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第24話 愛おしい傷痕 *

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北翔が記憶を取り戻したことで、センター内にはまた平穏が訪れた。プロジェクトメンバー達はまたそれぞれの通常業務へと戻って行った。

ある晩。彗は初めて自宅に北翔を呼んだ。正確に言うと呼んだのではない。北翔にせがまれたのだ。別に断る理由もなかったので、彗は承諾した。しかし、北翔が彗の自宅に行きたがったのにはきちんと理由があった。

「はい、コレ」

北翔は真っ白な包装紙に包まれている中くらいの箱を彗に差し出した。

「えっ?なに、これ?」

「開けてみて」

彗は丁寧に包装紙を開くと、箱を開けた。中にはガトーショコラが入っていた。

「ええっ?!な、なんで?えっ?これ、もしかして北翔が作ったの?」

驚きを隠せず、質問を畳みかけると北翔が少し唇を尖らせながら言った。

「なんでって今日バレンタインだから……彗の家で過ごしたかった。センターの厨房を借りて、わたしが作ったの。見て、これ粉雪みたいでしょ?」

北翔はガトーショコラの表面を指差して言った。

「う、うん。確かに。ああ、そうか……バレンタイン……すっかり忘れてた。ごめん」

「暁子だったらきっとケーキ投げつけてる」

申し訳なさそうに頭を下げていた彗は、北翔の言葉に咄嗟に顔を上げた。そして思わず噴き出した。

「北翔、ダメだよ。二人をからかっちゃ……」

「そんなこと言って、彗だって笑ってる」

「ははっそうだね!ガトーショコラ、ありがとう」

二人は笑い合った。

記憶を取り戻した直後、北翔はこれまで自分が置かれていた状況の過酷さや宵月明彦の死にショックを受けてしばらく塞ぎ込んでいた。

明彦がかつて北翔に語った「例え体がなくなっても、その人は自分の中で生き続ける」という言葉を彼女は何度も思い返した。が、理解することがなかなかできなかった。思い悩む彼女に彗は言った。

「僕は母のことをハッキリとは覚えてない。優しい笑顔や手のぬくもりをぼんやり思い出す程度なんだ。その度に寂しい気持ちになる。でも、最近分かったんだ。寂しいだけじゃなく、あったかい気持ちにもなるって。たぶん、僕の中でようやく母の存在が『良い思い出』になったんじゃないかな。まぁ、母は亡くなってはいないだろうけどね……」

それから北翔の中で明彦に対する何かが少しづつ変わり始めた。プロジェクトメンバーと積極的に関わっていく中で彼女は人の温かさを知り、様々な感情を知った。

(博士が教えてくれた言葉の意味、やっと分かった気がする。わたしの心の中には博士がいる。わたしに微笑みかけてくれる)

それからというもの、北翔の表情は驚くほど豊かになったのだった。

「そうだ。僕、あれから思ってたことがあるんだ」

「あれから?」

「北翔が記憶を取り戻して全部話してくれたとき」

「うん」

彗は隣に座っている北翔の目をじっと見つめて言った。

「北翔って名前に、全てが詰まっていたんだなぁって」

「彗……」

「北の大地をける。北海道を愛する宵月博士だからこそ付けられた名前だよね。北翔にピッタリで素敵な名前だと思うよ」

北翔は彗の顔をじっと見つめた。そして突然、彼の眼鏡を外すと唇にキスをした。

「んんっ……?!」

彗は驚き、慌てて唇を離した。

「ほ、北翔、いつも急過ぎるよ」

「彗、したい。セックスしようよ」

「ええっこのタイミングで?」

(彼女と付き合ってそれなりに経つけど、いまだにスイッチの入るタイミングがよく分からない……)

承諾する前に既に首筋に腕を回している積極的な北翔の顔を見て、彗は苦笑いしながらそう思った。

「ガトーショコラ、今食べなくていいの?」

「うん、いい。後で食べて」

「そっか、分かったよ」

彗はそう言って優しく微笑むと彼女の唇に自分からキスをした。そして、そのままベッドに押し倒すと、薄手の真っ白なニットの上から膨らみを揉みしだいた。揉み込む度に美しい形をした膨らみがゆがみ、彗は自身が高揚していくのが分かった。ニットをたくし上げてすぐに内側に手を入れ、下着を緩める。いつもならまず手で触って感触を確かめるのだが、彗はいきなり先端の突起を口に含んだ。

「やぁん!」

突然の甘い刺激に彼女が反応する。片方を舌先で転がし、もう片方は指先でくりくりと弄り回すと、彼女は気持ち良さそうに腰を揺らし、淫らに喘いだ。

「あぁん……はあん、気持ちいい……」

「腰、動いてるよ。もしかして、触って欲しいの?」

彗は顔を上げて言った。その目は心なしか悪戯っぽい目をしていた。初めて見る彼の目に、北翔の胸が不意に高鳴った。何度も頷いて訴えかけると、彗は楽しそうに答えた。

「頷くだけじゃ分からないなぁ。言葉にしてくれないとね」

そう言いながらも両方の先端を指先でくりくりと弄り回した。

「やっ……今日の彗、なんか意地悪……んんっ」

押し寄せる快感に耐えながら彼女は吐息交じりの声で言った。彗は閃いたような顔をすると更に楽しそうに言った。

「ああ、もしかしたら……統合した黒の影響なのかもしれないよ。いつも優しいばかりのセックスじゃ、つまんないでしょ?」

「んんっ……そうだけど……分かったから、早く……触って」

北翔は両手を、彗の両手に添えると甘い吐息を漏らしながら懇願こんがんした。潤んだ瞳で見つめられ、彗の胸が高鳴った。

(うっ……めちゃくちゃ可愛い。これは意地悪したくなる……今更、黒の気持ちが分かるなんて……)

彗は内心少し焦ったが、にこりと笑うと言った。

「仕方ない。注文は受けないとね」

デニムスカートの内側に手を入れ、内腿をいやらしく撫で回すと、彼女は再び甘い声を上げた。

「あん……やぁん」

彗は内腿の付け根に指先で触れた。下着越しでも分かるほど、そこは熱く湿っていた。スカートを脱がし、下着に手を入れる。指で花びらを愛撫すると、甘い蜜が次々に溢れ出て来た。

「すごい。もうこんなに……」

彗は自身の欲望がむくむくと反応するのが分かった。

(ああ、もう入れたい……でも、まだ。まだもうちょっとだけ……)

獣のような衝動を何とか抑え込むと、彗は花びらの中を優しく時にいやらしくかき混ぜながら、彼女の耳元に唇を寄せた。

「こんなに濡らして……早く入れて欲しいの?」

「んんっ」

低く吐息交じりに囁かれ、彼女の体がピクンと反応した。

「どうしたの?答えられないの?」

彗は耳元でそう囁きながら、指の動きを徐々に早めた。北翔は押し寄せる快感に耐え、目をぎゅっと瞑って言った。

「あぁ、もうダメ、その前に……イカせて……んんっ」

「我慢できないの?仕方ないなぁ」

彗は膨らみの先端を舌先で転がしながら、指の動きを一気に早めた。

「いや、ダメ、イッちゃう……!んん~~!!」

北翔は両手で彗の頭を抱き締め、思い切り果てた。彗は彼女の下着を剥ぎ取ると、自分の服も全て脱ぎ捨てた。

(もうダメだ、我慢できない!)

彗は硬くなった自身を北翔の潤った花びらに押し当てた。

「北翔、行くよ」

「うん、来て……彗」

彗はゆっくりと、北翔の中へ自身を潜り込ませた。徐々に入ってくる彗の欲望は深さが増す程、硬さも増した。北翔は愛する彼自身を中に入れたくて堪らなかった。彗がトラウマを乗り越え、自分だけを求め、完全に受け入れてくれるのをずっと待ち続けた。だから、痛みと快感が混ざり合うその待ち焦がれた感覚を、北翔は全身に刻み込むような思いで彼を受け入れた。

「ああっ……!すい……気持ちいいっ!」

「ほくと……これ、ずっと欲しかったんでしょ?」

彗はゆっくりと動きながら、彼女の耳元で囁いた。その後に彼女の首筋に刻まれている刻印しるしにキスをした。北翔は返事の代わりに何度も頷いた。

(ああ……北翔の中、柔らかい……気持ちいい……)

彗は彼女の中で快感に身を委ねた。ふと彼女の顔を見ると、自分の下で淫らに喘いでいる。雪のような白い肌は桃色に染まり、額には汗がにじんでいる。伏せた白いまつ毛は長くて美しく、彗は興奮を抑え切れなかった。彼女の腰を掴んで、一気に動きを早める。自分が動く度に、雪の結晶が揺れるのを彗は目を細めて眺めた。

「ほくと、イっていい?もう我慢、できない……っ」

息を切らし、上擦うわずった声で彗は彼女に尋ねた。額から大粒の汗が流れ、自分の体に飛び散ったのを見て北翔は胸が高鳴った。

(彗……すごい色っぽい……こんな顔、初めて見る……堪らない)

「いいよ、わたしもイカせてほしい……ああん!!」

「はあっ、うああっ!」

彗は激しく腰を打ち付け、彼女の中に自身の欲望を力の限り注ぎ込んだ。しかし、勢いづいた彗の欲望はこれではまだ終わらなかった。

「北翔、ごめん!」

彗はそう言うと、額に手を当てて肩で息をしている北翔の体を思い切り寝返らせ、うつ伏せにした。

「んんっ?!彗?!」

彼女が驚いて声を上げる。彗は彼女の背中に走る一本の大きな傷痕を愛おしそうに眺めると、指でなぞった。

「あぁん……!」

次は唇や舌先で優しくなぞる。彼女が甘い声を上げる度に彗の欲望は更に硬さを増した。

「北翔……君の話を聞いた後にこの傷痕を見るとね……より一層君のことを愛おしく思うんだよ」

そう言って、彗は背中と傷痕に優しくキスを落としていく。

「んんっ、すい……っ」

「生き延びてくれて本当にありがとう……。君に出会えなかったら今頃僕は……」

彗はそう言いかけると北翔の背中を抱き締めた。そして、横を向いている彼女の唇にキスをすると優しく言った。

「宵月博士が君を作ってくれて、本当に良かった……君に出会えて、僕は本当に嬉しい。幸せなんだよ」

顔に零れ落ちた純白の前髪の隙間から、北翔が微笑んだのが見えて彗は嬉しくなった。

「彗……わたしもだよ。キミがわたしの声に応えてくれたから。助けてくれたから……今、わたしはここにいる。ありがとう」

「北翔……」

彗はもう一度、彼女の唇にキスをすると、硬くなった自身を再び彼女の花びらに潜り込ませた。二度目の鋭くも甘い刺激に北翔は思わず顔を上げ、仰け反った。

「ああんっ!」

彗は白く滑らかな北翔の背中を見つめながら、腰を打ち付けた。先程とは比べ物にならないぐらいの熱く鋭い快感が押し寄せる。

「ああ、やばい、もうイキそ……っ。この体勢、堪らない……っ」

「すい、わたしもうダメ、あああっ!」

快感に耐え兼ねた北翔は彗より先に果てた。

「ほくと、もう……?でも、僕もそろそろ……うあっ!」

彗は腰の動きを一気に早め、再び欲望を彼女の中に注ぎ込んだ。力が抜け、彼女の背中に倒れ込んでしまった。

「彗、大丈夫?!」

突然、自分の背中に倒れ込んできた彗に驚き、北翔が横を向いて声を上げた。

「ご、ごめん。こんなに激しいの、初めてで……力抜けちゃった」

彗は息を切らしながら、へへへっと笑った。そして、彼女の頭に顔を寄せると、低く掠れた声で呟いた。

「ほくと……愛してるよ……」

不意打ちの愛の囁きに、北翔の胸が激しく高鳴った。自分の体の横に力なく置かれている彗の手をそっと握ると、北翔は言った。

「わたしも、愛してる」

その時、北翔は自分の手の中で力を失った、大きな手の感触を思い出した。

(ああ、あったかい。生きてるって伝わってくる……)

そっと目を閉じ、彗の手の温もりを感じた。そして、心から安堵したのだった。
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