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第4話 これは恋? ✳︎

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イオは雄飛の研究室で数学の勉強をしていたが、長く数字とにらみ合っているためか目が疲れてきた。タブレットから目を離すと、両手を伸ばして欠伸あくびをした。

「ふぁ~疲れた……ん?」

そして、窓の外を眺めようと席を立った。ふと雄飛のデスクに目をやると、パソコンが開かれたままになっていた。何となく気になり、イオは画面を覗き込んだ。そこには木星に関しての膨大な資料が映し出されており、難しそうな英語や単語が並んでいた。

「うーん、読めないや……あれ?」

イオはそこに覚えのある短い単語を見つけた。

「Jupiter I Io……イオ?」

覚えたての英語を何とか駆使くしして文章を読み込んでいった。

「なになに?木星には、衛星が80個以上発見されており、そのうち、大きな4つの衛星であるイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストは、ガリレオ衛星という……」

イオは驚きのあまり思わず立ち上がった。

「アタシの名前って……木星の衛星だったの?!」

「何勝手に人のパソコン見てるのかな?」

イオが咄嗟とっさに振り返ると、そこには雄飛がいた。調べたい物があるといって、しばらく席を外していたのだが、戻ってきたのだ。

「雄飛!ご、ごめんなさい。ちょっと気になっちゃって……」

すると、雄飛はパソコンの画面を見つめ、納得したような顔を浮かべると言った。

「なるほど。君は自分の名前の秘密を知ってしまったってわけだ」

「ご、ごめんなさい……」

「それより、イオ。君には特殊な能力があるって気づいてた?」

「特殊な能力……?子供が産めるってことじゃなくて?」

「そう。他の能力だよ」

雄飛はそう言って得意げに微笑んだ。イオはしばらく考えたが、苦い顔をして呟いた。

「うーん……思い当たることが何もないんだけど……?」

「まぁ、教えてないんだから気づく訳ないか……君の目には特殊なレンズが入っていて、天体観測ができるんだよ。望遠鏡みたいにね」

「て、天体観測……?ええっ?!」

イオは驚きのあまり声を上げた。

「そのレンズを通せば、太陽系の惑星とその衛星を全て詳細に観察することができるんだ。もちろんそれ以外の星もね。まっ、これも完全に俺の趣味だけど……ほら、ちょうど一番星が出てきたから、早速起動してみようか」

雄飛はそう言うと、イオを窓辺に連れて行った。正面の高層ビルの上には夕焼けが広がり、一番星が光っていた。雄飛はイオの金色の髪の毛をそっと左耳にかけると、シルバーの小さなピアスを付け、軽く触れた。その瞬間、イオの瞳の色が濃厚なブルーに変わった。

「あっ!」

「どう?見える?」

「す、凄い……!まるで天体写真みたい……!」

その星は金色に光り輝いていた。表面は無数の傷がついてザラついており、ところどころに月の表面のクレーターのようなものがあった。望遠鏡ではない、自分の目に直接映るその金色の星にイオは一瞬で心を奪われた。

「この星は何?」

「金星だよ。メトロポリス星は地球よりも金星に近いから、地球で見るよりも大きくて強い光りを放ってるように見えるんだ。で、ピアスをもう一度触ると……パソコンにデータが送れるようになってる」

雄飛はイオのピアスにもう一度触れると、自分のパソコンのキーボードを軽快に叩いた。そして、画面をイオに見せた。そこにはイオが今見た金星の姿があった。

「す、凄い!ねぇ雄飛、木星も見えるの?」

「もちろん。でも、もう少し暗くならないと見辛いかもしれない。木星はまた今度な」

雄飛はそう言うと、ピアスを外し、イオの頭を撫でた。そして、言葉を続けた。

「しかし、勝手に人のパソコンを覗いたことはいけないな」

「そ、そうだよね。ごめんなさい」

「イオはいけない子だ。じゃあ、ちょっとお仕置きをしないと」

雄飛はそう言うと、口元を緩めた。先程の優しい微笑みから一転、悪戯っぽい笑みを浮かべた。イオはその笑顔を見て、これから彼が何をしようとしているのかを悟った。不覚にも胸が高鳴ってしまい、戸惑った。

(い、いやだ。アタシってば何を期待して……)

次の瞬間、イオの唇を雄飛が塞いだ。ちゅっちゅっとついばむようにキスを繰り返すと、雄飛はイオの舌先を自分の舌で絡め取り、深く味わった。

「んん……っ」

「はあ……っ。イオ、目がトロンとしてるよ。もう感じてるの?早いな」

唇を一旦離して、雄飛が意地悪っぽく笑って言った。イオは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。

「ち、違うもん……ひゃっ?!」

雄飛は突然、イオの体をひょいと持ち上げると、テーブルの上に座らせた。そして、同じ目線になったイオのブルーの瞳をじっと見つめた。雄飛の目に熱が宿ったのを感じ、イオの胸がまた高鳴った。

「何がどう違うの?」

雄飛の右手がイオのスカートの中に滑り込み、滑らかな内腿うちももをゆっくりとなぞる。左手は首筋から胸元にゆっくりと降ろしていき、ニットの上から膨らみを優しく愛撫する。

「あぁ……だめ、さわっちゃ……んんっ」

「何で?触られるの好きなんでしょ?」

雄飛はイオの耳元で意地悪くそうささやくと、内腿を触っていた手をずらして、下着の上から秘部にそっと触れた。突然、敏感な場所をなぞられ、イオは思わず体を震わせた。

「ひゃっ!」

「もうこんなに熱くして……。ああ、そうだ、イオ。随分前にこの続きがしたいって俺に言ったよね?」

「んん、あぁっ……えっ?」

雄飛はイオの敏感な場所を愛撫する手を止めることなく言った。初めてイオに触れたあの日から雄飛は事あるごとに彼女の体に触れた。そして、たっぷりと愛撫し、その体に覚えさせるように何度も快楽へ導いた。しかし、いまだに「その先」を確かめることはできないでいた。

(正直もう我慢の限界だ。俺は彼女の中を味わいたい)

雄飛は彼女を絶えず愛撫しながらも、自分の体が熱くなるのを感じながらそう思った。一方、イオは快感に耐えながら必死で彼の意図を汲み取ろうとした。

「つ、続きって……んんっ、なに?どういうことするの……はぁんっ」

「……続き、欲しい?」

そう尋ねる雄飛の目に、これまでとは比べ物にならないぐらいの熱を感じて、イオは胸がきゅっとなった。

(ああ……アタシはきっとこれからもっと……)

イオは緊張した様子でゆっくりと答えた。

「うん。欲しい……」

雄飛は静かに頷くと、イオの下着を脱がせた。露になったそこはもう妖艶ようえんな蜜で溢れ返っていた。雄飛は思わず生唾なまつばを飲み込んだ。

(いよいよだ……今日こそ俺はイオを……)

雄飛は白衣を脱ぎ、青いシャツのボタンを外し、ベルトに手を掛けた。その時だった。

「雄飛くん!大変です!これから父が来るって……」

研究室の扉が勢いよく開き、彗が飛び込んで来た。その場に一瞬の気まずい沈黙が流れる。

「……って、二人とも何してるんですか?!」

雄飛とイオのただならぬ様子に彗は真っ赤になって両手で顔を覆いながら叫んだ。一番良いところで飛んだ邪魔が入り、雄飛は一気に冷めてしまった。

シャツのボタンを戻し、ベルトに掛けていた手をそっと離して、イオのめくれたスカートを戻した。そして、彗の位置からイオの露になった下腹部が見えないようにさり気なく移動した。

「何って?イオと仲良くしてだけだよ」

背を向けたまま顔だけを彗に向ける雄飛はイオの髪を優しく撫でながら平然と言い放った。全く恥ずかしがる様子はない。

一方、イオは雄飛との濃厚な情事を、彗に見られてしまった恥ずかしさで一杯だった。

(ど、どうしよう!彗に見られた?パンツ履かなきゃ、ああっダメ、床に落ちてる……)

あまりの羞恥しゅうちにイオは顔を真っ赤にし、うつむいた。

(穴があったら入りたいっていう言葉があるけど……こういうこと?)

イオの心情を察したのか、雄飛が話題をそらすために口を開いた。

「で?水端教授がここに来るって?」

「そ、そうです!たぶん見学がてら次のミッションを伝えに来るつもりなんですよ!」

「分かった。すぐに準備するよ。教えてくれてありがとう、彗」

「ど、どういたしまして!」

彗は依然として顔を真っ赤にしながら、そう言うと急いで扉を閉めて去って行った。

「彗のやつ、よほどびっくりしたんだな。声、裏返ちゃってたね」

雄飛は楽しそうに笑いながら言うと、床に落ちたイオの下着を拾い、彼女に渡した。

「教授が来る前にシャワー、浴びておいで。そのままじゃ教授に会えないでしょ?」

「う、うん」

イオは雄飛の顔を直視できず、俯いたまま返事をした。すると、雄飛が意地悪そうな笑みを浮かべて囁いた。

「なに?もしかして、一人で洗えない?俺が洗ってあげてもいいんだよ」

「なっ、何言ってんの?!雄飛の変態!」

イオは驚きのあまり顔を上げると叫んだ。雄飛はハハハと楽しそうに笑って言った。

「冗談だよ、冗談」

その後、イオはすぐにシャワーを浴びた。火照った体を冷ますため、いつもよりも少しぬるめの湯で丁寧に全身を洗った。しかし、ついさっき雄飛に触れられたいくつもの場所にはまだ熱が残っていて、感触を思い出す度にイオは体が熱くなるのを感じた。

(だ、だめ。洗い流さないといけないのに……)

イオは蘇る快感を必死に抑えながら、湯の温度を更に低くした。その時、ふと思った。

(アタシ、セックスが好きなのかな……?それとも雄飛が好きなの……?)

イオは雄飛に自分の体を触れられるのが好きだった。意地悪く言葉で攻められることすら快感を覚えた。雄飛がそばにいない時、彼のことを考えるだけで胸が熱くなった。

(これって、雄飛のこと好きってこと?でも、それは錯覚で、私はただセックスが好きなだけなのかも……)

そして、雄飛のことを思い浮かべた。

(雄飛はアタシのことどう思ってるんだろ……?)

イオは触れられる度、雄飛に「セックスは子供を産むための営み」「愛する人と行う行為」と教わっていた。そして、自分は「子供を産むために開発されたアンドロイド」なのだということを十分に理解していた。だから、雄飛の行為は訓練でもあり、データを取るためのものだと思ったのだ。しかし、ひとつだけ引っ掛かることがあった。

(「男は好きじゃなくても抱ける」って雄飛、言ってた。でも、その後「俺は好きな人しか抱かないし、触らない」って……それって、アタシのことを……?だから、あんなに触ってくるの……?)

イオは首を思い切り横に振った。

(そんなワケない……だって、アタシはアンドロイド。雄飛はアタシを作った研究者、そんな関係だもん……)

そう思いながらも、イオは胸がしめつけられるような切なさを感じた。

(……ああ、なんかモヤモヤして、気持ちがまとまらない。人間って複雑な生き物なのね)

色々なものが混ざった複雑な感情に、イオは戸惑いを隠せなかった。悶々もんもんとした思いを振り払うようにイオはバーをひねってシャワーの水量を上げたのだった。

それから程なくして彗の父親、水端流が研究センターに現れた。年齢は50代半ば。息子である彗と同様に眼鏡を掛けていて、口元には常に微笑が浮かんでいる。黒髪をオールバックにしているのは天然パーマを隠すためだ。

彼はセンター内を一通り見て回り、進捗しんちょく報告を受けると満足そうな笑顔を浮かべた。

「諸君、毎日の研究、ご苦労。順調のようで安心している。早速だが、次のミッションの発表だ。いよいよ子供を作る実験を開始する。対象はもちろんイオ。相手は、先日完成したハレーだ」

その場にいた全員に衝撃が走った。何故なら、ハレーは完成した瞬間から問題を起こした「訳有り」アンドロイドだからである。イオは恐怖のあまり思わず息を飲んだ。

(アタシ……あの野蛮やばんで乱暴なハレーとセックスしなきゃいけないの?!)

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