僕の愚痴を聞いてほしい。

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1.それ、自分の家でやってくれないかな

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ありがとう、君が愚痴を聞いてくれるのかい?


そうだな、先ずは………どこから話そう…。
気は進まないけど二人の小さい頃の話をしようか。
男の方がリチャード、女の方はミレーユさんという。
あの二人の見た目は、見た目だけは本当に美しくてね、五歳で初めて顔を合わせた二人は一瞬で恋に落ちた。
僕の目の前で。

…そうなんだ。
僕の家の庭園で恋に落ちやがったんだ。
あの日は僕の五歳の誕生日で、家に歳の近い子どもを呼んでパーティーをしていたんだよ。
僕達は貴族だからね、誕生日パーティーとは言っても家への挨拶ばかりでそう楽しいものではない。
此処彼処で大人の策略が渦巻くのを子どもながら感じたものだ。

そんな退屈な時間の中、所在無く彷徨いていた僕の妹がうっかり躓き、手にしていたジュースをミレーユさんのドレスの裾へかけてしまった。
涙を浮かべる妹と一緒に慌てて謝罪をするだけの僕とは違い、偶然通り掛かったリチャードはスマートにハンカチを差し出し、そこで件の二人は固まった。
熱く見つめ合ったまま動かないリチャードとミレーユさんを見て、人はこうして恋に落ちるのかとあの時は暢気に思ったものだ。

「君の愛らしさをいろどるドレスが汚れてしまったね。きがえを用意しよう、ついてきて」
「はい。どこへでもついていきますわ」

溢したのうちの妹だよとか、そもそもここ僕の家なんだけどとか、口を挟む間もなくリチャードはミレーユさんの手を引いて屋内へ消えてしまった。
使用人達の戸惑う声が漏れ聞こえる。
そりゃそうだ。
その日は庭だけで屋敷は解放してなかったというのに、他所様の子がいきなり我が物顔で上がり込んできて愛を囁きあい始めるのだから。

「リチャード様とおっしゃるのね。なんてすてきなお名前かしら」
「君のかれんさにはかなわないよ、ミレーユ。君の名をよぶたびに愛しさでむねがはりさけそうだ」
「まあ…」

これが二人の運命の出会いであり、遺憾ながら僕との出会いでもあった。


パーティーが終わってからも五時間、手を取り合い、誰の声にも耳を貸さずに熱く語り合っていた二人は、両家の親に引き剥がされ文字通り泣く泣く訴えた。

「ちちうえ、ミレーユとのこんいんをまとめて下さい。今すぐに。そうでないなら私はここから動きません!ここにあるちょうどひんを全てこわしてでも動きませんからね!」
「落ち着くんだリチャード。お前達はまだ婚姻出来る歳ではない」
「はなしてくださいませ、おとう様!わたくしはリチャード様とそいとげるのです。はばむというなら……ジガイしますわよ!」
「やめなさいミレーユ、フォークを喉に突き立てるのはやめなさい。何処から持ってきたんだそのフォークは」

暫くは呆然と騒ぎを見ていたけれど、流石に一時間もすると堂々巡りに飽きてしまってね。
僕は妹を連れて部屋へと下がったよ。
結果としては親の方が折れた。
どうもリチャードが本当にうちの家具を壊し始めたらしくて。
あの時は使用人達が可哀想だったね。
口を挟みにくい他家のいざこざなのに、荒れていくのは彼等が丹精込めて手入れしている客間だ。
ずっと泣きそうな顔をしていたよ。
そもそも帰ってくれないと彼等も休めないし。

ああ…、思い出しただけでも疲れる。
奴らはこの頃から周りを顧みない性格だったんだ。


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