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第2話 新しいバイト先に彼がいました
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夢を見ていた。内容は散々なものだ。自分の失敗ばかりの恋愛遍歴が、ぐるぐると走馬灯のように駆け巡っている。中学の初恋、初告白して成就した相手は、遊びのつもりだったらしく、すぐに千夏は捨てられ……高校の恋人は、前の彼女が忘れられないと言って、去っていった。大学はじめのころ、好きになった人は……思い出したくない。
ああ、嫌なことばかりだ。自分は恋愛に適性がないと突きつけられているような結果ばかり……慎太郎に関していえば、失恋して恋に気づくなんて……。
目が覚めると、ベッドでシーツに包まれていた。しかも裸……なんでと思ったら、昨日のことがおぼろげながらに思い出した。そうだ……自分は、BARで知り合った男と……そう考えると顔が真っ赤になり、勢いよく起き出す。相手の男はと思ったが、サイドテーブルにメモが残されていた。
……そこには自分へのいたわりと宿代を払った旨が書かれている。
情けなさで頭が痛くなり、千夏は髪をかきあげて深くため息をついた。
とうとうやってしまった……
元から恋愛には適性がない上に、今回のことでやけくそにはなったけど……見知らぬ男と夜を過ごすことになろうとは、自分に対して呆れ返って、ため息しか出ない。
それでも、あんなやけくそ状態なのに、相手の男は優しかった。真似に過ぎないと言っていたのは、どういうことだろうと思ったが……。ぼんやりとしていた千夏はスマホで時間を確認して驚いた。今度のバイト先に出向かないといけない時間だ。慌てて身支度を整えると、飛び出すように千夏はホテルを出ていった。
千夏の親族はハウスキーピングサービスの会社をやっていた。千夏は家事が得意でもあったので、大学のスキマ時間に親族の会社でバイトしていた。前のバイト先が満期で終わり、親族から次にどうだろうかと仕事を斡旋されていた。
一軒家での仕事。料理を中心にさまざまな仕事を任されているが、一日中ということでないので、大学生活とのバランスが取りやすい……何より家主が穏やかなひとで、契約すると長い付き合いになることもしばしばとか……つまりトリプルA級の優良なお仕事。
そうであるはずだった。相手の顔を見るまではそうだと思ってた。
「妹尾紫紋(せおしもん)です……家事が苦手で、そこのあたりをよくお任せしてるんですが。今日からはあなたでしたか。よろしくお願いします」
あっけに取られて言葉がすぐに出なかった。ええ……とすら思っていた。
相手は猫を抱きかかえて、優しく微笑んでいる。その美しい顔立ちが眩しすぎると思いつつ、千夏は言葉を出した。
「はい……派遣されました、井野田千夏(いのだちなつ)です……よろしくお願いします」
相手はどうやら、覚えていないのか無反応だった。多分今朝まで一緒にいたよね……と千夏は頭をかしげそうになった。そう、新しい千夏の雇い主は、ワンナイトした男の家だったのだ。しかし相手は人の良さそうに挨拶してくれるし、あんなことをしたなんてまったく思わせない態度だった。よく似た違う人なのだろうか……いやそれより……
あんなに泥酔してべろべろだったし、意識もかなり曖昧だったのに……自分もよく覚えているものだ……
まあ、真相はどうだろうと、何も触れられなかったのは幸いだった。
ああ、嫌なことばかりだ。自分は恋愛に適性がないと突きつけられているような結果ばかり……慎太郎に関していえば、失恋して恋に気づくなんて……。
目が覚めると、ベッドでシーツに包まれていた。しかも裸……なんでと思ったら、昨日のことがおぼろげながらに思い出した。そうだ……自分は、BARで知り合った男と……そう考えると顔が真っ赤になり、勢いよく起き出す。相手の男はと思ったが、サイドテーブルにメモが残されていた。
……そこには自分へのいたわりと宿代を払った旨が書かれている。
情けなさで頭が痛くなり、千夏は髪をかきあげて深くため息をついた。
とうとうやってしまった……
元から恋愛には適性がない上に、今回のことでやけくそにはなったけど……見知らぬ男と夜を過ごすことになろうとは、自分に対して呆れ返って、ため息しか出ない。
それでも、あんなやけくそ状態なのに、相手の男は優しかった。真似に過ぎないと言っていたのは、どういうことだろうと思ったが……。ぼんやりとしていた千夏はスマホで時間を確認して驚いた。今度のバイト先に出向かないといけない時間だ。慌てて身支度を整えると、飛び出すように千夏はホテルを出ていった。
千夏の親族はハウスキーピングサービスの会社をやっていた。千夏は家事が得意でもあったので、大学のスキマ時間に親族の会社でバイトしていた。前のバイト先が満期で終わり、親族から次にどうだろうかと仕事を斡旋されていた。
一軒家での仕事。料理を中心にさまざまな仕事を任されているが、一日中ということでないので、大学生活とのバランスが取りやすい……何より家主が穏やかなひとで、契約すると長い付き合いになることもしばしばとか……つまりトリプルA級の優良なお仕事。
そうであるはずだった。相手の顔を見るまではそうだと思ってた。
「妹尾紫紋(せおしもん)です……家事が苦手で、そこのあたりをよくお任せしてるんですが。今日からはあなたでしたか。よろしくお願いします」
あっけに取られて言葉がすぐに出なかった。ええ……とすら思っていた。
相手は猫を抱きかかえて、優しく微笑んでいる。その美しい顔立ちが眩しすぎると思いつつ、千夏は言葉を出した。
「はい……派遣されました、井野田千夏(いのだちなつ)です……よろしくお願いします」
相手はどうやら、覚えていないのか無反応だった。多分今朝まで一緒にいたよね……と千夏は頭をかしげそうになった。そう、新しい千夏の雇い主は、ワンナイトした男の家だったのだ。しかし相手は人の良さそうに挨拶してくれるし、あんなことをしたなんてまったく思わせない態度だった。よく似た違う人なのだろうか……いやそれより……
あんなに泥酔してべろべろだったし、意識もかなり曖昧だったのに……自分もよく覚えているものだ……
まあ、真相はどうだろうと、何も触れられなかったのは幸いだった。
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