上 下
16 / 54

帰還4

しおりを挟む
「単純な話だ…スズがこの世界に転移してきたからだ。そして、かつての聖女は皆、女性であった。それだけだ。」
「ダニエル様…。」
「今改めて思えば…軽率な行為であったと思う。歴代の聖女…つまりは異世界転移者が全て女性だったからだと、カナタが聖女ではないと決めつけていた。…すまない。」

そういい、ダニエル様は真っ直ぐ俺の方を見据え、そして頭を下げたのだった。

「そ、そんな!!別に俺は謝って欲しいとかじゃ…。」
「いーや、受け取るべきだ。奏多の命を軽んじていたんだ。更にはこの国の希望を捨て去ろうとしたんだからな。」
「そ、それは…確かにそうだな。お前達の言う通りだ。今後はカナタの処遇についても改めさせて頂く、それでいいだろうか?」
「それは…まぁ、はい。」
「…奏多お兄ちゃんは、色んな人に大切にしてもらってたんだね。」
「それは、そう、だね。でも、涼ちゃんもでしょ?」
「…そうだね。大切にはしてもらってたよ。」

悲しげな眼差しが消えない。
【聖女として大切に】という言葉が出てきそうなのを、頑張って堪えているように見えた。空気を読み、グッと飲み込む。そんな健気さが痛々しく見えてしまえたのだった。



「それで、奏多は本当にレッドウォールに行くんだね?」
「聖女様っぽいって判断されたのもあったけど、アレンくんのお父さん達のことも気になるからね…。」
「はぁ…奏多はそういう奴だよ。」
「知ってたけどな。」
「?」
「いい、気にするな。こちらの話だ。…俺達も行く。護衛としてもあるし、レッドウォール宛の手紙もそれなりにあるしな。配達ついでに手伝ってやる。」
「え!!良いのか!!」
「そうでもしないと僕たちの仲間が死んじゃうからね。奏多がいれば僕達の魔力も上がるし、何とかなるでしょ。」
「えへへ。」
「ったく、呑気なやつ。」

どこか期待はしていたんだ。二人が来てくれるって。いままで半年間魔法の練習や仕事のやり方でも無理を言ってた事が何回かあったが、それを何だかんだ二人は手伝ってくれていたのだ。
だから今回も…と期待をしてしまっていた。無理の可能性も当然考えていたけど…。やはり二人は心配して着いてきてくれた。その事実がとても嬉しくて…良い意味でむず痒い。

「ありがとう、二人とも。よろしくな。」
「いーよ、何かしら面倒事を持ってくるのが奏多なのは知ってるから。」
「アルフレッドの言う通りだ。それが奏多だからな。…問題はどうやって局長を説得するかだな。」
「あー…確かに、そっちの方が大変か。」
「そうなの?」
「なんというか…心配性なんだよ。あの人は。」

そう。
俺の事をグリーンヴァルト郵便局に迎え入れくれた人…局長のダイナー・サーラ。
良い人なんだけど…と局のみんなは口を揃えて言われる御方である。間違いなく仕事も出来て良い人なんだけど…。

「残念だなと思っちゃうくらいの、過保護気質なんだよ。」
「過保護…なの?」
「うん、皆のことを自分の子どもだと思ってる。」
「あー…なるほど。何となく理解したよ。」
「ははっ、もしかしたらち涼ちゃんも対象になるかもね。」
「…構えとくね。」
「利口な判断だ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...