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第2話 メトロポリス星とアンドロイドプロジェクト ✳︎
しおりを挟む疲れて眠ってしまったイオを彼女の部屋のベッドに寝かせると、自分の研究室に戻り、雄飛は頭を抱えた。
「イオはまさに俺の理想のアンドロイドだ。ルナにはなかったもの、出来なかったこと、ほぼ全部クリアした。でも……」
肝心の「その先」を確かめる勇気がまだなかった。
「くそ、やろうと思えば出来た。でも、俺は……」
イオのことを誰よりも大切に思っている。心から愛している。だから、そう簡単に彼女の処女をもらう気にはなれなかったのだ。
イオは人間が作った中で最も新しく斬新なアンドロイドだ。生殖機能を備えており子供を産むことが可能だ。長らく不可能と言われてきた神秘の領域に、人間は遂に足を踏み入れたのである。
イオの体内には協力者から提供された子宮と卵巣が備わっているが、イオの大部分を担っているのは「コア」という物体である。人間の細胞から作られたデータのようなものでこれも協力者から提供されたものだ。
「どうしてアタシは見た目が純粋な日本人ではないの?」
誕生して間もないある日、イオは鏡を見ながら雄飛に尋ねた。
「君はアメリカ人と日本人のハーフの女の子のコアを持っているんだ。だから、髪の毛は金色だし、瞳はブルー。でも体型は小柄。アメリカ人と日本人の両方の特徴を持ってるんだ」
「そっか。じゃあ、ちょっと太ってるのも、その影響なの?」
雄飛は思わず笑って言った。
「イオ、君は自分が思うほど太っていないよ。少し肉付きが良いだけだ」
「そうなの?」
「うん。まぁ、体型はどちらかというと……俺の好みで作ったようなもんなんだけど……」
「えっ?」
「い、いや、何でもないよ」
20歳のイオは身長が150センチ程しかない。しかし、胸は大きめに作られている。雄飛はスタイルが整った美人よりも、アンバランスな魅力を持った女性が好みなのだ。そもそも、雄飛がそんなアンドロイドを作るキッカケとなったのは一体何だったのか。発端は約十数年前まで遡る。
西暦3xxx年、地球は温暖化と繰り返される争いの影響で汚染され、遂には住めなくなってしまった。事態を早くから想定していたアメリカを始め各国は地球外移住計画を立て、賛同する国を集めて共同組織を作った。
その時点で中心国アメリカは人間が住むことのできる星をいくつか発見していた。その中から地球から程近く、地表と空気が存在しており、共同体組織の加盟国全てが移住できる小さな星が選ばれた。地球と太陽系惑星・金星の間にあるその星を、アメリカは「地球外の首都、都市」という意味で「メトロポリス」と名付けた。そして各国は国民がこのメトロポリス星へ移住する為の巨大な宇宙船をいくつも制作した。
しかし、地球の危機は予想以上に早く訪れた。移住する為の宇宙船にどのぐらいの国民が乗ることができるのかという問題が発生。地球滅亡までの時間を計算すると、各国は全ての国民を宇宙船に乗せ切れないということが判明し、乗り込む国民に優先順位を付けざるを得ないような状況に陥ってしまった。これに反発した各国民達が次々にデモを起こし、やがて大きな争いに発展。皮肉にも、それが地球の滅亡を早めるキッカケとなってしまったのだった。
当時、高校生だった太宙雄飛はその争いの真っ只中にいた。連日、各地で起こるデモや争いを目にしていたが、どこか他人事のように傍観していた。
「俺もどうせ宇宙船に乗れないんだろうな」
そう言いながら、学校から帰ると自宅に作ったアトリエに籠ってアンドロイド制作に没頭した。彼の父親は外科医、母親は科学者だったため彼は幼い頃から理数系に強く、成績は常にクラス一番だった。太陽系の惑星が好きで子供の頃は宇宙飛行士になって太陽系の惑星を巡るのが夢だった。しかし、高校生になった時、ある出会いが彼の運命を変えた。
多忙な両親が若い女性を家政婦に雇った。その女性はアンドロイドだった。当時、大手企業や飲食店などが人員確保のために積極的に導入していたため、アンドロイドは珍しいものではなかった。だが、一般家庭にはまだ殆ど浸透していなかった。雄飛は年甲斐もなく舞い上がってしまった。
「ユウヒ、夕飯デキタヨ」
「ああ、ありがとう。ルナ。助かるよ」
艶やかな長い黒髪が印象的な彼女は雄飛より10歳年上だった。父親が知り合いのアンドロイド研究者から欠陥があるという理由で格安で手に入れた。片言の日本語、低身長なのにグラマラスというアンバランスなスタイルに少々問題はあったものの、テキパキと家事をこなした。そして、両親がいない間の雄飛の世話も積極的に行った。
雄飛は当時から人には言えないある性的な悩みを抱えていた。その所為で彼女が出来ても引かれてしまいすぐに振られるといったことを繰り返していた。しかし、ルナは雄飛のその悩みをも解決してしまったのだ。雄飛は一瞬で彼女の虜になった。
「ルナ……っ。愛してるよ……」
雄飛は彼女に自身の性的な悩みを解決してもらう際、彼女と肌を重ねた。滑らかな肌をなぞり、膨らみを愛撫した。しかし、彼女が嬌声を上げることは一度もなかった。
「ルナ、何も感じない?」
「うん……ユウヒノテハ、あったかくてココチイイけど」
そう言って微笑むだけだった。彼女は不感症だった。もちろん、熱い、冷たい、寒い、痛い、などの感覚はあったが、性的な感覚までは備わっていなかったのだ。だからルナは雄飛を自分の手で快楽に導くことはできたが、自分が味わうことは出来なかった。雄飛の手の暖かさや優しさを肌で感じ、安心する。ただ、それだけだった。
ルナは雄飛の悩みを解消し、彼を満足させることができたが、本当のセックスができないことを雄飛は寂しく、また感じることができないルナを不憫に思っていた。それでも雄飛はルナのことを心から愛していた。
「ルナ、俺と付き合って欲しい」
「ユウヒ、アタシ、とてもウレシイ。でも、父と母にバレたら大変……ダカラ、アタシ、ユウヒとは付き合エナイ」
雄飛の告白にルナはそう言って目を潤ませた。そして、ある日突然、姿を消してしまった。初めてありのままの自分を受け入れてくれた彼女を失い、雄飛はショックでしばらく塞ぎ込んだ。雇ったアンドロイドは突然消え、息子は部屋に閉じこもって出て来ない。二人とも理由は告げなかったため、両親は訳が分からず困惑した。彼女のことをどうしても忘れられない雄飛は、ある日突然思いついた。
「いないなら、俺が自分で作ればいいんだ」
そして、アンドロイドの研究を独自で始め、高校を卒業する頃には第1号となる試作品が完成した。
「君はルナ2号だ。俺は雄飛。よろしくね」
「私はルナ……」
ルナに似せて作られたそのアンドロイドは言語もしっかりしており、完璧な出来栄えだった。1人の男子高校生が誰の手も借りずにアンドロイドを作ったと世間から注目を浴びた。しかし、雄飛はそんな世間の目などどうでも良かった。再び愛しいルナに出会えたことだけが喜びだったのだ。地球が滅亡するとか、宇宙船に乗れないとか、そんなことはどうでも良かった。
「人間はどうせいつか死ぬんだ。理由が違うだけ」
だから彼は自分に宇宙船の乗車権限が与えられると知った時、酷く驚き、困惑した。
「何で俺なの?他にもいるでしょ?」
幼馴染の水端彗から直接連絡を受けた時、彼は真っ先にそう言った。彗の父親は名門大学の教授で、昔からアンドロイドの研究に携わっており、天才学者として有名だった。その血を受け継いだ彗も例外ではない。幼い頃からIQ知能がズバ抜けて高く、天才児と言われていた。そのため、学業に励みながら父親と共にアンドロイド研究も同時に行っていた。
「そ、そんな冷たいこと言わないでくださいよ。雄飛くんにはぜひ一緒にアンドロイド制作に携わって欲しいんです!」
目の前にいる彗は投影しているデジタルウォッチの不具合の影響で若干霞がかかったようになっている。だが、音声はしっかりしていて会話は問題なくできるようだった。
「はぁ?どういうこと?」
「実は僕の父がアンドロイドプロジェクトっていう計画を立ち上げたんです」
「アンドロイドプロジェクト……?何だ?それは」
大きめのオレンジ色のパーカーの上から白衣を羽織っている彗は、度のキツい丸眼鏡をクイっと上げた。そして、得意げな顔で口を開いた。
「移住先のメトロポリス星でアンドロイドを製作して、人員補充するんです。宇宙船絡みの連日の騒ぎ、雄飛くんも当然知ってますよね?このままだと移住先では確実にわが国の人口は減る。だから、父は精巧なアンドロイドを何体か作ることにしたんです」
彗は、もじゃもじゃした黒髪を細い指先でくるくるとこねくり回している。彼のクセだ。
「何となく内容は分かったけど、アンドロイドを何体か作ったところで補充し切れないんじゃないのか?」
すると、彗は人差し指を振りながら更に得意げな笑みを浮かべて言った。
「確かに雄飛くんの言う通りです。でも、話はまだ終わっていません」
「え?どういうこと?」
「アンドロイドに生殖機能を付けるんです。それで子供を作る。そして自然に人口を増やしていく。時間はかかりますが、これがアンドロイドプロジェクトの真の目的です」
驚きのあまり雄飛は思わず言葉を失ってしまったのだった。
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