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第3話『小さな出会い。旅は道連れ。』

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 (この服、ポケット付いてたんだな。)

 アキラは食べた分の他に、10個ほど熟れどきのイチジクを取り、衣の両腰、腰骨辺りに付いてあるポケットの中に入れた。

 (しかし、これからどうしたものか…
 やっぱり人の居る所に行ったほうが良いだろうなぁ…
 でも、村とか町とか何処にあるんだろ?
 …かく、この森を抜けて道を見つけないと
 道は人里に通じている筈だから…)

「ガサ!ガサッ!」

 アキラの右方のくさむらから何やら物音がした。

「何だ!?」

 アキラが物音をした方を向くと、くさむらの中から何か黒いかたまりのようなものが飛び出してきて、アキラの足元まで来た。

「ん?犬…?
 いや、首が3つあるぞ!」

 それは小型犬のような見た目とサイズの生き物であったが、首が3本あり、それぞれ若干面相の違う顔が付いていた。

 真ん中の顔の頭に赤いとがった角がある。
 尻尾は1本だけだった。

 (これって…?
 ケルベロス…とか?
 モンスターのケルベロスなのか?)
 (小さい…まだ子供みたいだ。)

「わっ!」

 そのケルベロスの子は、激しく尻尾を左右に振りながらアキラのふところに飛びついてきた。
 アキラの衣のポケット辺りに、それぞれ3つの鼻をこすり付けてくる。
 ポロン、と右側のポケットからイチジクが1つ地面にこぼれ落ちた。

 ケルベロスの子は、ややアキラから離れ、その落ちたイチジクを見、次にアキラの顔を見て

「ワン!」「ウオン!」「キャン!」

と、それぞれ同時に吠えた。
 3つの顔のそれぞれ3つの口からよだれを垂らしている。

「イチジクが欲しいのか?」

 少しアキラは考えたが、尻尾を大きく振りながら無垢な瞳でこちらを見ているケルベロスの子を見て

「いいよ、食べな。」

と言い、そうアキラが言い終わると同時くらいにケルベロスの子の3つの口が1つのイチジクにかぶりついた。

「へえー…イチジク食べるんだ、ケルベロスって。」

 ケルベロスの子は、落ちた1個のイチジクを食べ終えたが、まだもの欲しそうにアキラを見ている。

「わかったよ。もうちょっとあげるよ。」

とアキラは左右のポケットからイチジクを合わせて3個取り出すと、ケルベロスの子の前に置いた。

「はい、どうぞ。」

 アキラがそう言うと、それぞれ3つの口が、1個ずつにかぶりつき、食べ始めた。

 (ケルベロスって、神話とか色んな物語とかで凶暴なイメージで描かれてるけど、全然そんなことないな。まだ子供だからかな?)
 (しかし、森の中でこんな小さいのに1匹きりなのか?
 もしかして、近くに他のケルベロスとか親とかいるかも?)
 (この場を早く離れたほうが良さそうだな。)

 アキラは更に3個のイチジクをポケットから取り出して地面に置くと、ケルベロスの子に背を向け、足早にその場から離れていった。

 暫く森の中を進んだが、背後から

「ハッ、ハッ!」

という息づかいと、足音が近づいてくることに気付き、アキラが振り返ると、さっきのケルベロスの子が追ってきていた。

 立ち止まったアキラの足に3つの顔をこすり付けてくる。
 尻尾を激しく振っている。

「いや、懐かれても困るんだけど…」
「早く仲間の所に帰りな。心配してると思うよ。」

 そう話しかけるも、ケルベロスの子は、ちょこん、とお座りしたままアキラの顔を、舌を出して「ハッ、ハッ、ハッ。」と息を吐き尻尾を振り続けながら見つめている。

「うーん。まあ、そのうち帰るかな。」

 再びケルベロスの子に背を向けて歩きだすアキラ。

 ケルベロスの子はついてくる。

 森の中を、尚も歩き続けるアキラ。
 日が傾き、そろそろ夕刻が迫ってきた。

「…で、いつまでついてくるの?」

 ずっとアキラについてくるケルベロスの子に向かって言った。
 アキラが足を止めると、ケルベロスの子は、その場に、ちょこん、とお座りし、上目遣いでアキラを見る。

 その仕草が可愛らしい。

「何でついてくるの?何で帰らないの?もうすぐ日が暮れるよ。」

 矢継ぎ早にアキラが問いかけると、ケルベロスの子の3つの首が項垂うなだれた。

「…もしかして、仲間とはぐれたとか?」

とのアキラの質問に答えるように

「ワン!ウオン!キャン!」

と3つの顔が同時に吠えた。

「君も一人なのかい?」

と問うと、これもまるで返事をするかのように

「クーン。クゥーン。キューン。」

と寂しい声で鳴いた。

「そっか、俺と同じか…」

 アキラはそう言うと、ケルベロスの子の頭を向かって左から順番に撫でた。

「じゃあ、一緒に行きますか?
旅は道連れとも言うし。」

とアキラがケルベロスの子に、そう言うと

「ワン!ウオン!キャン!」

と元気よく返事をした。

「そうだ、君の呼び名を決めようかな。」

 アキラは、何気にお座りをしているケルベロスの子の股間に目をやった。

「男の子なんだね?男の子っぽい名前…あー、思いつかないな。」
「うーん…どうしよ…。
 ケルン…とか?ケルベロスだからケルン。
 ごめん、単純すぎるよね?こんなの。」

 しかし、ケルベロスの子は「ケルン」と言われて、尻尾を大きく左右に振りながら嬉しそうに吠えた。

「え?ケルンで良いの?」

 そう問いかけたアキラに、ケルベロスの子は、更に大きく尻尾を左右に振り、嬉しそうに大きく吠えた。

 アキラとケルンが森の中を歩き続けていくと、森の中を流れる小川のほとり辿たどり着いた。既に夜になっている。

「今日はここで休みますか?」

 アキラがそう言うと、ケルンの3つの首がうなづいた。

 アキラが横になると、ケルンはアキラのお腹の辺りに身を寄せてきた。
 二人は体を寄せあって眠った。

「ワン!ウオン!キャン!」
「ワン!ウオン!キャン!」

 アキラはケルンが激しく吠える声で目を覚ました。
 
体を起こすと、ケルンは川に向かって吠えていた。
 アキラが近づき、ケルンが吠えている方を見ると、川の溜まりの中に大量の魚影が見えた。

「サカナ!これは、マスかな?ヤマメかな?
 そうか!これを獲れということだな?
 今日の朝ごはんは、お魚だ!」

 アキラは、そおーっと川に入り、ワンピースの衣の裾を両手で持って拡げると、服を網のように川の水ごと魚をすくい上げた。

 十数匹の魚を獲ることに成功した。

「やったよ!こんなに沢山獲れた!」

 魚を衣の裾ですくった姿勢のまま川岸に上がったアキラの、下着の無い、あらわとなった部分をケルンがじっと見ていた。

「え?…あっ!うわぁーっ!」

 アキラが慌てて裾を下ろした。その場に魚が落ち、ピチピチと跳ねていた。

「そっか、君、男の子でしたね?
 油断も隙もないな。」

と、顔を真っ赤にしながらアキラはケルンに言ったが、ケルンは「訳が判らない」といったていでそれぞれ3つの首をかしげていた。

 落ちている魚に飛びつき、そのまま生で喰らおうとしたケルンに

「待って!生は危ないかも、寄生虫とか。
 火を通さないと。」

とアキラはケルンに声を掛けたが…

「火…マッチもライターもチャッカマンも無いなあ…
 なら、火を起こすしかない!」

 アキラはまず、その辺りの落ち葉や小枝を集めて山を作り、更に大きめの枝と、枯れ木が崩れたものと思われる木の欠片かけらを持ってきた。枯れ草も持ってきた。

「さあ、火を起こすぞ!上手くいけよ!」

 そう言ってアキラが木の枝を枯れ木の欠片に立て、いざ、錐揉きりもみ様に回そうとした瞬間、ケルンの、角が生えた真ん中の顔が口から火を吐いた。

 それは、チョロチョロという感じの、決して火の勢いは強いものではなかったが、それでも落ち葉や木の枝の山に着火するには充分だった。

「ケルン、君、火を出せるの!?」

「ウオン!」

 ケルンの真ん中の顔が誇らしげに吠える。

「すごい!すごい!すごい!」
「あ、そうだ。」

 アキラは、その辺りに落ちていた木の枝で魚を素早く串刺しにして、炎の横に立てかけた。
 焼き魚の香ばしい匂いがしてくる。
 アキラとケルンはよだれを垂らしながら魚が焼き上がるのを待った。

「美味い!美味い!美味い!」

 両手に焼けた魚を持って交互にかぶりつきながらアキラは叫んだ。
 ケルンも「ガツッ、ガツッ、ガツッ!」と凄い勢いで魚にかじりついている。
 ケルンは骨ごと頭ごと食べているようだ。

「何の味付けもしてないのに、こんなに美味いとは!」
「やっぱ、タンパク質だよな!動物性タンパク!」

 前世で筋トレバカだったアキラは、沁々しみじみと思った。

 細い小さな小枝をシーシーと楊枝ようじ代わりにしながら

「ふー、食べた、食べた。満腹!満腹!」

と、アキラは満足そうに言った。
 アキラの周りに魚の骨が大量に落ちている。
 獲った魚は全部たいらげたようだ。

 (このまま、この森で暮らすのも…)

 アキラは、ふと、そう思ったが

 (いや、冬になったら死んでしまう。)

と、すぐにその考えを打ち消した。

 (今の季節って、肌に感じる気温からすると、夏の始めくらいか…
 こんな薄着では、冬はおろか、秋でも耐えられないな…
 いや、待てよ。そもそも季節があるのかな?この世界は。)

 胡座あぐらをかいて考え込むアキラの顔を不思議そうにケルンの3つの顔がそれぞれ見ていた。

「一休みしたら、また歩くか。」

 そう呟いたアキラは、この世界で気が付いた時からのことを思い起こしていた。

 (今居る場所がどうやら異世界のようだとは、オレがエルフの美少女になってることや、大きな鳥のモンスターやケルンの存在からしても間違いないのだろうけれど…。)
 (ただ、イチジクとかヤマメとか、生えている草や木は、オレが居た元の世界と同じみたいな感じだが)
 (そもそも、どうしてオレはこの姿なんだろう?この年格好なんだろう?)
 (死んでからの転生なら、まず赤ん坊として生まれ変わるんじゃないのか?
 なのに、既に成長した姿で、たった1人で、あんなところに…)
 (もしかして、転生してから今までの記憶を失ってるとか…)
 (もしくは、他人にオレの魂が乗り移ったとか…)

 ずっと考え込んでいるアキラの鼻先にケルンが心配そうに3つの顔を近づけてきた。


「あ、ゴメン。考え込んでしまった。」
「じゃあ行こうか。」

とケルンに声を掛け、二人は森の奥へと、共に進んで行った。

         第3話(終)



※エルデカ捜査メモ③

 ケルンは、通常のケルベロスとは違う

 「王獄犬種コーニング・ケルベロス

という特殊個体で、常のケルベロスには無い、3つの首の中央の顔に赤い角が生えているのが特徴である。

 その他の目立った特徴として、全身が群青色の毛で覆われているのは、通常のケルベロスと同じであるが、成長すると、通常のケルベロスより二回り以上、体格が大きくなる。

 この王獄犬種ケルベロスは、群れのリーダーとなる種である。
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