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カリスマくん

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カリスマくん。

曰く、彼が歩けば海が割れる。

曰く、彼が歩けばエジプトが債務超過に陥る。

曰く、彼が歩けば文明が30年は進む。

曰く、彼が歩けば死体の山が積み上がる。

彼の名前は雁洲かりす 正志まさし。人呼んでカリスマくんだ。

かトラーアンドグロスのサングラスを愛用し、腕にはオーダーメイドの時計をつけている。

前髪が長くて前が見えないほどあり、フランス語をしゃべることができる。

マレーシアで不動産で大成功しているらしく、時々白いタンクトップに短パンで登校してくる。

彼はもちろんただの金持ちではない。その人柄もカリスマである。


彼の同級生が授業中にウンコを漏らし、こっそりパンツを脱いでパンツごと机の中に隠そうとしていた時。

彼は鼻歌を歌いながらそのパンツを奪い取り、まるで散歩にでも行くように教室を出て。

そのままパンツごとトイレに流した。



他にもある。


マ◯ドナルドに行った友人がポテト Lを頼んだのにポテトMが来たと怒っていた時。

彼は黙って自分のファンタLと友人のポテトMを交換した。


これらの話から分かるように。彼はとんでもないカリスマなのだ。


さて、そんなカリスマくんだが、今日は珍しく排他的な午後を過ごしていた。

学校の屋上に小さな子ども用プールとマッサージチェア、そして巨大な天幕が貼られている。

「今日は……、排他的だな……」

カリスマくんは、サングラスを首にかけ、マッサージチェアに座りながら青々している青空を見上げた。

「最高に……排他的だな……」

ちなみに、カリスマくんの最近覚えたカリスマ語録には排他的の他にミシェランという言葉が書かれている。

「こんな気持ちを……なんと表すんだろうな…」

カリスマくんは、早速知恵袋に投稿する。

『屋上で青空を眺めると、排他的な気分になる。この気持ちを違う言葉で表したい。ぜひ力を貸して欲しい。』

カリスマくんは質問を投稿し終えると、再び排他的な気分に浸り始めた。

あの雲はベーコンエッグみたいだ。おでんが食べたいな。

そんなことを考えながら。

しばらくすると。

ピロン

返信があったようだ。

カリスマくんは携帯の画面を見ると、フッと笑った。

回答者の名前はカリスマーキング。カリスマくんの良きサポーターだ。

『その質問は難しいですね。排他的な青空ですからね。さすがカリスマさん。いい質問をなさる。色々考えたんですが、会えて一言で言い表すとしたら、その感情は…

根無し草

なんてどうでしょう?』

カリスマくんは画面を見るともう一度フッと笑う。

「流石だ。カリスマーキング。最高の表現だ。」

カリスマくんは内ポケットからカリスマくん語録を取り出すと、排他的の下に根無し草と書いた。

「俺は今……とっても根無し草だ……」

カリスマくんはサングラスを口にかけると、スマホを内ポケットにしまった。

「俺は今……最高に排他的な根無し草だ……」


しばらくカリスマくんがそんな気分に浸っていると、不意に屋上のドアが開く音がした。


誰か来たのだろうか?そうであるならばこの排他的な気分を共有させてやろう。

そんなつもりでカリスマくんは体を起こした。

すると、

そこには黒髪ショートの身長低めの女の子がいた。

彼女は必死に腕を伸ばし、屋上の鉄柵を掴もうとしている。

あいつも俺と一緒。青空が好きなんだろう。
柵に登ってまで出来るだけ空に近付きたいのだろう。

そんなことを思いながら、カリスマくんはおじいちゃんの言葉を思い出した。

『まさ、カリスマっつのはよ、与えるだけ与えるんだ!わかったか!』

天に登りたい少女の手助けをしてやるのも一興か。

カリスマくんは実は正しくもあることを考えながら無言で鉄柵に足をかけている少女の方に歩いて行った。

少女の目は涙で腫れ上がっている。

カリスマくんは片足を完全に柵に掛けた少女のとなりにもたれかかった。

「お前、天に登りたいのか?」

ビクッと少女の身体が震える。

「な…私を止めに来たんですか?止めても無駄です」

綺麗な高く、弱々しい声で彼女は答えた。

「バカヤロー。本気の奴を、誰が止めるってんだ?むしろ俺は…」

与えに来たんだと言おうとしてカリスマくんは口をつぐんだ。

じいちゃんは『カリスマは言葉じゃねぇ、行動で全てを理解させろ!』って行ってたしな。

カリスマくんは黙って少女の足を掴む。

「何してるんです?私は、私は。もう無理なんです。もう嫌なんです。もうしんどいんです。私は私を終わらせたいんです!」

カリスマくんは無言を貫く。

「なんなんですかあなたは!私は…私はもう…」

その時、

不意に強い風が吹いた。

少女は足を滑らせ、柵から滑り落ちる。

少女は目をつぶった。

これでようやく、私が終わる。そんなことを思いながら。

しかし、

彼女が終わることはなかった。

異常な滞空時間を不思議に思い、少女が上を見上げると、カリスマくんが涼しい顔をして、少女の足をつかんでいた。

「おいおい、そっちは地面だぜ。天に登りたかったんじゃないのか。」

カリスマくんは少女を引き上げると屋上に座らせる。

少女の目には溢れんばかりの涙が溜まっている。

「そんなに泣くな、どんだけ空が好きでも、飛ぼうとするのは無茶ってもんだ。大丈夫だ、俺がもっと…」

高いところに連れて行ってやると言おうとしてカリスマくんは口をつぐんだ。

カリスマくんは無言で少女を抱きかかえると屋上の入り口の上に登った。

少女はキョトンとした表情を浮かべている。

「どうだ?こっちの方が少し高いだろ?そんでこっちの方が少しだけ空が綺麗に見える気がするな?」

少女は青空を眺める。次第に少女の顔が綻んでいく。

「うん」

少女は無言で雲ひとつない青空を見つめた。


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