僕の愚痴を聞いてほしい。

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12.仲人ではない、ただの腐れ縁で幼馴染だ

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二人の暴走には慣れてしまっていた僕とて、この状況には流石に焦っていた。
学園を薔薇の別荘に変えられては困る。
通っている生徒が生徒だけに今後の国政にも響いてしまう。

実はこの時、更に困った事が起こっていた。
リチャードの両親とミレーユさんの両親、それから両家の執事長、乳母、その他数人が相次いで倒れたんだ。
原因は過労や心労。
お会いする度に顔色が優れないとは思っていたけれど、二人が起こす問題の事後処理にどれだけ振り回されていたかが偲ばれるね。
命に別状がないのは幸いだったが、ストッパー兼いざという時の尻拭いが不在というのは不味い。

そろそろ奴等の暴走も落とし所を見付けねばならない期が迫っていた。
だから仕方無しに二人を話し合わせようとしたのだけれど、これがまた厄介でね。

「何で分かってくれないんだ!僕は愛しいミレーユを誰にも見せたくない。ミレーユは年々美しさに磨きがかかっているんだぞ。誰かがそんなミレーユを見て心をときめかせるのは許せない。目を奪われるのが許せない!僕の愛だけを受け取ってほしい。僕の愛だけに包まれて生きてほしいんだ!ミレーユには僕以外の他の誰もいらない!」
「落ち着けよリチャード」
「落ち着いていられるか!ミレーユの美しさに今まで何人の者が恋に落ちたと思っている!見目麗しいだけでなく、心根まで優しいのだぞ!危険だ、危険過ぎる!」

リチャードはずっとこれだ。
どうも婚約保留がちらついてから、普段以上に冷静さを欠いている。
話にならない。

「お気持ちは嬉しいですわ。しかしわたくしはもうリチャード様のお側を離れないと決めたのです。わたくしはリチャード様と離れては生きていけませんの」
「ミレーユ…」
「いくらリチャード様とはいえ、これだけは譲れませんわ」

そしてミレーユさんはすっかり意固地になっていた。
話が進まない。

…気にしないようにしていたが、僕にはずっと引っ掛かっていることがあった。
ミレーユさんはリチャードを優先するあまり、いつも自分の意見を吐露しきっていないように感じる。
リチャードはリチャードで、あそこまで閉じ込めたがるというのはミレーユさんの愛を信じきれていないということなのではないか。

正直触れたくはない。
パンドラの箱と分かっている蓋をずらしたくはない。
しかし万が一でも底に希望が残るのであれば、ミレーユさんの本音を引き出すのが最善のように思えた。
勘だけれど。
恐らくリチャードにもミレーユさんの言葉ならば届くだろう。
多分な。

それに、それに…………っ、今朝、ついにレイチェルから「お兄様、いつまであんな茶番を続ける気ですの」って、凄く、凄く冷たい目で見られて…!!
あああああ…思い出しただけで胸が苦しいぃぃぃ……。


意を決した僕はミレーユさんを視界に入れ語りかけた。

「ミレーユさん、君は本当は何がしたいんだい」
「おいっ、レイモンド、貴様!」
「今だけは黙ってろ。ミレーユさんと別れたいのか」
「………そんなわけ、ないだろ」
「ミレーユさん」

唸るリチャードの頭を押さえ込み、戸惑うミレーユさんとしっかり向き合う。
ああ、後が怖い。

「何かリチャードには伝えていない望みがあるよね?」

ミレーユさんの肩が揺れた。

「本当はもっとリチャードにしたいことがあるのではないかい? リチャードに受け止めてほしいものがあるのでは?」
「そ、そんなこと…」
「ミレーユ…?」

リチャードが僕を振りほどき、俯くミレーユさんの手を心配そうに握る。

「どうしたんだいミレーユ。私に出来ることなら何でも言ってくれ。出来ないことなら出来るようになってみせる。だから何でも私に話してほしい。共に悩もう」
「………」
「ミレーユさん。確かにリチャードはどうしようもなく狭量な男だが、君の心を受け止める器だけは持っている筈だよ」
「おい」

恐る恐るミレーユさんがリチャードを見上げる。
リチャードは胸焼けがするほど優しい笑みを浮かべていた。
あれが女性達には素敵に見えるらしいから、恋というものは不思議だね。

「わたくし、は………」

強く手を握り返したミレーユさんは一歩踏み出し、リチャードの瞳を間近で熱く見詰めた。
僕は静かに五歩離れた。

「リチャード様の愛は嬉しいのです。独占欲を剥き出しにして下さるのも、とても。でもわたくしだって、わたくしだってリチャード様を心から愛しておりますの…!リチャード様がわたくしの手料理以外を食べるのは嫌。わたくしが注いだお飲み物以外を口にするのも嫌。わたくしが作ったものでリチャード様の身体を構成したい。わたくしの一部をリチャード様の血肉にしたい。空気もわたくしが作れたら良かったですのに…。ああ、どうか、わたくしが作った服以外は身に付けないで下さいませ。本当は、わたくし以外が開いたドアを通ることすらも嫌なのです。出来ることならお家もご用意したい。リチャード様の世界をわたくしが作りたい。わたくしにリチャード様の全てをお世話させて下さいませ。着替えも入浴も食事も排泄も何もかも、リチャード様の生活の全てをわたくしに預けてほしいのですわ!」


ああ。
薄々勘付いてはいただろうが、ミレーユさんも相当重い人だ。


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