僕の愚痴を聞いてほしい。

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8.安心して、牽制だから死傷者は居ないよ

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「天使だ!天使がいた!」
「あれは隠しても仕方がない」
「こう…キラキラと輝いていたんだ…可愛かった…」

奴等を嗅ぎ回っていた犬がこんな譫言を発し出した時には、他人事ながら背筋が凍ったよ。
ついに現れてしまったんだ。
禁忌に触れる者が。

…などと大袈裟には言ってみたが、正直なところその内起こるとは思っていた。
何と言っても甲冑だ。
あれを夏場にまで着込むのは暑い。
偶には換気をしないとミレーユさんが茹で上がってしまう。
籠る熱に耐えかね、人目につかない所でこっそりと外しているのを目撃されてしまったわけだ。

まったく、リチャードもあんなものを着させるならそれくらい事前に対策しておけば良いものを。
目先の結果に囚われすぎるきらいがあるんだよ、あいつは。
だから時折ミレーユさんを暴走させてしまう。
二人の問題は二人で解決しろよ二人で!
痴話喧嘩に他人を巻き込むな!
第一ね、あの時だってミレーユさんがリチャードに尽くしたがりなのは普段から分かりきっていたのだから、隔離したらどうなるか………おっと、この辺りの話はもう少し先だったか。
そうだな、後でまた話すと思うから聞いてほしい。

ん?
言ったよな、僕の話を聞いてくれるって。
まだまだ付き合ってくれるのだろう?


ええと、今は中等部の話だったから…そう、甲冑時代だったな。
汗だくのミレーユさんを見てしまった者共は怒り狂ったリチャードに処理された。

いやぁ、溜まりに溜まってからの久し振りの大爆発だったから派手だったね。
先ずリチャードが暴れるだろう?
するとリチャードを補佐すべくミレーユさんが帯剣したまま駆け付けるだろう?
ああ、うん、言ってなかったかな。
甲冑には盾と長剣がセットだよ。
刃は潰してある。
それで、剣を渡す、リチャードがより暴れる、ミレーユさんが盾で追撃する、ミレーユさんに触れるなとリチャードが怒る、リチャード様を助太刀致しますわ!とミレーユさんが乱入する、ミレーユに近付くなとリチャード怒る…で後は似たようなやり取りの繰り返しだそうだ。
辛うじて攻撃する相手を男に絞っていたようだが、広がる被害は有り体に言って地獄絵図だったらしい。

うん、伝聞だよ。
僕は現場に居なかったからね。
何故って?
最初の譫言を漏れ聞いた段階で学園を早退したに決まっているじゃないか。
暴動が起こるのが分かっているのに居合わせる理由なんて僕には無い。

まあ、素顔目撃者の三人が処分されたのは仕方がないのではないかな。
いかれた甲冑野郎だったとはいえ、意図的に女性の着替えを覗くなどとんでもない。
相手がミレーユさんでなかったとしても厳しく罰せられただろう。
彼等の処遇かい?
さあ。
はは、嫌だな、いくらリチャードでも殺してはいないさ。
彼等は今でも生きているよ。
本人達が生きたいと思っているかは別としてね。

この大暴れがあったお陰でその後の中等部生活は穏やかだった。
奴等は放っておくのが一番安全だとみんなが気付いてくれたからだ。

そういえばリチャードの尊父が胃を痛めて通院しだしたのもこの頃だったなぁ。
そうだよ、後頭部で丸い休耕地を開墾されているあの方だ。



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