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⑨ー2、少女と彼の想い
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アグラの声がする。
朦朧とする意識の中で耳をすませ右目で姿を追う。
手を地面につけ精霊に語りかける彼。
地面はそれに呼応するようにかたちを変え私と白の魔女(雌雄不明だが)に向かって大地の手が伸びてきた。
「あんたって昔からワンパターンよねぇ、特に今日は新月だしぃ仕方ないかww~烏ちゃーん」
白の魔女に呼ばれた巨大烏はキティーから離れ伸びてきた大地の手に向かって自身の羽をナイフのように飛ばしてくる。
それらが刺さった大地の腕は急激に凍り付いてしまい岩は自身の重さと氷結で砕けてしまう。
精霊も負けじと第二、第三の腕を産み出すがレイヴンと白の魔女の魔法の前では無力だった。
これが……、アグラが恐れていた新月の闇。
『精霊使い』と言い換えても良いぐらいアグラのように白魔術を信仰しているものは、精霊の力が弱まる新月は使える魔法が限られる。
正当な後継者になれない穢れた者が上位魔術師になるのにこのタイミングをのがす手は無い。
あの人はアグラを食って彼の力と名前を手に入れたいのだ。
「わざわざ新月を選んで来るなんて相変わらず姑息ですねぇ……」
「確信犯って呼んでちょうだいっ!」
対峙して互いを睨み合う、隙を見せまいと……。
精霊も動物達も彼らと同じ一触即発の空気。
烏がアグラにナイフ羽を放つ。
彼は腰に巻き付けている飾り紐から赤い宝玉を外して空中に投げると、それは炎をまとった大狼(ダイアウルフ)になり、大狼の雄叫びは熱風を放ちナイフの鉄が熱を帯びて赤くなるほど温度を上昇させ白い魔女に投げ返す。
魔女が人差し指を軽く振るとナイフは見えない壁にでも阻はばまれたように彼女の手前で砕け火花を散らすが一本だけ私の目に触れていた右腕に命中し顔から指が離れた。
それをアグラは見逃さず身につけていた深紅のローブを太刀に変え全速力でこちらに駆け走り魔女の腹に太刀を突き刺し貫通させる。
腹から血を吹きだし桃色の内蔵が飛び出す惨たらしい目の前の光景に私は目をそらす。
太刀を柄まで押し込み、魔女がよろめくと私を抱え上空高く飛び上がったかと思えば、魔女の顔に飛び石に乗るように一度着地し顔上を踏み込んで地面に着地した。
目をそらした一瞬の出来事、のんびり屋で読書好きな彼からは想像が付かない俊敏な動き。
私を抱き抱える彼の腕が震えている。
力の差は見えているのに……、私の為に危険を。
「クソ、クソ、クソ!良くも私の美しい顔にっ!」
鼻血を手で押さえ、空いている手で太刀を抜き放り投げると腹を氷らし出血を止める魔女。
彼女は巨乳の間から指揮者のタクトのような短い杖を出すと杖の先を上空に掲かがげると瞬いていた星が暗雲に隠されいく。
「強酸雨!」
「はぁ……これは館の修繕費用がかかりそうですね…、傀儡達、お仕事ですよ」
彼が呟くと関節が良く曲がる白いマネキンのよう人形、顔がのっぺらぼうの傀儡達が館の四隅から集結し肩車しはじめる。
夕刻前に呼び出した者達。
傀儡四人の肩車。
一番下の者など三人も支えないといけないので重たいのかよろめくと、上の者達はやじろべえのようにバランスを取り始める。
この緊張した場面で肩車って……何してるんだろう……。
一番上に居る傀儡が天空に手を伸ばすと雨雲の上から大きな滑車とそれに繋がるロープが現れる。
ロープを一番上が引っ張るとその次の傀儡が垂れ下がるロープの先を持つ、ロープを一回引くごとに下の者へロープの先が渡っていく。
ロープを引き続けていくと屋敷全体に張られた半円形の鏡面のバリアは山型ドームから杯型になり強酸雨を受け止める。
その様子を地団駄を踏んで怒り始める魔女。
邪魔をしようと杖を振り上げるとキティーに襲われ手首に爪痕が刻まれてゆく。
バリアに傀儡、召喚獣……、準備の良さに今までの気苦労を知る。
幾度も死線を乗り越えてきたからこその予測。
一人でこうして耐えてきたのね……。
アグラの頬に手を伸ばすと私に視線を落とす。
もう、触れられないと思ってた……。
彼が側にいてくれるのが嬉しい。
私の瞳の血を袖口で拭い顔を覗きこむ。
「メイ……」
「なぁに?」
耳元で囁く彼の告白。
言い終えると数度私の唇に口づけてから力強く抱きしめた。
『メイファンが愛しい』
最後の声かもしれない。
最後の包容かもしれない。
愛しさと、切なさが込み上げて……。
言葉ではなく涙でしか返答できなかった。
「メイは泣き虫ですね……」
彼は頬を伝う涙に口づけてから魔術を使って光の棺を作るとそこに私を横たわらせる。
「待って! この中にいたらトラップが……!」
「大丈夫、策が増えましたから……、疼きに痛みに疲れたでしょう、少し休んでいて下さい」
棺の蓋が私と彼を別つ。
キティーの首輪のトラップ……地獄の炎。
骨まで塵に変える業火以上の秘策って……何?
朦朧とする意識の中で耳をすませ右目で姿を追う。
手を地面につけ精霊に語りかける彼。
地面はそれに呼応するようにかたちを変え私と白の魔女(雌雄不明だが)に向かって大地の手が伸びてきた。
「あんたって昔からワンパターンよねぇ、特に今日は新月だしぃ仕方ないかww~烏ちゃーん」
白の魔女に呼ばれた巨大烏はキティーから離れ伸びてきた大地の手に向かって自身の羽をナイフのように飛ばしてくる。
それらが刺さった大地の腕は急激に凍り付いてしまい岩は自身の重さと氷結で砕けてしまう。
精霊も負けじと第二、第三の腕を産み出すがレイヴンと白の魔女の魔法の前では無力だった。
これが……、アグラが恐れていた新月の闇。
『精霊使い』と言い換えても良いぐらいアグラのように白魔術を信仰しているものは、精霊の力が弱まる新月は使える魔法が限られる。
正当な後継者になれない穢れた者が上位魔術師になるのにこのタイミングをのがす手は無い。
あの人はアグラを食って彼の力と名前を手に入れたいのだ。
「わざわざ新月を選んで来るなんて相変わらず姑息ですねぇ……」
「確信犯って呼んでちょうだいっ!」
対峙して互いを睨み合う、隙を見せまいと……。
精霊も動物達も彼らと同じ一触即発の空気。
烏がアグラにナイフ羽を放つ。
彼は腰に巻き付けている飾り紐から赤い宝玉を外して空中に投げると、それは炎をまとった大狼(ダイアウルフ)になり、大狼の雄叫びは熱風を放ちナイフの鉄が熱を帯びて赤くなるほど温度を上昇させ白い魔女に投げ返す。
魔女が人差し指を軽く振るとナイフは見えない壁にでも阻はばまれたように彼女の手前で砕け火花を散らすが一本だけ私の目に触れていた右腕に命中し顔から指が離れた。
それをアグラは見逃さず身につけていた深紅のローブを太刀に変え全速力でこちらに駆け走り魔女の腹に太刀を突き刺し貫通させる。
腹から血を吹きだし桃色の内蔵が飛び出す惨たらしい目の前の光景に私は目をそらす。
太刀を柄まで押し込み、魔女がよろめくと私を抱え上空高く飛び上がったかと思えば、魔女の顔に飛び石に乗るように一度着地し顔上を踏み込んで地面に着地した。
目をそらした一瞬の出来事、のんびり屋で読書好きな彼からは想像が付かない俊敏な動き。
私を抱き抱える彼の腕が震えている。
力の差は見えているのに……、私の為に危険を。
「クソ、クソ、クソ!良くも私の美しい顔にっ!」
鼻血を手で押さえ、空いている手で太刀を抜き放り投げると腹を氷らし出血を止める魔女。
彼女は巨乳の間から指揮者のタクトのような短い杖を出すと杖の先を上空に掲かがげると瞬いていた星が暗雲に隠されいく。
「強酸雨!」
「はぁ……これは館の修繕費用がかかりそうですね…、傀儡達、お仕事ですよ」
彼が呟くと関節が良く曲がる白いマネキンのよう人形、顔がのっぺらぼうの傀儡達が館の四隅から集結し肩車しはじめる。
夕刻前に呼び出した者達。
傀儡四人の肩車。
一番下の者など三人も支えないといけないので重たいのかよろめくと、上の者達はやじろべえのようにバランスを取り始める。
この緊張した場面で肩車って……何してるんだろう……。
一番上に居る傀儡が天空に手を伸ばすと雨雲の上から大きな滑車とそれに繋がるロープが現れる。
ロープを一番上が引っ張るとその次の傀儡が垂れ下がるロープの先を持つ、ロープを一回引くごとに下の者へロープの先が渡っていく。
ロープを引き続けていくと屋敷全体に張られた半円形の鏡面のバリアは山型ドームから杯型になり強酸雨を受け止める。
その様子を地団駄を踏んで怒り始める魔女。
邪魔をしようと杖を振り上げるとキティーに襲われ手首に爪痕が刻まれてゆく。
バリアに傀儡、召喚獣……、準備の良さに今までの気苦労を知る。
幾度も死線を乗り越えてきたからこその予測。
一人でこうして耐えてきたのね……。
アグラの頬に手を伸ばすと私に視線を落とす。
もう、触れられないと思ってた……。
彼が側にいてくれるのが嬉しい。
私の瞳の血を袖口で拭い顔を覗きこむ。
「メイ……」
「なぁに?」
耳元で囁く彼の告白。
言い終えると数度私の唇に口づけてから力強く抱きしめた。
『メイファンが愛しい』
最後の声かもしれない。
最後の包容かもしれない。
愛しさと、切なさが込み上げて……。
言葉ではなく涙でしか返答できなかった。
「メイは泣き虫ですね……」
彼は頬を伝う涙に口づけてから魔術を使って光の棺を作るとそこに私を横たわらせる。
「待って! この中にいたらトラップが……!」
「大丈夫、策が増えましたから……、疼きに痛みに疲れたでしょう、少し休んでいて下さい」
棺の蓋が私と彼を別つ。
キティーの首輪のトラップ……地獄の炎。
骨まで塵に変える業火以上の秘策って……何?
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