犬だけど世界守ることになった

青木ウミネコ

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異変(1)

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 玄関の扉の前に立ったトシユキくんが、息を呑む気配がした。
 トシユキくんの震える腕が、縋るように俺を抱き上げた。高くなった眼界に、ドアスコープが映る。
 薄い硝子の向こうには何もなかった。――否、どろどろとした黄色いなにかで覆われていた。黄色く染まった視界には人影らしきものは何も見えない。
 絶え間なく響いていた、何かが投げつけられるような衝撃も音も今は止んでいた。
 しばらく逡巡した後、トシユキくんはそっとチェーンを外し、冷たいドアノブを回した。

 まず目に入ったのは、力なく横たわる小動物の涅色の被毛だった。くたびれた糸のような、細く長い尻尾が投げ出されている。
 辺りは、余すところなく黄色に染まっていた。地面も、扉も、郵便ポストも。
 あまりの生臭さに、俺は我知らず顔を背けた。それでも容赦なく鼻孔をつく、この臭いは――。
「……卵?」
 呟くや否や、トシユキくんはその場にうずくまった。口元をおさえ、襲い来る嘔気に耐えている。
 その背を擦ってやりたい気持ちに駆られたが、俺の掌はあまりに小さかった。こんな玩具のような手も、肉球も、何の役にも立たない。
 俺の脳は、小さいなりに懸命に働いていた。警察を呼ぶべきか、パパさんを先に呼んでくるか――。
 刹那逡巡するも、家長を呼ぶのが先だと判断し振り返る。だが、呼びに行く必要はなかった。
 パパさんはそこにいた。虚ろな瞳子で、変わり果てた玄関先の場景と、トシユキくんの背中を呆然と見つめている。
 俺は慌ててパパさんに近寄り、ズボンの裾を引っ張ろうとした。だが、その面様を見て思わず足を止める。
 パパさんは顔面蒼白で、口の中で何ごとか呟いていた。生臭い郵便受けや小さな亡骸の向こうに、なにか別の景色が見えているようだった。
「どうして……」
 微風が、悪臭とともに虚ろな呟きを運んできた。
 俺はなす術なくその場に立ち尽くし、汚臭に覆われた重々しい空気に身をまかせた。
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