13 / 14
13.リチャードとミレーユさんの幸せの形
しおりを挟むさあ、ついに昔話も大詰めだ。
あと少しだからね。
ここまで付き合ってくれてありがとう。
僕には全く共感出来なかったけれど、ミレーユさんのあの直向きすぎる告白はリチャードの心に深く響いたらしい。
二人が手を取り合ったまま将来について真面目に語らい始めたため、僕はこれ幸いと帰宅した。
それからと言うもの、リチャードは残り一年となった学園生活を驚くほど大人しく過ごした。
ミレーユさんも来襲してこない。
嵐の前の静けさのようで平和なことが逆に薄気味悪くはあったけれど、時間を見付けては何かの作業をしているリチャードを僕はただ見守ることにしたんだ。
うん、その通りだよ。
正直なところこれ以上関わりたくなかっただけだ。
僕にも穏やかな学園生活を謳歌する権利がある。
一年しか残っていなかったとしても、だ。
卒業式の日、晴れ晴れとした様子のリチャードは今までとは違い余裕すら感じる笑みで僕の背を叩いた。
「世話になったな、レイモンド」
「全くだ。卒業後はもう何が起きても知らんからな」
「そうだな。これがこれからの私とミレーユの住所だ」
「僕の言葉を聞いてたか?」
渡されたややごわついたカードに嫌々目を通せば、リチャードの家の領地の西端が記されていた。
僕は記憶を探る。
「………ここ、森だよな?未開拓の」
「森だ」
「住所と言わなかったか」
「其処に二人で小さな家を構え、家畜を育て、畑を耕しながら暮らしていく。ミレーユと二人きり、夢のような生活だ」
「それは……軌道に乗るまでが長そうだな…」
「家畜は既に二代目が育っているし、家と畑もこの一年でミレーユが完成させたから問題無い」
「お、おう」
リチャードとミレーユさんは話し合いの末、二人共が納得して歩める未来を見付けた。
そう、隠居だ。
貴族籍から抜け、人里離れた僻地に引き籠るのだそうだ。
二人が家督を継ぐのは性格上難しいとは思っていたけれど、ミレーユさんのぶっ飛んだ要望からそこへ着地するとはリチャードもなかなか思い切ったよな。
満足そうだし、他者にあまり迷惑がかからないなら良いけどさ。
それにしてもミレーユさんの農業力がありすぎる。
彼女が貴族令嬢に生まれたのは何かの間違いだったのではなかろうか。
マッチ無しで木から火を熾し、軽々と鍬を振るい、獣も自ら捌くらしいからね。
愛の力とやらは恐ろしい。
リチャードが働いていないのではないかと思ったが、土地の利権やら相続放棄やら、書類関係の業務はあいつが一人でこなしたようだから適材適所ということなのだろう。
まあ、どうでもいい。
「そうか。もう会う事も無いだろう、元気でな」
「何?来ないのか?今晩は新築祝い兼結婚祝いだと、ミレーユが張り切っていたのに…」
「は?」
「よく見ろ、そのカードは招待状だ。ミレーユと私の手作りだ。有り難く受け取れ」
「え…」
「まさかミレーユの誘いを断るわけではないよな?」
「えぇー…」
そうしてリチャードの家から馬車で二時間、そこから徒歩で一時間。
卒業式が終わり次第なかば無理矢理連れてこられた森で、二人のプチ披露宴とやらに付き合わされたのは僕だけだった。
「……なあ、少しいいか。他の招待客は?」
「いらない」
「おりませんわ」
「やられた…!」
まんまと嵌められた僕は、リチャード夫婦の居住地を知る唯一の人間になってしまった。
そうなんだよ!
あれ以来二人への伝達役にまた僕が指名されてしまってね。
何故だ!
何故こうなった!
リチャードは何故そこまで僕を重用する!
チクショウ!!
幼馴染なんか辞めてやる!!!
……そう思って、早二年。
実はね、今日もこれからリチャード夫婦の愛の巣へと行かねばならないんだ。
二人への伝言と荷物を預かっていてね。
家を継いだリチャードの弟君からなのだけれど。
あ、あと侍女からもあったかな。
そういえばリチャードの尊父からも何か言われていたような。
何だったかな、忘れてしまったが大した話では無かった気がするから良いだろう。
必要なら御自分で二人を探せばいい。
自領だろうが。
はぁ…。
あああ……。
ああ、行きたくない。
ああああぁ……。
此処から五時間半かぁ…。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
【完結】そんなに怪しいんですか?私達。幼馴染の男と居ただけなんですけど。
BBやっこ
恋愛
男女でいるだけで、怪しい関係に?
幼馴染と馴染みの酒場で会って仕事の愚痴を肴に呑んだ。けど、次の日に奥さんに疑われた!?
「え、勘弁してくださいよ。」
「これがか?」は酷い。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる