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第15話 最強の女アンドロイド、誕生

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その後すぐ、イオは暁子の元で本格的な治療を開始した。人間と同じく薬物での治療だ。

その間、雄飛はイオに触れないようひたすらこらえた。抱きしめたり、キスをしたりするぐらいなら良かったが、それ以上のことは暁子からキツく止められていたからだ。

(でも正直、ハグやキス止まりって……生殺し状態なんだよな……)

雄飛は、自分の研究室で木星の研究に励むイオの小さな背中を見つめながら、今すぐに後ろから彼女を抱きしめたいという衝動を何とか抑え込みながら思った。

一方、ハレーはイオが自分の子供を産めないということに衝撃を受け、しばらく荒れていた。ハレーの部屋は物が壊され、ゴミが散らかり、荒れ放題。トレーニングや戦闘訓練は積極的に行っていたが、極限までストレスが溜まった状態のハレーの力量は凄まじく、トレーニングや訓練の機器や用品が次々に壊される有様だった。

「宵月くん、アンドロイドの完成はまだかね?このままだと、ハレーに施設を破壊され兼ねない。忙しいところ申し訳ないが、急ピッチで進めてもらえるかね?」

水端流は珍しく切羽詰まった様子で言った。暁子は苦い顔をして語尾を強めに言った。

「もう少しで完成するので、急かさないでくださいよ。私だって忙しいんですから」

その1ヶ月後のこと。暁子はセンター内にある戦闘訓練施設を訪れていた。隣接する倉庫には様々な武器が厳重に格納してあり、広大なスペースは武器ごとにエリアが作られ、区切られている。暁子はその内の射撃訓練スペースに足を踏み入れた。

ハレーは保護眼鏡をかけ、耳当てをしてライフル銃を構えた。しかし、撃った弾は大きく的を外れた。

「クソッ、どうも調子が上がんねぇ」

すると、そこに黒のレザージャケットとミニスカートに身を包んだ長身の美女が現れた。緩やかに波打つ長い赤髪をまとめると、保護眼鏡をかけ、耳当てをしてライフル銃を構えた。突然の見知らぬ美女の登場に、ハレーは驚いて目を丸くした。

「誰だ?お前は。見かけねぇ顔だな」

美女はふふっと微笑んだ。少し大きめのたれ目、長いまつげと口元にあるホクロが魅力的で、彼女からは大人の色気が漂った。ハレーは一瞬、ふらっとすると眉をひそめて額に手を当てた。

「うっ……お、お前、一体なに者だ?」

「ふふっまぁ、見てなさい」

そう言うと、美女は一気にライフル銃の引き金を引いた。鋭い音が響き、的のど真ん中に弾が命中した。ハレーは呆気あっけに取られた。口を開いたまま呆然ぼうぜんと、的から立ち上る煙を眺めている。

「私の勝ちね。ハレー」

美女はふふっと笑うと、ライフル銃を置き、保護眼鏡と耳当てを外した。そしてレザージャケットのチャックを開け、まとめた髪の毛を再び解くと、色気たっぷりに髪の毛をかきあげた。

「私はベネラよ。あなたと同じ、戦闘に特化したアンドロイドなの」

ジャケットの胸元から覗く豊満な谷間にすっかり気を取られてしまったハレーは生唾を飲み込み、しどろもどろになりながら言った。

「お、お前も……アンドロイドなのか?」

「そうよ。ハレー、あなたは凄く強いって聞いたわ。私、強くて優しい人が好きなの。あなたと知り合えて嬉しいわ。よろしくね」

そう言うとベネラは、少しだけ背伸びをしてハレーの頬にキスをした。そして、妖艶な笑みを零すと、小さく手を振り去って行った。

「なっ……なんだあいつは?!」

驚くハレーの顔がみるみる内に赤くなったのだった。ベネラは淡々とジャケットのチャックを閉めると、冷静な表情を浮かべてエリアの出入り口に隠れている暁子の元へ行った。

「暁子、これでいいんでしょ?」

「ベネラ、あんたは最高だよ。ハレーのあんな顔、初めて見たわ。面白いったらないね」

暁子はそう言うと、珍しく声に出してケラケラと笑った。ベネラは眉をひそめて言った。

「暁子の言う通り、見るからに野蛮やばんな男ね。気に入らないわ」

「まぁまぁ、そう言わずにさ。あんたに頑張ってもらわないと、このセンターも、イオや雄飛、彗だって大変なんだよ。アンドロイドの未来はベネラ、あんたにかかってんのさ。頼んだよ」

暁子はそう言うと、自分より背の高いベネラの背中を叩いた。

「アンドロイドの未来って……大袈裟おおげさね。でもいいわ。あの男を黙らせるミッションなんて面白いじゃないの。やってやるわよ」

ベネラはそう言って不敵な笑みを浮かべたのだった。

その後、ハレーはベネラの色仕掛けにハマり、あっさりと彼女にちた。暇さえあればベネラを自分の部屋に呼び、ベッドに押し倒した。しかし、ベネラはイオとは違った。

「いいかい?ベネラ、ハレーに求められてもホイホイ身を委ねるんじゃないよ?もったいぶるのさ。そうして、あいつが飽きないように上手く遊んでやっとくれよ」

「ふふっ。暁子ってば悪い人ね」

そう言いながら、ベネラ自身もハレーをもて遊ぶのを楽しんでいるようだった。すっかりハレーが大人しくなったので、センターには平和が訪れた。

「こんなに平和なの久しぶりですね~!」

雄飛の研究室で、ハレーの最新データを見ながら彗が嬉しそうに言った。雄飛はため息を吐いた。

呑気のんきに紅茶なんか飲んで……本来なら君がハレーの面倒をきちんと見なきゃならないんだぞ」

「まぁまぁ雄飛、落ち着いたんだからいいじゃないの。それより……」

イオがそう言いながら、雄飛の白衣の裾を掴んだ。ほんのりと頬を赤らめている。雄飛はその顔を見て、彼女が何を言おうとしているのかを悟った。

「イオ、もしかして治ったのか?」

「うん。薬が効いて生理の周期も戻って排卵もきちんとするようになったの。だからもう大丈夫だって暁子先生が……」

「マジか、おめでとう。あっ、で、でも暁子先生は実験を再開するかはまた後で決めるって言ってたよな?」

「うん。暁子先生に実験はどうするの?って聞いたら、水端教授から再開しろって指示が来てるから好きなタイミングで初めていいって言われて……」

すると、イオは恥ずかしそうに目をらしながら言った。

「相手は雄飛じゃなきゃ絶対嫌って言ったの。そうしたら暁子先生。当たり前じゃないか、他に誰がいるんだいって……」

「イオ……」

雄飛はイオの両手を握ると、彼女のブルーの瞳をじっと見つめた。イオは雄飛の目に熱が宿ったのを見逃さなかった。ただならぬ二人の様子に、彗は慌てふためいた。

「イ、イオ!治って良かったですね!じゃ、じゃあ、僕は退散しますね!お邪魔しちゃ悪いですから!」

彗は急いでパソコンを閉じると小脇に抱え、マグカップを手に取ると雄飛の研究室を飛び出して行った。

「彗のやつ、また声裏返ってたな。しかも色んなとこに足ぶつけてた。どんだけ慌ててんだよ」

「雄飛ったら、あまり彗をからかっちゃ可哀想だよ」

二人はくすくすと笑うと、再び見つめ合った。雄飛は言った。

「イオ、アンドロイドにも人間と同じように心や感情があることを君が証明してくれたんだよ。本当にありがとう」

「雄飛……アタシの方こそ、人間と同じように接してくれてありがとう」

雄飛は微笑むと、イオの唇に自身の唇を重ねた。熱い吐息と舌先が甘く絡み合って、雄飛は自身の体が熱くなるのを感じた。

「んんっ……ああ、もう、我慢できない……っ」

余裕のない表情でそう声を上げると雄飛は、イオの体を思い切り抱きしめたのだった。
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