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出来る事を3

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ヨハンとアルフレッドを御屋敷の隅に誘導させ、なるべく被害を受けないようにさせた。そのままフェリシアさんが涼ちゃんの方に意識を向けている間に荷物が載せてあるボード一隻ずつを引っ張り、これらも御屋敷の近くに移動させる。

「涼ちゃん!!」
「お兄ちゃん…。」
「二人とも揃ったみたいですね。それで私の狙いを知ったわけですけども、どうしますか?」
「状況からみて、直ぐに逃げる事が無理だと言うことはわかりました。ですが、まだ俺達も仕事が残ってますんで、今すぐに差し上げることは出来ないです。」
「へぇ…という事はその業務を終了させ次第頂くことは出来ると捉えてもよろしいですか?」
「それは…。」

俺自身の魔力が彼女の糧になるかどうかは分からないし、どれだけを吸い取られるのかも分からないけれど…。
あの二人、そして三隻の荷物の事…何よりも現時点において班内最強火力の涼ちゃんを犠牲にする事はナンセンスだ。彼女にはこの場を物理的に突破してもらわなければいけないのだから。

「…わかりました。ただし、条件がありま……っ?!?!」
「へぇ、私に条件?」
「ちょ、やめて!!!!」
「っぐぅ…!!」

ほんのコンマ数秒だ、視線を外した瞬間に互いの鼻先が着きそうな程の距離に美しいエルフの彼女がそこにいた。ギラギラと獲物を狩るその瞳が俺を離さない。
涼ちゃんが直ぐに動きだし、俺と彼女の間に入ろうとするが…きっと俺たちには分からない魔法で拒まれているみたいでそれが叶わなかった。
身体は正直なもので俺はそのまま彼女に首元を強く掴まれてしまい、足元が宙に浮く。されるがままだ。

だが…。

「…そうです、条件ですよ!!出なければ家の最強火力である涼ちゃん様をけしかけますよ!!!」
「ハッ、アハハハハハ!!それはそれはこわぁい、ですね?」
「っは、ゲホッゴホッゴホッ…。」
「お兄ちゃん!!!」
「だ、大丈夫…。」

高笑いしたと思えば、パッと掴んでいた服を離してくれ、重力に従うまま俺は地面に落ちた。落ちる訓練なんてした事が無いし、受身の取り方はさっぱりなので見事に腕を全力で打ち付けてしまい凄く痛い。

「良いでしょう、どうぞご提示を。」
「どーも。まず、吸う魔力は俺だけで。それで、俺が死なない程度にして頂きたい。それだけです。」
「お、お兄ちゃん何言って…。」
「…どうですか?」
「良いでしょう。貴方、グリーンヴァルト郵便局員でしょう?ならば、業務が終わった頃にお邪魔しましょう。」
「…承知しました。」



俺達四人はそのままフェリシアさんに追加攻撃をさせることも無く、その屋敷を後にする事が出来た。
森の出入口まで皆ヨロヨロしながら歩いていき、ドサッと全員が地面に腰かけてしまった。

「お前は…ほんとうに、碌な事をしないな。どうするんだ、これから。」
「あはは…でも、あぁでもしないと見逃して貰えないし。」

真横に座ったヨハンが俺に寄りかかりながらそう言ってきた。肩で息をしているあたり、魔力が枯渇しておりもうしんどいのだろう。

「んで、どうするわけ。僕や班長は何も手伝ってあげれないし…今日の分の配達はなんとしてもこなすけど…それで限界だよ?」
「…いや、先ずは配達物は俺達に任せてこのまま涼と一緒に局に戻れ。んで、ダイナー局長に説明して何とかしてもらえ。俺達にはそれくらいしか出来ねぇよ。」
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫にするしかねぇだろ…ほら、さっさと行け。」
「お言葉に甘えよう、私もその方が絶対に言いと思う。」
「涼ちゃん………。分かった、それじゃぁ荷物よろしくお願いします、班長!!アルフレッド!!」
「あぁ。」
「はいよ。」

足元に転がる無理矢理力の限り引っ張ってきたボード。来た時よりも枝葉によって傷が出来ていたが、そんなことは今気にしていられる余裕なんて無くて。二人でボードの上に乗り、そのまま勢いよく空へと飛び立ったのだった。

「お兄ちゃん、グリーンヴァルトまで荷物無しなら私だけの魔力で行けるよ?」
「いや、出来る限り涼ちゃんには温存して欲しいんだ。いざって時の為に。……あと、俺、実は差程疲れて無いんだよね。」
「え?…あ、でも私達フェリシアさんに吸われてない?」
「それもあるし、朝の転送魔法の時もそんなに疲れなかったんだよね。」

恐らくだけど、魔力量ならば俺の方があるのだと思う。涼ちゃんに関しては素直に魔法のセンスがあるのだろう。何を習わせたとしてもすんなりと出来る。数ヶ月で戦場前線に出れていたのが何よりの証拠だろう。
だがそれを操るための魔力が足りるかと言えばそれはまた別の話だ。
少し前に一人で戦場前線に出陣しても上手く戦えなかったのは経験不足もあるが、そこも関係しているのだろう。
それを埋めるにはきっと俺が必要になるのだと思う。

だから…多分今回の【聖女様】は俺と彼女二人で一つなのだとそう思えてしまうんだ。
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