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そばにいて下さい
しおりを挟む目を覚ますと、俺は一人だった。
「先輩……?」
まるでそこには誰もいなかったように、シーツのシワがキレイに伸ばされていた。
それでも、一人で寝ていたのではないことがわかるのは、身体中に広がるキスの痕のおかげだった。
チリチリと小さく痛み、触れると昨日の感覚が戻ってきた。
「んっ……」
左の首筋に、一際濃い痕がある。
その上を指でスッとなぞると、ゾクゾクと体が震えた。
その刺激に連動して、先輩の熱い息や立ち上る匂いに溺れそうになったのを思い出した。
肩を掴まれ、鎖骨から耳元へ向かってゆっくりと舐め上げられた。その最後に、思いっきり吸われたのだった。
そして、吸われながら反対の胸の尖端をトントンと押し込まれた。
「ふっ…ン」
俺が体を捩ってのけ反ると、その動きに合わせて先輩の膝が、俺の中心をスリスリと擦った。
「あっ……あ」
思い出すだけで、腹の奥がきゅうううんと切なくなる。
俺は膝を擦り合わせて、その感覚を逃がそうとした。
「はぁ……んぅっ」
でもダメだった。
先輩の手が俺の肌を滑っていく刺激や、
大きな体に包まれながら、後孔をその指が行き来するのを感じていた事、
その気持ちよさに溺れた事、
抉じ開けられてからは、息もできないほど気持ち良かった事。
幸せだった事。
そればかり、頭に次々と湧いてきた。
「せんば……戻ってきて。お願い……」
昨日からついさっきまで、何度も先輩のスマホに署から連絡が入っていた。永心の家は、先輩とは血縁にないから、仕事が入れば行かなければならない。
わかってる。
仕方のない事だ。
でも、起きて隣に誰もいないのは、俺には辛い。
小さい頃、夜中に目が覚めて、隣にいたはずの父がいなかった事を思い出すからだ。
その時、父はいつも池内を抱いていた。
おそらく先天性のセンチネルだった俺が、問題なく生きられていたのは、
今となって考えれば、ガイドだった父がいつも一緒にいてくれたからだった。
その父が、だんだん俺を置いて、自室で池内を抱くようになっていった。
その父の姿を見てしまったのは、12歳の頃だった。
ボロボロになって崩れ落ちるまで抱き合っていた。
満たされた顔をする池内を見て、俺の心は枯れていくようだった。
「俺よりも、池内の方が大切なの?」
だれか、となりにいて。ひとりでねむりたくない。
その気持ちを持て余した挙句、俺はどんなバースでもケアしてくれる私立中学の寮に逃げ込んだ。
それ以来、半年前までほぼ絶縁状態だった。
俺は本能的にセンチネルの力を抑え込み、レイタントになっていた。
それが、半年前に事件現場に残っていた池内の力に刺激されて、突然覚醒した。
その時から、永心家との行き来が復活した。
もうすぐ家族会議の時間だ。
俺は、あの頃起きていた家の問題を知ることになる。
それを知ったら、あの時の寂しさは消えるだろうか。
「一人で、耐えられるだろうか…」
ノロノロとではあったけれど、スーツに着替えてソファに腰を下ろした。
立ちあがろうと思うけれど、気力が湧かずにぼんやりと床を見つめることしかできなかった。
「マズいな。ゾーンアウトするまでこのままかも知れない…」
その俺の鼻に、知らせが届いた。
甘いカプチーノの香り。
それとエスプレッソの香り。
にがくてあまい香りと、大好きな人の匂い。
それが混ざって、近づいてくる。
俺は待てなくなって、廊下へと飛び出した。
「おはよう、永心」
そう言って笑う先輩の顔を見て、俺は思いっきり大きな声をあげて泣いた。
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