僕の愚痴を聞いてほしい。

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5.苦手なもの?リチャード夫婦と兎だね

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全くさ、みんなして無責任なんだよ。

ミレーユさんの登校拒否をどうにかしろと言われても、リチャードという投石器が何時作動するかも分からない壁が立ちはだかっているわけだろう?
あんなものに丸腰で攻め込みたくはない。
個人ではどうする事も出来ないと早々に悟った僕は、先ず親を巻き込む事にした。
勿論リチャードとミレーユさんの親御様だよ。
うちは関係無いからね。
本来は僕も関係ない筈なのだけれど、これはもう…、最近では諦めている。

うちの親には特段何も伝えてはいないというのに、どうしてか奴等は我が家に集まった。
確かに呼び掛けたのは僕だし、リチャードとミレーユさんの家の中間点にうちはあるけれど、何故そういう思考になるのだろう。
うちは会議室ではない。


「リチャード君。娘を大切に思ってくれるのは有難いがな、大切に思うならばこそ閉じ込めるべきではないと思う。学園で学ぶ事は二人の人生を豊かにし、より良い家庭を作る糧となるだろう。学生として二人で過ごした思い出を作れるのも今だけだよ」
「お父様、わたくしはわたくしの意思で行動しているのです。リチャード様を責めるのは止めて下さいまし!」
「あの、何故僕は同席させられているのでしょう…。あ、この人達にお茶は要らないよ。カップの破片すら凶器にされそうだから」
「ミレーユちゃん、相手の願いをただ叶えるだけが愛ではないんじゃないかな。貴族である以上、結婚生活が始まっても家のため仕事のため社交は必要なんだ。学園は二人の人脈を広げるのに便利な場だよ。友人は君達の財産になる」
「ミレーユの手を煩わせずとも、僕が全てこなしてみせますよ、父上。友人は……レイモンドが居るでしょう。家柄も年回りも申し分ない」
「当然のように僕を巻き込むなリチャード」

話し合いは難航を極めた。
一週間に渡る説得の末、別室登校という形で一度は収束したけれど、リチャードはいたく不満らしくてね。
毎日毎日恨み言を言うんだよ。僕に。

「ミレーユは大丈夫だろうか。私が居なくて寂しがってはいないだろうか」
「知らないよ。退け。自分の席に戻れ」
「学園なんて人の多い所に居させて、変な虫が付いたらどうしよう。あんなに愛らしいんだぞ、ミレーユを好きにならない奴など居ない」
「心配しなくてもミレーユさんはリチャードしか見てないよ」
「お前がミレーユを語るな!」
「面倒臭いなぁ」
「ああ……同じ敷地に居るのに触れられないなんて。声を聴けないなんて。遠い、ミレーユが遠い…。神は何故こんな試練をお与えになるのか。ゴミではなく私をミレーユの傍に置いてくれたなら…」
「先生な。ゴミはやめろ。わざわざ女教師の担当を空けてくれた学園に感謝しろ。そもそも試練ではなく自業自得」
「あああミレーユ!!!」
「うるっさいなぁ…」

本当に、本当にうるさくてね。
リチャードの相手に疲れていた僕は、ある日つい軽い気持ちで口にしてしまったんだ。

「そんなに他者へ見せたくないなら、被り物でも贈ればいい。ほら、あれなんかどうだ?最近巡業に来ていたサーカス団に全身を熊に模した着ぐるみとやらが居たろう」
「それだ!」
「嘘だろ」

引き止める声には耳を傾けず、リチャードは有り余る行動力で特注の着ぐるみを作った。
愛らしいミレーユさんには似合わないと熊ではなく兎を模していたのだけれど、はっきり言って怖かった。
兎は小さくてあの丸いシルエットだから可愛いのだと思い知ったよ。
生々しい造形の兎が人の大きさでスタスタと二足歩行をしてはいけない。
離れた目が異様に怖い。
ミレーユさんが久しぶりに教室へ来た時には其処彼処で悲鳴が上がった。
倒れた子も居たくらいだ。

しかしリチャードとミレーユさんは周囲の反応に大変満足そうで、これ迄の離れていた時間を取り戻すようにいちゃいちゃいちゃいちゃと授業を受け始めた。
不思議と二月も過ぎればみんな慣れてきてね。
かつてのように二人を風景として捉えられるようになれたよ。
それからは比較的平穏な学生生活が戻り、僕達の初等部は終わった。
はぁ。

 
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