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第8話 切ない三角関係 ✳︎
しおりを挟む「最近、イオの様子がおかしいんだ」
ミーティングの後、ため息交じりに雄飛は彗に言った。
「おかしいって……どんな風にですか?」
「積極的に関わり合おうとしないんだ。触れようとしても避けられるし、イオの方から話かけて来なくなった」
彗は内心ぎくりとした。理由は何となく思い当たったからだ。
「雄飛くん、もしかして君はまだ知らないんですか……」
「俺が知らないって、何が?」
雄飛は不意に胸騒ぎがした。そして、彗に言われる前に言った。
「もしや、イオはもうハレーと……?」
彗は遠慮がちに頷くと、とても言いにくそうに言った。
「これ、言ったら君はたぶん怒ると思うのですが……」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「……実験開始前夜に、もう関係を持ったそうですよ。ハレーが嬉しそうに僕に報告してくれたんです。イオはとても純情で良い子だったと……」
その瞬間、雄飛はテーブルに拳を叩きつけた。彗は驚いて悲鳴を上げた。
「ひゃあ!雄飛くん、落ち着いてください!」
「あいつ!水端教授の言いつけまで破ったのか?!イオはあの日の夕方、凄く不安がっていたんだ。ずっと俺の顔を見て何か言いたそうにしてた。一緒にいて欲しかったのかもしれない。家に連れて帰ることも考えたけど、さすがにハレーでも前夜に襲ったりはしないだろうって……くそっ完全に油断してた。イオ、どんなに怖かったか……」
「で、でも、危険通知は来なかったんですよね?だったら、イオはスイッチを押す必要がないと思ったんじゃないですか?ハレーも良い子だったと言ってましたし……」
雄飛は彗の言葉を遮って声を荒げた。
「ハレーは嘘を吐いてる。イオが黙って受け入れるはずがない!彗、ハレーか俺か、君は一体どっちの味方なんだ?!ハレーを見張ってくれるんじゃなかったのか?」
すると、彗は静かな声で言った。
「確かに僕はハレーを一人にしました。イオの部屋の鍵を開けてしまったのも、僕がハレーに特殊な機能を付けたからです。それは本当に申し訳ないと思っています。しかし、父の言葉を借りれば『遅かれ早かれどっちにしろ二人はそういう関係になった』つまり二人が関係を持つのが実験前夜だろうが当日だろうが、結果は同じってことです」
「……水端教授にも報告したのか?」
「もちろんですよ。さっきも言いましたが、父は気にも留めていませんでした。良い子が産まれるといいなと喜んでいたぐらいですから」
雄飛は言い返す言葉が見当たらず、黙ってしまった。彗は言葉を続けた。
「雄飛くん、僕はプロジェクトのメンバーでもありますが、ハレーの担当でもあるんです。だから上層部の意向には従う必要があるし、担当のアンドロイドの言う事を信じたい気持ちもある」
「……悔しいけど、君の言う通りだ。でも、ひとつ気になることがある」
「何ですか?」
「ハレーはイオの処女を奪った。じゃあ、ハレーは?まさかイオが初めての相手じゃないよな?」
すると、彗は眉をひそめた。そして、少し遠慮がちに答えた。
「……はい。ハレーは初めてではありません。それなりに経験を積ませました」
「相手は誰だ?ここの人間なのか?」
彗は首を横に振った。
「違います。そういう施設に通わせたんですよ。まぁ……地球にいた時も古くからありましたけど、男性が性欲を処理する専門の施設ですよ。もちろんアンドロイドということは伏せて」
「なるほど、そういうことか……」
ハレーが妙に女性に慣れていることを雄飛はずっと不思議に思っていた。ようやく合点がいき、雄飛は大きく頷いた。と、同時にこう思った。
(俺がもっと早く、イオを最後まで抱いていれば……グズグズしてたからだ)
雄飛がため息を吐くと、彗が遠慮がちに口を開いた。
「あと……雄飛くんには酷な話かもしれませんが、ハレーはイオを愛しています。とんでもない奴だし乱暴ですが、彼女への愛は本物ですよ」
その瞬間、自分の心の中に嫉妬と悔しさが入り混じったようなドス黒い感情が生まれ、雄飛は苦しくなった。
「……でも、イオの気持ちは一体どうなんだ?」
「それを確かめるのが、彼女の担当である君の仕事ではないですか?」
ある日、雄飛とイオは研究室でそれぞれの仕事や作業に没頭していた。イオはあれから木星の研究にハマっており、自分のパソコンにデータをまとめていた。雄飛はイオの身体や学力的なデータを分析して、報告書を作成していた。
(同じ部屋にいるのに、何の会話もないな……)
パソコンのキーボードを無心で叩くイオの小さな背中を眺めながら雄飛は寂しく思った。
(でも、パソコンの作業なら自分の部屋でもできるのに、何でわざわざ俺の研究室で?)
雄飛が首を傾げた、その時だった。扉が開いて大男が入ってきた。
「よう、お二人さん」
「……ハレー、何しに来た?」
敵対心を剥き出しにした雄飛の鋭い視線を楽しそうに受け止めながら、ハレーは言った。
「ふん、お前になんか用はねえよ。オレの女を迎えに来たんだよ。おい、イオ」
イオは振り向くと、ハレーに微笑みかけた。
「……ハレー、待って。今行くから」
二人の様子を見ている内に雄飛の中で沸々と怒りが湧いてきた。雄飛は突然、立ち上がるとイオに向かって声を荒げた。
「イオ、何で俺のこと無視するんだ?」
「……」
「分かったよ。そんなに奴のことが好きなんだな」
「雄飛、待って」
「水端教授の言いつけを破って、実験前夜にお前を襲うような、こんな野蛮な奴のことをな!」
「やめて……それ以上は……」
イオが首を横に振りながら声を震わせて言った。すると、ハレーが低い声で言った。
「おい、貴様。今なんて言った?」
「……」
「なんて言ったかって聞いてんだよ!聞こえてんだろ?!」
その瞬間、雄飛は自分の中でプツンと何かが切れる音を聞いた。気づいたら、拳を振り上げ、目の前の大男に向かっていた。
「うあああ!」
しかし、ハレーはその拳をいとも簡単に片手で止めてしまった。そして、雄飛のその腕を思い切り引っ張ると、もう片方の手で雄飛の頬を殴った。勢いで床に倒れ込んだ雄飛の元へ、イオが駆け寄った。
「雄飛!ハレー、なんてことするの?!」
「ふん、オレに殴りかかろうなんざ100年早えんだよ」
その時、騒ぎを聞きつけたのか彗が駆け込んできた。
「ハレー!何してるんですか?!」
ハレーは彗の顔を見ると面倒臭そうに舌打ちをした。
「うるせえな。こいつがオレに殴りかかってきたから、返しただけだ」
「なっ……雄飛くん、本当ですか?」
「ああ、嘘じゃない。ハレー、前にも言ったが、俺はお前のことが大嫌いだ。正直、殺してやりたいと思ってる」
「ゆ、雄飛くん!」
「貴様、言うじゃねえか。もういっぺん殴られたいようだな」
ハレーは再び拳を作ると、片方の手のひらに何度も打ちつけてにやりと笑った。すると、イオが声を上げた。
「ハレー!やめて!これ以上、雄飛を殴らないで!」
「なんだ?イオ、お前はこの期に及んでまだこいつを庇うのか?」
イオは何も言わずにハレーのことをじっと見つめた。その目には雄飛への愛情の色が浮かんでいるのを見て、ハレーは苛立ちを覚えた。
「分かった。こいつにはもう手を出さない。じゃあ、俺の言う通りにしろ。イオ、お前は金輪際、こいつと関わるな。口を聞くのも許さない。お前はただ、俺のガキを産むことだけを考えてろ」
イオの体が一瞬強張ったのを雄飛は感じた。イオは大きく頷き、分かった、と言うと雄飛の体をそっと抱き締めて、彼にしか聞こえない声でそっと囁いた。
「雄飛、本当にごめん。あなたのこと嫌いになったワケじゃないの……」
「イオ……っ!」
雄飛の叫び声も空しく、イオはハレーに連れられて部屋を出ていってしまった。
「アンドロイドと担当が関係を解消しなきゃいけないなんて前代未聞です!一体どうしてこんなことに……!」
彗は頭を抱えたのだった。
ハレーの部屋に連れていかれたイオはベッドに押し倒され、乱暴に服を脱がされた。
「ハレー、ま、待って……んんっ!」
強引に唇を塞がれ、体中をまさぐられた。
(ハレー、凄く怒ってる……雄飛だけじゃない、たぶんアタシに対しても)
「クソッ……お前はオレのもんだ。あいつただの人間のくせに……イライラするぜ」
そして、イオの秘部に自身を押し込むと、荒々しく腰を打ち付けた。
「ああっ……!やんっ……!」
「イオ……っ!お前は誰にも……渡さない……っ」
怒りと興奮が入り混じったハレーの視線から逃れるために、イオは咄嗟に目を瞑った。そして、ハレーの大きな背中に腕を回した。ハレーは彼女の小さな体を思い切り抱きしめた。しかし、イオの心の中にあるのはハレーではなかった。
(雄飛……アタシはセックスが好きなんだと思ってた。でも、違った。雄飛が好き。アタシはアタシの使命を果たす為にハレーに身を委ねなきゃいけないのは分かってる。でも、ハレーに何度抱かれたってアタシは……)
「イオ……っイクぞ……っ」
「んん、うん……いいよ、ハレー……んああっ!」
(ゆうひ……、アタシはあなたに抱かれたい……今どうしようもなく、あなたが恋しい……)
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