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6.一次があるということは、二次もあるということで
しおりを挟むさて、中等部へ上がる前の長期休暇のことだ。
ある事件が起こった。
そうだよ、またあの二人だ。
基本的に奴等は問題しか起こさない。
聞けば、リチャードがミレーユさんを方途を尽くしてまで家から帰さないとか。
俗に言うミレーユさん軟禁事件だ。
その話が僕の元へ届いたのが軟禁五日目。
また例の侍女がうちまで来ては訴えるのだよ。
「お嬢様がリチャード様の家から戻られないのです…。リチャード様と常に共にあると、中等部へは行かず、ここでリチャード様のお世話をするのだと言い張っておりまして」
「へえ、それは大変だね。頑張れ」
「このままではお嬢様の進学が…ううっ…」
「ハンカチが全く濡れていないのは見えているよ」
「つきましてはレイモンド様には交渉人としてリチャード様のお家へと行っていただきます」
「はい?」
「ご当主様の許可は得ております。さあ、馬車が表で待っております。参りましょう」
「今から!?」
後で知ったのだが、どうも登校拒否問題は僕が解決した事になっているそうでね。
やめてほしいよな、そういう曲解した噂を流すのは。
腹が立ったから強制的に連れていかれたリチャードの家では客間に居座り、茶菓子を食べるだけ食べて何もせずに帰ってきてやった。
僕だって学習しているんだ。
奴等とは下手に関わってはいけないと。
……まあ、翌日にはまた連行されるてしまうのだけれど。
そうだ、苦手なものを付け足そう。
あの侍女だ。
僕は追い出されるべく使えない厄介者を演じ、あれこれ我が儘を言い付けては客間に立て籠る有意義な休暇を過ごしていたというのに、何故か、どうしてなのか、不意にリチャードとミレーユさんの方から此方を訪ねてきやがった。
呼んでもいないのに目の前でべたべたべたべたし始めるものだから、僕は何だか塩気のあるものが食べたくなってしまったよ。
現実逃避と思ってくれて構わない。
「何だレイモンド、説得なら応じないぞ。ミレーユは中等部へは行かない。必要な知識は全て私が修め、私が手ずからミレーユに教えるのだ」
「あー、良い案だね、すばらしいよ。このチーズ何処産だい?旨いね」
「だろう!さすがは我が友、分かっているではないか」
「友人になった覚えはない」
「うふふ。リチャード様と支え合う生活だなんて、少し早い新婚生活みたいですわね」
「ミレーユ…!そうだな、私達はもう結婚しているも同然だ。幸せにする。共に生きよう」
「リチャード様…!」
「あーはいはい、すばらしいすばらしい。そこの君、これをもう一皿頼む。他のソースはあるかい?」
理解したくはないけれど、リチャードが何を懸念しているのかは分かっていた。
初等部から通うには領地や金銭の面で厳しい貴族達が中等部から入学してくる。
要するに、新しい生徒が増えるわけだね。
ミレーユさんをまだ目にしたことがない者達が。
そう、この軟禁は第二次ミレーユさんを学校通わせたくない騒動だったんだ。
知るかよ。
どう考えても僕には関係が無い。
だというのに両家は僕に何を期待しているのか、懲りずに家へ呼びつけてきてね。
だから僕も作戦を変更し、二人に賛同する姿勢を貫いてやった。
良いじゃないか、登校拒否。
良いじゃないか、愛の籠城。
もうどうでも良いじゃないか!ははは!
その内にきちんと両親同伴で話し合いの場が持たれたらしくてね。
今回は同席させられなかったよ。
また強制参加だったら駆け落ちを提案しようと思っていたのに。
二人の為に隣国への密入国ルートを図説に纏めて用意しておいたんだ。
いやあ実に残念だ。
愛の逃避行へ旅立てば良かったのにね。
今思えば、あの時は食べ過ぎで増量した体重を新学期までに戻すのが一番大変だったかな。
因みに美味しいチーズはうちの隣の隣の領土産だった。
知らなかった。
今は定期購入の契約をしている。
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