るとユタはぼんやりと星空を見上げていた。
「どうした、お前らしくもない」
「はは、そうですね。ちょっと感傷的になってしまいました」
「マレンデス団長も他の学者たちも聞かなかったことにすると言ってくれている」
「彼らも同罪になりますからね」
「……あのなあ」
溜息をついて、頑なな態度を崩さないユタを見つめる。
「考え様によってはこんな寂しい場所に置き去りにされて、盗賊に荒らされているよりは王都に連れて行った方がいいのかもしれないぞ。アジメール王家はその竜騎士の子孫なのだろう?」
「ナイジェルはそう思うのですか?」
「まあな」
「ちょっと罪悪感を抱いていたのですよ。盗賊を蔑みながら、やっていることは彼らと一緒だと」
「お前は違うだろう」
ユタはこちらをじっと見つめている。
夜の闇の中その表情は窺い知れない。
「……そうだといいのですが」
「ともかく明日は早い。もう寝ないと体が持たないぞ」
「こんなに死体の転がっていたところで普通に寝られるのはナイジェルくらいですよ」
「大昔の死体と一緒に生活している奴に言われたくはないな」
「な、何を言うのですか、あれは大災害以前の――」
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