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前線基地9

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涼が手に持つ麻紐を巻き付けてある用紙所謂スクロールだ。ダニエル様からのプレゼントの一つである。魔力増強剤みたいなものらしく、あの巻物は光属性に特化した書物なのだとか。これに関してもよくあるRPGゲームで見た事がある。キャラクターのステータス上げの時とかに使用していた。育てるキャラクターの属性に合ったアイテムを使用すると経験値が何割か増す…みたいな。

涼の方に視点を戻してみると…彼女の周りには涼の姿が視認できないほどに魔獣が群がっていた。
当然ながらあれだけの魔獣がいると集中して浄化魔法を打つことが出来ないらしく、彼女もアトラ同様討伐をしていた。
まてまてまて。
これは…。

「これは良くないよな?!!!」
「っんぐぐぐ!!!…もぉ!!浄化する暇も魔力も無くなっちゃうよ!!!」
『てつだうか?』
「軽めによろしく!!」
「いや、アトラはアトラの持ち場を済ませろ。涼の手伝いはオレがする!!」
「『!!!』」

涼の愛用武器…光の大鎌を彼女は重力を感じさせない身のこなしでブンブンと縦横無尽に立ち回っていた。その動きは彼女由来の身体能力もあるが、空を飛んでいるアトラに近付きそうな跳躍力は魔法を使用しているに過ぎない。
浄化魔法は保護魔法同様、大量の魔力を消費するものだ。それがどれ程大変な事であるのかは数刻前に知った。
それだけに出来ることならば瘴気沼を浄化するまでは、一ミリたりとも他の件で魔力を消費して欲しくない。
だが、この量の魔獣をアトラだけに任せるのも無理がある。
ならば、俺がやるしかないのだ。



「ウィンド・ブラストーー!!!!!!」



目の前に右手を開いた状態で突き出した。途端に手の平を中心として、全身がドクンと脈打ち徐々に熱を持ち始めた。これが、数ヶ月前に習った攻撃系のちゃんとした魔法のそれなのだろう。
フェリシアさんの時もストーム系の魔法を使用したが、あれはあの場での勢いで放ったもので詠唱も何も無いし、所謂火事場の馬鹿力だったのだろう。今みたいに全身に負荷がかかっていなかった。

数カ月前の自分は魔法とはなんぞや…で止まっていたから、ヨハン達が哀れに思って色々と本を読ませてくれた。
その時に載っていたそこそこ強めの攻撃系の風魔法が、これである。
文章では【強めの突風が顕現し、吹き荒れて中級レベルの魔獣を一掃できる】と記載していた。

「…突風ってレベルじゃ無いんですけどもぉぉぉぉ!!!!!!!」
「お兄ちゃんすごぉーい!!!!台風出せるんだね!!」
『さすが奏多。瘴気沼もまきぞえにしてるあたりぬかりないな!!』
「違う!!!違うんだ!!!突風を起こしたつもりなんだ…、こんな…わぁぁぁぁどうしよう…。」

近くに駆けつけてきてくれた二人に情けなくも泣きついてしまっているのだが、完全に勘違いされている。
二人が言うように、正に突風超えて台風が二、三個顕現して魔獣と瘴気沼の瘴気が打ち上げられて、悲惨な状態でいる。空は嵐の時みたいに灰色の雲が広がっており、雨はなく、雷が雲の中で燻っていた。台風の暴風が肌を殴り付けるほど強く、三人で固まって立っているのが精いっぱいある。
風の力とは恐ろしいもので、見事に巻き込まれている物は散り散りとなっていた。
その様に冷や汗が止まらない。

『そろそろ、とめていいんじゃないか?もう沼もあれだけじゅうりんされればもんだいないだろう。』
「……お兄ちゃん?」
「ど…。」
「『ど?』」
「…どうやって止めれば良いんだ?」
『そんなもの、止まれとねんじればおさまるだろうに。』
「やってるんだけど…ずっと手のひらが熱いままで収まらないんだ。」
「……お兄ちゃん、魔力のタイプって知ってる?」
「え?」
「私一応最低限は王宮でちゃんとした魔法授業受けたから、知識については自信あるんだよね。多分これは魔力のタイプによる問題なんだと思う。魔力漏れってやつだよ!」
「ま、魔力漏れ?」
「そう、基本属性として火属性・水属性・風属性・土属性。希少タイプの光属性・闇属性があるんだけど。お兄ちゃんは風属性と光属性。風属性の人は汎用性が高いみたいで、お兄ちゃんみたいに違う属性の魔力を保持してる人が結構いるんだって。」
「涼…申し訳ないけど、なるべく手短に頼めるか?」

義妹が意気揚々に説明してくれる様はとても微笑ましいし、叶うならばもっと聞いてみたいと思うのだが…貧血みたいにどんどん身体が重くなっていくのがわかる。気を抜けば直ぐにでも地面に伏してしまいそうだ。

「あ、ごめんね?!えっとえっと…保持してる魔力タイプによって魔力漏れって結構違いがあるって話ね。そもそも魔力漏れって言うのは当たり前に起きるみたい。魔法を使用したら、術者が止めるまで、顕現させ続けるために魔力が自動的に流れで続けるもんなんだって。それを魔力漏れっていうみたい。」
「そういう事か…。」
「特に風属性は漏れる量が多いみたい。だからお兄ちゃんのはそれだと思うんだよね。」
「それじゃぁ…アトラが言ったみたいに止めるように念じるのをもっと強めれば…?」
「いや、私がうち消せばなんとかなると思う。外部から強制的に魔法を止めれば魔力も止まるから。」
「どういう…?」
「あの台風を壊してくる!!!」
「えぇえぇ?!?!」
『僕もてつだう。』
「うん、一緒にお兄ちゃん助けよう!!」
『おー!!』

最早デジャブではなかろうか。
あんなにも暴れ回っていたのにまだやり合えるのか…。
そんな彼等に対してクラっときてしまう、そんな俺だ。
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