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前線レッドウォール9

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素晴らしい事にヨハンとアルフレッドは、あのいちゃもんつけてきたガタイのよすぎる連中の周辺の配達は、全て終わらせていたらしい。この近辺での残りの部分はあの連中が取り締まっている一帯のみと、宿に残っている前線基地分。

「ヨハン班長、彼奴ら以外の配れる範囲は全て配り終わったけど。」
「んー…考えはあるんだが。皆が納得するかどうかって感じではあんだよなぁ。」
「んじゃぁ、さっさと伝えてよ。班長の頭の中だけでグルグル考えても仕方ないことでしょ?」
「アルフレッド…お前なぁ…。その通りだけどよ。……ファンゴ班集合しろーー。」

ヨハンは暗めな顔をしたまま少し離れた涼とアトラを呼び付けた。アルフレッドの伝え方が氷の棘のようにするどかったが、彼の言っていることは間違ってはいないのはここ半年でよく分かっている。

ヨハンは所謂とても良い人なのである。
文句をブーブーよく言うが、何だかんだ面倒見が良くて熱い気持ちを忘れていない無い人でもある。でなければこんな問題抱え込み系異世界人二人も預かってお世話をしないだろう。

そんなお人好しな彼が、苦虫を噛み潰したような顔をして俺達班員を見回している。何かあるのは間違いないようで。

「それで、なんなのさ。」
「そのな、これ以上ここにいてもアイツらのせいで配達が上手く出来ないのは目に見えている。そこでだ。先に次のミッションをこなしてしまおうかと考えている。」
『魔獣討伐とやらを、さきにするってことか?』
「…………そうだ。」

ヨハンの言いたいことはよく分かったし、彼の提案は俺も賛成である。これ以上あのアトラ弾丸騒ぎを起こしてしまった、この街で配達は連日続けるのは難しい気がする。数日間を開けた方が他の住民からの視線も減るように思えるし、アイツらからの追撃も疎らになるのでは。

懸念点としては、前線にフランクに行っても良いかどうかという点である。街でやる事無くなったねー、それじゃぁ戦場に行きますかねー、いえーい!では行ってはいけないきがするのだが。この場で気軽に決めても良いものなのか。

「私は構わないと思う、私達の目的はアレンくんのお父さんにお手紙を渡す事だし。」
『なにかあれば僕とカナタとスズがいるから。すぐにでもしゅっぱつしていいとおもう。』
「…僕はみんなの判断に合わせるよ。奏多は?」
「…俺も向かっても構わないと思うけど。準備は必要だと思ってる。」
「まぁ、そうなるわな。…というか、このまま前線に向かっても構わねぇってことだな。」
「「「『うん。』」」」
「…りょーかい。」



誰も反対するものはいなかった。
一致団結とは少しだけ離れている気もするのが否めないが、概ね全員方向性はズレていない。
というわけで、やることも進むべき進路も決まったからかやる事は早かった。
ヨハンからは、

「出発はなるべく早目にしようかと思う。明日の朝出立だ。」

だなんて告げられてしまった。準備する時間が大幅に早まった。配達ついでにのんびり街中で販売されているメイドインレッドウォールの装備を見回っていこうと考えていたが、完全に無くなった。必要最低限の食事や水分、回復ポーション等などの必要備品集めに奔走する流れになっていた。
備品を集める度に店員さん達から若干の嫌な視線を受けるが、販売規制を敷かれている訳では無いらしいので、ちゃんと買う事が出来たのが有難い。金額が正規価格かどうかと言ったら謎ではあるが。まぁ、そこはダニエル様から恐ろしい程にお金を頂いているので痛くも痒くもない。

「涼、アトラ備品集めはどうなった?」
「乾物系、飲料系集まったよー。」
『いわれていた救急セットとやらもすべてそろえた。しぶられたが、威嚇したらいっぱつだったぞ。』
「…まぁ、今回ばかりは見逃すか。理由が理由だしな。それじゃぁ、ヨハン達ももう戻ってるだろうし宿に戻るか。」

宿に戻ってみれば、既に荷造りを済ませていた二人が寛いでいた。最後の晩餐とばかりに酒も肉類も贅沢にテーブルの上に広げている。
荷物の方を見ると、ここの郵便物が。本当であれば現時点での郵便物をレッドウォール郵便局に預けておきたい。だが、何をされるか分からないのでそれも纏めて積んでおいた、と言った所だろう。

「ちまちまと始めてるぜ。」
「こういった贅沢も偶にはいいでしょ?ほら、奏多の分。」
「ありがと。まぁ、明日な響かない程度であれば飲みすぎなければ良いんじゃない?」
「お兄ちゃんお酒飲むんだね?」
「偶にな。」
『うまいのか?』
「適量なら気分が上がるかな。明日の元気に繋がるんだ。」
『ふぅん?』

この子達に飲ませるつもりは無いが。二人は買ってきていたジュースを片手に食事を楽しんでいた。
そんな様子を見てふと思い出す。
一年で一番忙しい正月前に仲の良い局のメンバー過ごした時を。喝を入れる為にも、自分達へのご褒美としても酒を煽っていた時があったな。
そんな事を思い出せる程には、思いの外落ち着いていた。酒の効果が出ているのかもしれないな。

「さて、酒もここまでにしてそろそろ寝て明日に備えるぞ。」



グリーンヴァルドの朝はとても空気が澄んでおり、大きく息を吸うだけで身が清められていく気がする。
レッドウォールはとても乾燥しており、朝起きると少しだけ喉がイガイガしている時があった。
今日に関しては喉が渇いて仕方がない。これは昨晩の酒のせいでもあるだろう。

「…ん、お兄ちゃん?」
「涼、起きたか。偉いぞ。」

モゾモゾと隣に寝ていた義妹が、まだ眠そうな顔をして俺の方へと身体を向けてきた。だが普段よりも早い時間に起きることが出来たのだ。立派である。

「二人とも起きたならさっさと準備してくれ。朝飯は移動しながらにする。」
「「はぁーい。」」

声をかけてきたヨハンの方を見て見ると、既にアルフレッドとアトラは起きていたらしく二人も眠そうに出発の準備を進めていた。
皆で決めた事ではあるが、やはり眠そうなのは変わらないらしい。前線に行く前に何処かで一休み出来るか、後で班長に直談判してみよう。



「ファンゴ班、前線基地へ出発するぞ!!!!」
「「「おぉ!!」」」
『おぉー!』
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