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番外編
7日間の恋 第一話
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休日の昼下がり。燦は一人で街を歩きながら、可愛い女の子がいたら声を掛けて、食事や軽くデートをしてあわよくば……などと考えていた。ふと、ショーウィンドウに写る自分の姿に気づき足を止めた。
短めの金髪、シルバーのピアス、ロックバンドのロゴが入った黒いTシャツに黒いレザーのアウターを羽織り、デニムと最近買ったばかりのスニーカーを履いている。切れ長の目、鼻筋が通った端正な顔立ちは昔から男女問わず好評で、彼は自分の魅力を自覚していた。
「うん、今日も完璧」
向こう側にいる自分に向かってニコリと笑いかけた後、燦は再び歩き出した。しばらく歩いていくと路地の入り口に若者が立っているのに気づいた。その姿に、燦は一目で心を奪われた。
綺麗に切り揃えられられた肩までの美しい髪と、伏せがちの長いまつ毛は純白で、小さな唇は形が整っている。小柄で中性的な雰囲気を醸し出しており、男性にも女性にも見える。不思議な力に導かれるように燦はその若者の元へ歩いていった。
声を掛けようとして異変に気づいた。真っ白でダボっとしているトレーナーやデニムは黒く汚れ、ところどころ破けている。バッグも何も持っておらず、遠くをぼんやりと眺めながら建物の壁に寄りかかり、ぐったりしている。
(もしかして怪我してんのかな……それに何も持ってない)
「あの、大丈夫?」
燦が声を掛けると、その若者はゆっくりと彼を見た。と、その時。若者の体がぐらりと揺れ、倒れそうになった。燦は慌てて若者の体を抱き止めた。
「おっと……!かなり弱ってるじゃん。家はどこ?送って行くよ」
燦の言葉に若者は顔を上げ、彼を見た。グレーがかった瞳はとても美しく、燦の胸が思わず高鳴る。
(この子、ホントに人間……?それにしてはあまりにも……)
思わず見惚れていると、若者が首を横に振って口を開いた。
「家はない」
「えっ?家ないの?家出したんじゃなくて?」
「うん。あの山から下りて来た」
若者はそう言って遠くにそびえる大きく雄大な山を指差した。燦は眉をひそめた。
「え?富士山?下りて来たって……え?ちょっと待って意味分かんない」
燦は困惑した表情を浮かべると考えた。
「富士山から下りて来たってどういうこと?」
「目が覚めて気づいたらあの山にいた」
「……ごめん。やっぱりちょっと意味分かんない。とにかくどこかで休んで手当した方がいいよ。そんなフラフラじゃ動けないでしょ。ああ、そうだ。救急車を……」
そう言って燦がウォッチに手を掛けたその時、若者が彼の手を掴んだ。そして、首を横に振った。
「わたしは人間じゃない。アンドロイド。だから救急車じゃダメ」
「……えっ?君、アンドロイドなの?!」
燦は驚いてもう一度若者の顔を見た。若者はグレーがかった瞳で燦を真っ直ぐに見つめた。
(……どうりで人間離れしてるワケだ)
燦は少しだけ考えると思いついたように言った。
「アンドロイドなら俺、手当てできるよ。会社行こう。今日は休みだけど緊急事態なら入れてくれるだろうからさ」
若者が首を傾げたので、燦は微笑みながら説明した。
「俺、アンドロイドの制作会社で働いてんの。修理部にいるから直すのは得意。君、名前は?」
「……北翔。北に翔って書いて北翔」
「へぇ~!かっこいい名前じゃん!俺はね、君嶋燦って言うの。雨燦々とか太陽が燦々とか言うじゃん?その燦。よろしくね。とりあえず俺の会社いこ。あっ、歩ける?」
一気に畳み掛ける燦の顔を北翔はじっと見つめていた。自分に問いかけられているのだと分かると首を縦に振った。
「うん。ゆっくりなら」
「そっか。じゃあ、肩貸してやるよ……ってちょっと腕届かないか」
「大丈夫。歩けるから平気」
北翔はそう言って燦の腕をやんわりと退けた。こうして二人は休日の真っ昼間に燦の会社に赴いたのだった。
***
「いや~社員証持ってて良かった!それにしても警備員のおっさん、北翔見てびっくりしてたね!そりゃあそうだ。俺だってびっくりしたもん」
「どうして?」
「だって、北翔って……」
修理室の扉を閉めながら、燦は北翔のことを改めて眺めた。目を細め、うっとりした顔をしながら口を開いた。
「なんつーか、ゲームのキャラ?みたいじゃん。ファンタジー系のRPGに出てきそうな……」
「ゲームのキャラ……」
そう言って北翔が真剣に考え始めたので、燦は慌てて言った。
「い、いやいや!そんな真顔で考えなくていいから!ホラ、とりあえず服、全部脱いで。そこに寝てくれる?」
燦は沢山ある内のひとつのベッドを指差して言った。
「分かった」
北翔は考えるのをやめ、分厚いボロボロのトレーナーの裾に手をかけ、一気に脱いだ。その下からはレースのついた純白の下着、大き過ぎず小さ過ぎない美しい形の膨らみが現れた。首から下げられたネックレスには雪の結晶のモチーフがつき、揺れていた。燦は思わず手に持っていたバッグと社員証を床に落とした。
胸元の下着を緩め、脱ごうとしていた北翔の手を燦は静かに止めて言った。
「それ以上、脱がなくていいよ。へぇ~君、女の子だったんだね。ごめん、てっきり男かと」
「ふぅん、そう」
燦は北翔の顔、首筋に刻まれた刻印、雪の結晶のネックレス、純白の下着に隠された美しい膨らみや谷間を順番に眺めると、目を細めた。
「全然気づかなかった……。やばい、すげえ可愛い」
燦はそう呟きながら自分の胸が大きく高鳴ったのを感じた。うっとりしていると、北翔が眉をひそめて言った。
「燦、早くして」
「あ、ああ。ごめんね」
燦は北翔の手をゆっくり離すと、遠慮がちに言った。
「ごめん、北翔。とりあえずデニムも脱いで、下着だけになってくれる?傷があるかどうか確かめたいんだ。で、準備できたらベッドの上に横になって」
「分かった」
北翔はデニムを脱ぎ、ベッドの上に仰向けになった。燦は頭上のライトを点けると、北翔の全身を上から眺めた。
(それにしても……すげえキレイなアンドロイドだな。顔も体も……。傷はところどころあるみたいだけど、こんなにキレイな子を見たのは初めてだ。人間離れした見た目してるとはいえ、質感は完全に人間じゃん。うちの会社でもこんな精巧な子を作るのはムリだ……それにこの刻印、見たことないしロゴが入ってない。一体どこの会社の子だろう)
燦はまた見惚れていたが、自分を真っ直ぐに見つめる北翔の瞳にハッとすると言った。
「恥ずかしいかもしれないけど、ちょっと我慢しててね」
「うん」
燦は手を伸ばし、そっと北翔の身体に触れた。滑らかな肌をなぞり、時には優しく押したりと触診をしながら傷や異常がないかを確かめた。燦の指が触れる度に北翔の体が時折、反応し跳ねた。
(北翔、めっちゃ敏感なんだな……うちの子達はこんなに反応しない。ホントに人間みたい。ああ、やばいなんか俺……)
燦はその時、自分の体の奥が微かに疼くような感覚を覚えた。北翔の美しい体、敏感に反応する様に色気を感じ、それが彼の性的な欲求に火を点けたのだ。
(いやいやいや、何考えてんの俺!この子はアンドロイドじゃん!)
燦は首を思い切り横に振ると深呼吸をした。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ。パッと見、上半身には目立った傷はないみたいだね。どこか痛いとこある?下着の内側とか俺が気づかなくて、気になる箇所があったら教えて」
燦の言葉に北翔は即答した。
「背中」
「背中が痛いの?」
「うん」
北翔は寝返りを打ってうつ伏せの状態になった。その背中を見て燦は驚いた。
「ホントだ。めっちゃ大きい傷あるじゃん。斜めに1本線が入ってる。ちょっと触るよ」
燦はそう言って指先でそっと傷に触れた。
「んんっ……!」
北翔が上擦った声を上げたので、燦の胸が思わず高鳴った。
(やっぱエロい……)
燦はハッとすると慌てて首を横に振り、もう一度背中の傷に目をやった。
「内側までは傷ついてない。ラッキーだったね!切れてるのは表面だけだから、縫うだけで済みそう。北翔、オンオフのスイッチがどこにあるか自分で分かる?」
「おんおふ?」
「うん。アンドロイドには大体起動スイッチがついてんの。北翔もどこかについてるはずなんだけど……」
「分からない。そんなの触ったことない」
「そっか。ちょっと見ていい?」
北翔が頷いたので燦はまず首筋を確認した。しかし、刻印の他にそれらしいものはない。他の部分にも注目してみたが、やはりスイッチらしきものは見つけられなかった。
(もしかして内蔵型……だったら俺には見つけられないや)
燦は少し考えた後、丁寧に説明を始めた。
「うちの子達だったら肌を張り替えたりしてキレイにできるんだけど、北翔の肌はどうなってるか分かんないからそれが出来ない。迂闊に色々触って壊れたら大変だし。つまり、縫うしか方法がない。あと、うちではアンドロイドを修理する時には必ずオフにする決まりがある。人間が手術する時に麻酔するのと同じ状態。でも、北翔にはスイッチが見当たらないから、起きてる状態でこの傷を何とかしなきゃなんない。縫うだけでもたぶんめちゃくちゃ痛い。どうする?」
「大丈夫。縫って」
全く表情を変えずに答えた北翔に燦は少し驚いてもう一度尋ねた。
「ホントにいいの?っても、傷を放っておくのも体には良くないんだけどさ」
「平気。山を下りた時に沢山痛い思いした。だから、痛みには強いと思う。それに人間と違って血は出ないし」
「そっか。分かったよ。なるべく優しくやるようにするけど、めっちゃ痛かったらごめんね」
北翔は決心したように大きく頷いた。燦は縫合用の器具を取り出しながら、北翔に言った。
「ごめん、北翔。ブラのホックを外してもらえる?傷が下にあんの」
「分かった」
北翔が下着を緩めると、シーツの上に膨らみが見えた。燦は一瞬その膨らみに目をやった。
(ダ、ダメダメ!見るんじゃない、俺……!)
慌ててすぐに目を逸らした。そして、傷の周辺の肌にそっと針を入れた。その瞬間、北翔は体を震わせた。激痛が走ったのだ。
「っ……!!」
北翔は声を必死に我慢していたが、あまりの痛みにその表情は歪んでいた。先程まで殆ど表情を変えなかった彼女が苦痛に悶え、耐える姿に燦は驚いた。
(さっきまであんなにクールだったのに……そんだけ痛いってことか)
「北翔、大丈夫!すぐ終わるから!頑張って!」
燦が励ますと、北翔は首を縦に振りながら体を震わせ必死に耐えた。燦は素早く丁寧に傷を縫っていった。程なくして傷の縫合を終えると言った。
「これでよし……終わったよ!よく頑張ったじゃん!」
燦の言葉に北翔は一気に体の力を抜いた。
「大丈夫?!めっちゃ痛かったでしょ?!」
「……平気。耐えられない程ではなかったから」
北翔は緩めた下着を戻すと、ベッドの上に座った。
「人間なら傷が塞がるまで時間がかかるし、安静にする必要があるけどアンドロイドはその必要なし。すぐに歩いたり走ったりしても問題なし!」
「ふぅん」
北翔は力なく頷くと、口を開いた。
「わたし、どこかで休みたい」
「えっ?ああ、そっか。だいぶお疲れみたいだもんね。家ないって言ってたよね?当てはあるの?」
「ない」
「え?じゃあ、どこ行くつもり?ホテルにでも泊まるの?お金は?」
「ない」
「ええ……まさかのノープラン」
燦は少し考えた後、遠慮がちに言った。
「あー……良かったらうち来る?」
「うん」
短めの金髪、シルバーのピアス、ロックバンドのロゴが入った黒いTシャツに黒いレザーのアウターを羽織り、デニムと最近買ったばかりのスニーカーを履いている。切れ長の目、鼻筋が通った端正な顔立ちは昔から男女問わず好評で、彼は自分の魅力を自覚していた。
「うん、今日も完璧」
向こう側にいる自分に向かってニコリと笑いかけた後、燦は再び歩き出した。しばらく歩いていくと路地の入り口に若者が立っているのに気づいた。その姿に、燦は一目で心を奪われた。
綺麗に切り揃えられられた肩までの美しい髪と、伏せがちの長いまつ毛は純白で、小さな唇は形が整っている。小柄で中性的な雰囲気を醸し出しており、男性にも女性にも見える。不思議な力に導かれるように燦はその若者の元へ歩いていった。
声を掛けようとして異変に気づいた。真っ白でダボっとしているトレーナーやデニムは黒く汚れ、ところどころ破けている。バッグも何も持っておらず、遠くをぼんやりと眺めながら建物の壁に寄りかかり、ぐったりしている。
(もしかして怪我してんのかな……それに何も持ってない)
「あの、大丈夫?」
燦が声を掛けると、その若者はゆっくりと彼を見た。と、その時。若者の体がぐらりと揺れ、倒れそうになった。燦は慌てて若者の体を抱き止めた。
「おっと……!かなり弱ってるじゃん。家はどこ?送って行くよ」
燦の言葉に若者は顔を上げ、彼を見た。グレーがかった瞳はとても美しく、燦の胸が思わず高鳴る。
(この子、ホントに人間……?それにしてはあまりにも……)
思わず見惚れていると、若者が首を横に振って口を開いた。
「家はない」
「えっ?家ないの?家出したんじゃなくて?」
「うん。あの山から下りて来た」
若者はそう言って遠くにそびえる大きく雄大な山を指差した。燦は眉をひそめた。
「え?富士山?下りて来たって……え?ちょっと待って意味分かんない」
燦は困惑した表情を浮かべると考えた。
「富士山から下りて来たってどういうこと?」
「目が覚めて気づいたらあの山にいた」
「……ごめん。やっぱりちょっと意味分かんない。とにかくどこかで休んで手当した方がいいよ。そんなフラフラじゃ動けないでしょ。ああ、そうだ。救急車を……」
そう言って燦がウォッチに手を掛けたその時、若者が彼の手を掴んだ。そして、首を横に振った。
「わたしは人間じゃない。アンドロイド。だから救急車じゃダメ」
「……えっ?君、アンドロイドなの?!」
燦は驚いてもう一度若者の顔を見た。若者はグレーがかった瞳で燦を真っ直ぐに見つめた。
(……どうりで人間離れしてるワケだ)
燦は少しだけ考えると思いついたように言った。
「アンドロイドなら俺、手当てできるよ。会社行こう。今日は休みだけど緊急事態なら入れてくれるだろうからさ」
若者が首を傾げたので、燦は微笑みながら説明した。
「俺、アンドロイドの制作会社で働いてんの。修理部にいるから直すのは得意。君、名前は?」
「……北翔。北に翔って書いて北翔」
「へぇ~!かっこいい名前じゃん!俺はね、君嶋燦って言うの。雨燦々とか太陽が燦々とか言うじゃん?その燦。よろしくね。とりあえず俺の会社いこ。あっ、歩ける?」
一気に畳み掛ける燦の顔を北翔はじっと見つめていた。自分に問いかけられているのだと分かると首を縦に振った。
「うん。ゆっくりなら」
「そっか。じゃあ、肩貸してやるよ……ってちょっと腕届かないか」
「大丈夫。歩けるから平気」
北翔はそう言って燦の腕をやんわりと退けた。こうして二人は休日の真っ昼間に燦の会社に赴いたのだった。
***
「いや~社員証持ってて良かった!それにしても警備員のおっさん、北翔見てびっくりしてたね!そりゃあそうだ。俺だってびっくりしたもん」
「どうして?」
「だって、北翔って……」
修理室の扉を閉めながら、燦は北翔のことを改めて眺めた。目を細め、うっとりした顔をしながら口を開いた。
「なんつーか、ゲームのキャラ?みたいじゃん。ファンタジー系のRPGに出てきそうな……」
「ゲームのキャラ……」
そう言って北翔が真剣に考え始めたので、燦は慌てて言った。
「い、いやいや!そんな真顔で考えなくていいから!ホラ、とりあえず服、全部脱いで。そこに寝てくれる?」
燦は沢山ある内のひとつのベッドを指差して言った。
「分かった」
北翔は考えるのをやめ、分厚いボロボロのトレーナーの裾に手をかけ、一気に脱いだ。その下からはレースのついた純白の下着、大き過ぎず小さ過ぎない美しい形の膨らみが現れた。首から下げられたネックレスには雪の結晶のモチーフがつき、揺れていた。燦は思わず手に持っていたバッグと社員証を床に落とした。
胸元の下着を緩め、脱ごうとしていた北翔の手を燦は静かに止めて言った。
「それ以上、脱がなくていいよ。へぇ~君、女の子だったんだね。ごめん、てっきり男かと」
「ふぅん、そう」
燦は北翔の顔、首筋に刻まれた刻印、雪の結晶のネックレス、純白の下着に隠された美しい膨らみや谷間を順番に眺めると、目を細めた。
「全然気づかなかった……。やばい、すげえ可愛い」
燦はそう呟きながら自分の胸が大きく高鳴ったのを感じた。うっとりしていると、北翔が眉をひそめて言った。
「燦、早くして」
「あ、ああ。ごめんね」
燦は北翔の手をゆっくり離すと、遠慮がちに言った。
「ごめん、北翔。とりあえずデニムも脱いで、下着だけになってくれる?傷があるかどうか確かめたいんだ。で、準備できたらベッドの上に横になって」
「分かった」
北翔はデニムを脱ぎ、ベッドの上に仰向けになった。燦は頭上のライトを点けると、北翔の全身を上から眺めた。
(それにしても……すげえキレイなアンドロイドだな。顔も体も……。傷はところどころあるみたいだけど、こんなにキレイな子を見たのは初めてだ。人間離れした見た目してるとはいえ、質感は完全に人間じゃん。うちの会社でもこんな精巧な子を作るのはムリだ……それにこの刻印、見たことないしロゴが入ってない。一体どこの会社の子だろう)
燦はまた見惚れていたが、自分を真っ直ぐに見つめる北翔の瞳にハッとすると言った。
「恥ずかしいかもしれないけど、ちょっと我慢しててね」
「うん」
燦は手を伸ばし、そっと北翔の身体に触れた。滑らかな肌をなぞり、時には優しく押したりと触診をしながら傷や異常がないかを確かめた。燦の指が触れる度に北翔の体が時折、反応し跳ねた。
(北翔、めっちゃ敏感なんだな……うちの子達はこんなに反応しない。ホントに人間みたい。ああ、やばいなんか俺……)
燦はその時、自分の体の奥が微かに疼くような感覚を覚えた。北翔の美しい体、敏感に反応する様に色気を感じ、それが彼の性的な欲求に火を点けたのだ。
(いやいやいや、何考えてんの俺!この子はアンドロイドじゃん!)
燦は首を思い切り横に振ると深呼吸をした。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ。パッと見、上半身には目立った傷はないみたいだね。どこか痛いとこある?下着の内側とか俺が気づかなくて、気になる箇所があったら教えて」
燦の言葉に北翔は即答した。
「背中」
「背中が痛いの?」
「うん」
北翔は寝返りを打ってうつ伏せの状態になった。その背中を見て燦は驚いた。
「ホントだ。めっちゃ大きい傷あるじゃん。斜めに1本線が入ってる。ちょっと触るよ」
燦はそう言って指先でそっと傷に触れた。
「んんっ……!」
北翔が上擦った声を上げたので、燦の胸が思わず高鳴った。
(やっぱエロい……)
燦はハッとすると慌てて首を横に振り、もう一度背中の傷に目をやった。
「内側までは傷ついてない。ラッキーだったね!切れてるのは表面だけだから、縫うだけで済みそう。北翔、オンオフのスイッチがどこにあるか自分で分かる?」
「おんおふ?」
「うん。アンドロイドには大体起動スイッチがついてんの。北翔もどこかについてるはずなんだけど……」
「分からない。そんなの触ったことない」
「そっか。ちょっと見ていい?」
北翔が頷いたので燦はまず首筋を確認した。しかし、刻印の他にそれらしいものはない。他の部分にも注目してみたが、やはりスイッチらしきものは見つけられなかった。
(もしかして内蔵型……だったら俺には見つけられないや)
燦は少し考えた後、丁寧に説明を始めた。
「うちの子達だったら肌を張り替えたりしてキレイにできるんだけど、北翔の肌はどうなってるか分かんないからそれが出来ない。迂闊に色々触って壊れたら大変だし。つまり、縫うしか方法がない。あと、うちではアンドロイドを修理する時には必ずオフにする決まりがある。人間が手術する時に麻酔するのと同じ状態。でも、北翔にはスイッチが見当たらないから、起きてる状態でこの傷を何とかしなきゃなんない。縫うだけでもたぶんめちゃくちゃ痛い。どうする?」
「大丈夫。縫って」
全く表情を変えずに答えた北翔に燦は少し驚いてもう一度尋ねた。
「ホントにいいの?っても、傷を放っておくのも体には良くないんだけどさ」
「平気。山を下りた時に沢山痛い思いした。だから、痛みには強いと思う。それに人間と違って血は出ないし」
「そっか。分かったよ。なるべく優しくやるようにするけど、めっちゃ痛かったらごめんね」
北翔は決心したように大きく頷いた。燦は縫合用の器具を取り出しながら、北翔に言った。
「ごめん、北翔。ブラのホックを外してもらえる?傷が下にあんの」
「分かった」
北翔が下着を緩めると、シーツの上に膨らみが見えた。燦は一瞬その膨らみに目をやった。
(ダ、ダメダメ!見るんじゃない、俺……!)
慌ててすぐに目を逸らした。そして、傷の周辺の肌にそっと針を入れた。その瞬間、北翔は体を震わせた。激痛が走ったのだ。
「っ……!!」
北翔は声を必死に我慢していたが、あまりの痛みにその表情は歪んでいた。先程まで殆ど表情を変えなかった彼女が苦痛に悶え、耐える姿に燦は驚いた。
(さっきまであんなにクールだったのに……そんだけ痛いってことか)
「北翔、大丈夫!すぐ終わるから!頑張って!」
燦が励ますと、北翔は首を縦に振りながら体を震わせ必死に耐えた。燦は素早く丁寧に傷を縫っていった。程なくして傷の縫合を終えると言った。
「これでよし……終わったよ!よく頑張ったじゃん!」
燦の言葉に北翔は一気に体の力を抜いた。
「大丈夫?!めっちゃ痛かったでしょ?!」
「……平気。耐えられない程ではなかったから」
北翔は緩めた下着を戻すと、ベッドの上に座った。
「人間なら傷が塞がるまで時間がかかるし、安静にする必要があるけどアンドロイドはその必要なし。すぐに歩いたり走ったりしても問題なし!」
「ふぅん」
北翔は力なく頷くと、口を開いた。
「わたし、どこかで休みたい」
「えっ?ああ、そっか。だいぶお疲れみたいだもんね。家ないって言ってたよね?当てはあるの?」
「ない」
「え?じゃあ、どこ行くつもり?ホテルにでも泊まるの?お金は?」
「ない」
「ええ……まさかのノープラン」
燦は少し考えた後、遠慮がちに言った。
「あー……良かったらうち来る?」
「うん」
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