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heartbeat
9「怖いくらいに」4
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「んっ」
早木さんは言葉では何も返さず、吸い寄せられるように俺の唇へと近づいた。ついさっきされたような、ゆっくり触れて焦らすようなキスを、あの体の奥から震えるようなキスを、もう一度与えてくれる。
「あっ、はんっ、ン」
二人一緒にゆっくりと倒れ込む。唇で繋がりあったまま、彼は俺の後ろに回った。こうやって抱きしめられると、背中から幸せの粒子が蒔かれているような感じがする。その広がりが俺は何よりも好きだ。
背中を触られるとオキシトシンが分泌される。それは幸福感をもたらしたり、恐怖を薄れさせると言われている。
俺のようにいつも孤独とそれに対する恐怖に怯えているタイプの人間にとっては、こうやって抱かれながら背中に触れられることは、深く安心することが出来る貴重な機会で、一種のセラピーのようですらある。
包まれるようにして片腕で抱きしめられたままの状態で、もう片方の手は脇腹をスーッと滑っていく。背中や首には優しいキスがいくつも降っていて、時折耳の近くに響く音に体が打ち震えた。
「あ、ン、んっ」
「……そんなに気持ちいいの? 肌に触れてるだけなのに」
気持ちがいいと言えばそうだ。でも、この行為が俺にもたらすものは何よりも幸福感が大きい。乾いた土に水が染み込むように、ひたすらに気持ちが満たされていく。水分が増すほどに幸せを感じる細胞は充填され、隙間だらけだった心は、いつの間にか隙間なくぎゅうぎゅうに満たされていく。
「んっ。こ、この時間が……いちばん……す、き」
「そう? じゃあいっぱい撫でてあげるよ。これ塗ってもいい?」
そう言って俺の目の前に出されたのは、フランス語が書かれたジャータイプのボディークリームだった。それは俺が昔よく使っていたもので、本当に心が荒んでいた時にこの香りに癒されていた。
臨床実習に入り始めてからは、患者さんへの影響を考えて使うのをやめていた。ただ、レイさんからはこれは俺の香りだと言い切ってもいいくらい似合っていると言われたことがある。
『バニラ、ゼラニウム、ピオニー、シナモン? 甘ったれのくせにツンケンしてるあんたらしいじゃないの』
「あんっ」
そのクリームを掬った手が下腹を滑り、上へと登ってくる。期待に揺れる場所は外して、ただひたすらに肌をクリームと手が滑っていく。首筋を撫で上げられたかと思えば臍の下まで滑り降り、もう一方の手では震える腿から足の先まで丁寧にそれを塗り込まれていく。
「これすごくいい香りだよね。背中から香ってるのに気がついた時、すごく惹かれたんだ。でも最近してなかっただろう? レイさんに事情聞いて、いつか俺が塗ってあげられたらいいなと思って買っておいたんだ」
「あんっ、ン」
そんな関係になれるかどうかもわからないのに、こんな高いものを買って備えておくなんて……俺には到底理解出来ない。でも、そこまで強く俺のことを思っていてくれたのかと思うと、胸の奥と下腹の奥の方にぎゅっと切なさが宿る。
「渚くん……、俺は仕事でもなんでも、狙ったら絶対に逃さないと決めてるんだ。それで結果が出せるのなら、なんでもするんだよ」
「ンあっ……!」
時折現れる獰猛な肉食獣のような強い主張に、背中からぞくりと震えた。ちょうどそのタイミングを狙ったかのように、強い刺激が刹那だけ与えられる。逃せない欲が、ナカを灼いた。
するすると肌を滑り、僅かに強い刺激を走らせることを延々と繰り返され、それがいつくるかと構えているうちに、いつの間にか待てなくなり、ついにはそれを請う気持ちが生まれ始めていた。
「あっ、もっ、やだっ」
体が期待に染まりきってしまい、熱くて甘い空気の中で溺れてしまいそうになっていく。紛れもなく二つある体は、まるで一つになってしまったかのように興奮を分け合っていた。それなのに、俺の中には、じわじわと孤独が迫り上がりつつあった。
「あ、やだ、なんか……なんか寂しいよ」
さっきまでは幸福感に浸れていたのに、だんだん欲が深まっていったのか、今はもっと深い繋がりが欲しくなっている。気がつくと熱の先端からはたらりと切なさが溢れ、後ろは僅かに主張して、一刻も早く満たされたがっていた。
「寂しくなってきた? 俺では役不足だったかな」
早木さんはそう言って手を離そうとした。あの優しい手は、俺から離れたらきっともう二度と来てはくれない。役不足なんてとんでもない。絶対に離れたくないと思い、振り返った。
「違う、もっと触って欲しいだけ。ここと、こっち。お願い……」
向き合って早木さんの手を握り、前と後ろ、期待して小さく震えるところへと誘った。そして、その手が触れた瞬間、俺の理性が吹き飛んでしまった。
「ンっ……」
伸ばした手を上から掴み、両手で握りしめた。その中を何度も行き来するように体が勝手に動き始めた。
「あっ、手、あったかい、気持ちいぃ」
何かに追われるような鬼気迫る気持ちで、必死になって腰を振る。限界まで追い詰められてしまったことで、俺の中の羞恥心は、どこかへ逃げてしまったようだ。
そのただならぬ様子に早木さんは一瞬たじろいだが、俺がしたから目を覗くとそれを見てゴクリと喉を鳴らし、後ろに回してそのままになっていた手をするすると小さな口まで滑らせていく。
「はんっ」
突然動き始め、もったいつけるように後孔の周りをくるくると回る指に、俺はさらに期待して、意識がそちらへと向かう。それに気がついた彼は、前を握りしめている方の手にグッと力を込めた。
「あっ、あっ、あああんっ!」
俺がその刺激に目を眩ませると、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「合わせてあげるからね」
「……えっ?」
この状況でいう言葉にしては変だなと思いながらも、それを確認する余裕などあるはずもなく、恥じらいもなく招き入れたがっているところは彼の指を飲み込むことに忙しくなった。
「ああああっ、あ、んんんっ!」
なんの抵抗もなくするりと中へ入ってきたその指は、あれほど温かかったのに、ナカへ入ると少し冷たささえ感じた。そして、その分彼に
「わあ、あったかい。すごい……蠢いてるよ。イヤらしいね」
と言わせるほどに、俺は熱くなっていた。もう迎えることばかり考えているのか、口を開く必要など微塵もなくなっていて、飲み込んだ指にぎゅぎゅっと絡みつくほどに訴えている。
「あっ、あっ、早木、さ……」
「何? 気持ちいい?」
「ン、いい。だから、ね」
指が中で動くたびに、「ひぃン」という情けない声が漏れてしまう。
どうしてこの人がすることは、俺の好きなことばかりなんだろうか。指が刺激する場所、押す力、それが向かう方向、抜け方。その全てがたまらなく気持ちが良くて、ずるずると快感を引き出してくる。
「やあ、もう、……して! お願い!」
後ろからの刺激があまりに体を喜ばせるから、前を両手で握ったままなのに動けなくなってしまった。このままじゃイケ無い。でもどんどん気持ちよさは迫り上がってくる。逃れようがなくて苦しくなって、思わずしゃくり上げてしまった。
「もうやだ……ねえ、お願い」
「……じゃあ、俺の名前呼んでくれる?」
そう言いながら、彼は握らされていた手を能動的に握り込み始めた。そして、俺が垂らした欲を纏い、水音を立て始める。
「あああっ! あ、なま、えっ! ……しら、なっ」
「本当? 聞いたでしょ。ほら、あの時、なんて言ってた?」
体が隙間なく張り付きあった状態で、前も後ろも彼の手に翻弄されている。記憶を辿ることなど出来るわけもないのに、強い刺激が起こる場所を避けながら、じわじわと俺を追い詰めていく。
「知らないっ! しらなっ……ぅんっ、やああ」
「そう? じゃあ、教えてあげるから忘れないでよ。ほら、いい? 俺の名前はね……」
耳元で名前を囁く彼の声は、一瞬詰まるように掠れた。指は引き抜かれ、そこにゆっくりと彼が入ってくる。俺は隠微な音とその名前を耳にした瞬間、あの言葉を思い出した。
『少しもずらさないで、俺にピッタリ合わせて』
「あっ、ああああぁぁああ!」
あの日感じた強烈な快感が体の底から湧き上がった。そしてそれは、体の中で大きな熱だまりとなって、視界を白く染めながら、爆発するように噴き出していった。
早木さんは言葉では何も返さず、吸い寄せられるように俺の唇へと近づいた。ついさっきされたような、ゆっくり触れて焦らすようなキスを、あの体の奥から震えるようなキスを、もう一度与えてくれる。
「あっ、はんっ、ン」
二人一緒にゆっくりと倒れ込む。唇で繋がりあったまま、彼は俺の後ろに回った。こうやって抱きしめられると、背中から幸せの粒子が蒔かれているような感じがする。その広がりが俺は何よりも好きだ。
背中を触られるとオキシトシンが分泌される。それは幸福感をもたらしたり、恐怖を薄れさせると言われている。
俺のようにいつも孤独とそれに対する恐怖に怯えているタイプの人間にとっては、こうやって抱かれながら背中に触れられることは、深く安心することが出来る貴重な機会で、一種のセラピーのようですらある。
包まれるようにして片腕で抱きしめられたままの状態で、もう片方の手は脇腹をスーッと滑っていく。背中や首には優しいキスがいくつも降っていて、時折耳の近くに響く音に体が打ち震えた。
「あ、ン、んっ」
「……そんなに気持ちいいの? 肌に触れてるだけなのに」
気持ちがいいと言えばそうだ。でも、この行為が俺にもたらすものは何よりも幸福感が大きい。乾いた土に水が染み込むように、ひたすらに気持ちが満たされていく。水分が増すほどに幸せを感じる細胞は充填され、隙間だらけだった心は、いつの間にか隙間なくぎゅうぎゅうに満たされていく。
「んっ。こ、この時間が……いちばん……す、き」
「そう? じゃあいっぱい撫でてあげるよ。これ塗ってもいい?」
そう言って俺の目の前に出されたのは、フランス語が書かれたジャータイプのボディークリームだった。それは俺が昔よく使っていたもので、本当に心が荒んでいた時にこの香りに癒されていた。
臨床実習に入り始めてからは、患者さんへの影響を考えて使うのをやめていた。ただ、レイさんからはこれは俺の香りだと言い切ってもいいくらい似合っていると言われたことがある。
『バニラ、ゼラニウム、ピオニー、シナモン? 甘ったれのくせにツンケンしてるあんたらしいじゃないの』
「あんっ」
そのクリームを掬った手が下腹を滑り、上へと登ってくる。期待に揺れる場所は外して、ただひたすらに肌をクリームと手が滑っていく。首筋を撫で上げられたかと思えば臍の下まで滑り降り、もう一方の手では震える腿から足の先まで丁寧にそれを塗り込まれていく。
「これすごくいい香りだよね。背中から香ってるのに気がついた時、すごく惹かれたんだ。でも最近してなかっただろう? レイさんに事情聞いて、いつか俺が塗ってあげられたらいいなと思って買っておいたんだ」
「あんっ、ン」
そんな関係になれるかどうかもわからないのに、こんな高いものを買って備えておくなんて……俺には到底理解出来ない。でも、そこまで強く俺のことを思っていてくれたのかと思うと、胸の奥と下腹の奥の方にぎゅっと切なさが宿る。
「渚くん……、俺は仕事でもなんでも、狙ったら絶対に逃さないと決めてるんだ。それで結果が出せるのなら、なんでもするんだよ」
「ンあっ……!」
時折現れる獰猛な肉食獣のような強い主張に、背中からぞくりと震えた。ちょうどそのタイミングを狙ったかのように、強い刺激が刹那だけ与えられる。逃せない欲が、ナカを灼いた。
するすると肌を滑り、僅かに強い刺激を走らせることを延々と繰り返され、それがいつくるかと構えているうちに、いつの間にか待てなくなり、ついにはそれを請う気持ちが生まれ始めていた。
「あっ、もっ、やだっ」
体が期待に染まりきってしまい、熱くて甘い空気の中で溺れてしまいそうになっていく。紛れもなく二つある体は、まるで一つになってしまったかのように興奮を分け合っていた。それなのに、俺の中には、じわじわと孤独が迫り上がりつつあった。
「あ、やだ、なんか……なんか寂しいよ」
さっきまでは幸福感に浸れていたのに、だんだん欲が深まっていったのか、今はもっと深い繋がりが欲しくなっている。気がつくと熱の先端からはたらりと切なさが溢れ、後ろは僅かに主張して、一刻も早く満たされたがっていた。
「寂しくなってきた? 俺では役不足だったかな」
早木さんはそう言って手を離そうとした。あの優しい手は、俺から離れたらきっともう二度と来てはくれない。役不足なんてとんでもない。絶対に離れたくないと思い、振り返った。
「違う、もっと触って欲しいだけ。ここと、こっち。お願い……」
向き合って早木さんの手を握り、前と後ろ、期待して小さく震えるところへと誘った。そして、その手が触れた瞬間、俺の理性が吹き飛んでしまった。
「ンっ……」
伸ばした手を上から掴み、両手で握りしめた。その中を何度も行き来するように体が勝手に動き始めた。
「あっ、手、あったかい、気持ちいぃ」
何かに追われるような鬼気迫る気持ちで、必死になって腰を振る。限界まで追い詰められてしまったことで、俺の中の羞恥心は、どこかへ逃げてしまったようだ。
そのただならぬ様子に早木さんは一瞬たじろいだが、俺がしたから目を覗くとそれを見てゴクリと喉を鳴らし、後ろに回してそのままになっていた手をするすると小さな口まで滑らせていく。
「はんっ」
突然動き始め、もったいつけるように後孔の周りをくるくると回る指に、俺はさらに期待して、意識がそちらへと向かう。それに気がついた彼は、前を握りしめている方の手にグッと力を込めた。
「あっ、あっ、あああんっ!」
俺がその刺激に目を眩ませると、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「合わせてあげるからね」
「……えっ?」
この状況でいう言葉にしては変だなと思いながらも、それを確認する余裕などあるはずもなく、恥じらいもなく招き入れたがっているところは彼の指を飲み込むことに忙しくなった。
「ああああっ、あ、んんんっ!」
なんの抵抗もなくするりと中へ入ってきたその指は、あれほど温かかったのに、ナカへ入ると少し冷たささえ感じた。そして、その分彼に
「わあ、あったかい。すごい……蠢いてるよ。イヤらしいね」
と言わせるほどに、俺は熱くなっていた。もう迎えることばかり考えているのか、口を開く必要など微塵もなくなっていて、飲み込んだ指にぎゅぎゅっと絡みつくほどに訴えている。
「あっ、あっ、早木、さ……」
「何? 気持ちいい?」
「ン、いい。だから、ね」
指が中で動くたびに、「ひぃン」という情けない声が漏れてしまう。
どうしてこの人がすることは、俺の好きなことばかりなんだろうか。指が刺激する場所、押す力、それが向かう方向、抜け方。その全てがたまらなく気持ちが良くて、ずるずると快感を引き出してくる。
「やあ、もう、……して! お願い!」
後ろからの刺激があまりに体を喜ばせるから、前を両手で握ったままなのに動けなくなってしまった。このままじゃイケ無い。でもどんどん気持ちよさは迫り上がってくる。逃れようがなくて苦しくなって、思わずしゃくり上げてしまった。
「もうやだ……ねえ、お願い」
「……じゃあ、俺の名前呼んでくれる?」
そう言いながら、彼は握らされていた手を能動的に握り込み始めた。そして、俺が垂らした欲を纏い、水音を立て始める。
「あああっ! あ、なま、えっ! ……しら、なっ」
「本当? 聞いたでしょ。ほら、あの時、なんて言ってた?」
体が隙間なく張り付きあった状態で、前も後ろも彼の手に翻弄されている。記憶を辿ることなど出来るわけもないのに、強い刺激が起こる場所を避けながら、じわじわと俺を追い詰めていく。
「知らないっ! しらなっ……ぅんっ、やああ」
「そう? じゃあ、教えてあげるから忘れないでよ。ほら、いい? 俺の名前はね……」
耳元で名前を囁く彼の声は、一瞬詰まるように掠れた。指は引き抜かれ、そこにゆっくりと彼が入ってくる。俺は隠微な音とその名前を耳にした瞬間、あの言葉を思い出した。
『少しもずらさないで、俺にピッタリ合わせて』
「あっ、ああああぁぁああ!」
あの日感じた強烈な快感が体の底から湧き上がった。そしてそれは、体の中で大きな熱だまりとなって、視界を白く染めながら、爆発するように噴き出していった。
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