異世界でも今日も明日も誰かの想いを届けるお仕事をしています

召喚2

局長と話をして取り敢えず俺はここの郵便局預かりとなった訳だ。もしかしたらまた移転装置魔法が発動して元の世界に戻れるかもしれないと、王都は判断したらしい。当分の間はこの郵便局配属であると決定した。
そこから半年間色んな事が目まぐるしく過ぎ去り、時は経過する。

そしてここ最近召喚魔法…俺と同様であろう移転装置魔法が王都主導の計画の基発動させたらしく【聖女様】を呼び出したらしいのだ。
同僚の噂話によると身なりからして俺と同じ世界では無いのか、との事。その噂の出処などは分からないが、同郷の可能性があるとすれば若干浮ついてしまうのも致し方ないと言うものだ。

「やっぱり気になるか？」
「まぁ、そうだな。」
「でもいくらお前でも謁見は出来ないと思うけどね。」
「…それは、分かってる。」

本当かー？と同量に髪の毛をぐちゃぐちゃに掻き乱されている俺…改め朝桐奏多あさぎりかなた。嫁もそれに該当する親しい人もいない29歳独身である。自由気ままに生きていたらこうなっていた若干寂しさを感じてきている、一般市民だ。身長は日本人平均よりも少し上だと信じている。

そしてそんな俺をからかっている同僚片割れ、ヨハン・ファンゴ。
俺よりも年下の25歳。ツーブロックヘアが妙に合っていて、ミルクティー色の髪に茶色の切れ長な瞳を持っている。俺がここの郵便局に務める時に何かと世話を掛けてくれた恩人だ。無駄に体格が良い。元の世界では恐らく戦士的ポジションだと思われる。実際に故郷は戦闘民族の村だったらしいが、戦闘民族独特の上下関係が肌に合わず辺境の地であるこの郵便局に身を置いている状態だ。

そしてもう一人のほぼ同期。
アルフレッド・ガルシア。
ヨハンよりも少し年下の23歳。マッシュヘアで深緑色の髪と金色の瞳を持つ。全体的にヒョロいが頭脳派と言うやつなのだろう。所謂魔法専門学校を通いながらここでバイトをしている学生だ。
口調はつっけんどんな部分はあるが、何かと気にかけてくれる心優しい青年だ。

この二人に裏方の業務から配達業務までお世話になっている感じだ。
俺の居住スペースは郵便局管轄の独身寮であるので、同じ独身族であるヨハンとお隣さんでもある。そこでも彼にお世話になっているので本当に頭が上がらない。

「正直な話、王都は俺の存在を忘れているのだと思うんだ。」
「なんで？」
「今まで一月に一度届いていた状況確認書が届かなくなっているんだ。」
「なんだぁそれ…。」
「名称の通り、不便なことないですかとか、必要なものないですかっていう手紙だ。ここ二ヶ月前から来なくなった。」
「王都は、奏多の事を保護しなければいけない約束だったはず。それを破ってるの？」
「…多分だが、【聖女様】の召喚と彼女の生活に忙しいのかと思ってる。」

そう言うと目の前の二人の気圧が変化した気がした。高い山を登った時とはまた違う、上から押さえつけられた様な無駄に密度の高い空気圧がこの作業部屋を埋めつくしている。
端的に言えば怒っている。それもかなり。

「数ヶ月間王都からの使者が来ねぇなと思っていたけど、【聖女様】に構ってるってことか。だが、その【聖女様】を召喚出来たのは誰のおかげなんだって話だ。」
「その通りだよ。奏多がこの地へと転移してくれたからこそ、強力な魔法陣をこの国は習得出来たのだから。奏多が居なければ【聖女様】の召喚は出来なかったのに…奏多を放置しているだなんて許せない…！」