僕の愚痴を聞いてほしい。

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3.僕達の世代は人を見た目だけで判断する恐ろしさをよく知っている

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何故この国には貴族学校が一つしか無いのだろう。

いいや、寄付があろうと学園の運営というのも複雑だからな、そんな門戸の狭い学舎など増えなくとも良い。
だがせめて爵位持ちの家に産まれた子どもが、他の一般校へ通うという選択肢を与えられても良いと思うんだ。
知っているかい?
隣国には児童用の武術や調理専門の学校がある。
幼い頃から各々が関心を持った技術を学べるなんて素晴らしいね。
それだけ夢中になれるものがあれば、多少周囲に面倒事があっても日々を乗り越えられそうじゃないか。
僕は今、教育分野の拡充に取り組んでいて……おっと、話が逸れてしまった。

ええと、何の話をしていたのだったか。
何故だろう。
不思議と思い出したくないな。
…………ああ…、リチャードとミレーユさんの話か………。
うん…そうだね、聞いてくれるかい…。


僕達は同じ学園の初等部に入学した。
残念なことに貴族学校が一つしか無かったからね。

ミレーユさんは細かい所に気が利く、教会の天使画のように眩く愛らしい美少女。
リチャードも殆どの時間は誠実で紳士的な上いちいち言動が格好良い美少年。
第一印象ではね。
あ、今の発言は絶対に二人へ漏らさないでくれよ。
僕の命が摘まれてしまう。
伝わると不味いのは「容姿が良い」と褒めた部分からだ。
いいね?

そんな二人だから、入学して間もなく学園の人気をさらった。
家格良し、成績良し、容姿良し、性格も一見では良し。
子どもから見ても大人から見ても文句無しの優良物件だ。
二人の周りには自然と人が集まった。

今までの奇行を知っていた僕は不安を感じたが、最初の内は特に問題が無いように見えた。
告白や嫌がらせをする輩が居なかったわけではないけれど、家格による上下関係は子ども社会の中にも存在していたし、美男美女カップルだと有名な二人を大多数の生徒は支持していたからね。
たとえミレーユさんがリチャードの一挙手一投足へ先回りして手を貸していても、ミレーユさんに見惚れたり嫌がらせをした生徒の家が不自然に没落しても、まあ、然程問題にはならなかったんだ。

それなりに穏やかに過ごしていた学園生活だったが、三年を過ぎた辺りからリチャードの様子がおかしくなってきた。
男女問わず人をミレーユさんから遠ざけるようになり、友人関係にまで口を出す。
周囲の人間には極端に冷たくなる一方、ミレーユさんにだけは変わらず優しく甘く接する。

そう、リチャードの猫が剥がれてきたわけだ。
むしろよく三年も我慢したと言うべきか…。
あいつさ、ミレーユさんと二人きりになると本当に嬉しそうに笑うんだよ。
ミレーユさんも嬉しそうなリチャードを見て心底幸せそうでね。

仲睦まじい光景ではあったものの、言いし得ない薄気味悪さを感じたのは僕だけではなかったようで、二人は次第に孤立していった。
するとリチャードの奇行は益々加速する。
ミレーユさんに人が近付くだけで威嚇し、偶然でも目が合えば言い掛かりをつけ、話し掛けようものなら口撃の津波が襲ってきた。
紳士の面影など微塵も無い。

そうして始まってしまったんだ。
リチャードによる傍迷惑なボイコットが。


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