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八章 彼女が彼と、住む理由。

二十五話 団らんと共に届くメッセージ(1)

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 そんなこんなで、白銀と肩を並べた伊都は、食卓の先の母と一緒に三人で食事をとる。
 母と白銀が打ち解けた様子なので、接待は母に任せ、伊都も気張らずにのんびりとおかゆを食べた。

 食後のお茶……伊都だけ薬の効きをよくするため白湯だが……を飲んでいる時。
 ふいに、伊都のスマホが電話の着信を知らせた。部屋から響くベルの音に、慌てて席を立つ。
「あの、電話が……ちょっと席を離れますね」
 二人に断り、伊都はぱたぱたとスリッパを鳴らして部屋に飛び込むと、スマホを取る。

「はい、織部です」
『ああよかった、繋がった。イトちゃん目が覚めたのね』
「サキさん?」
 電話の主はサキであった。

「もしかして、心配掛けてしまいましたか? 済みません。すぐに折り返しで返事しないで」
『いいの、いいの。無事ならあたしの事は気にしないで。それより、イトちゃんの事だから明日出社する気でしょ?』
「それは、まあ……」
 仕事だから当然と、そう言おうとするが。
『ダメよ、歩道橋から転落なんて、どう考えても大事じゃないの。自分の身体なんだから、自分で大事になさい。貴女が立つ気でもあたしが許さないからね!!』
 結構な剣幕で叱られてしまった。
「は、はい。済みません……」
 伊都は反射的に謝る。

『それは置いといて。それで、身体の具合はどうなの?』
「そうですね……特に骨折などはないんですけれど、全身を強く打ったみたいで。包帯だらけです」
 伊都は明るく言うが、電話の向こうの声は深刻だ。
『そう……。ならそうね、診断書は後でもいいから、とにかくしっかり休む事。打ち身ってね、後からどんどん辛くなるのよ? 軽く見ないで、ちゃんと休みなさい。っていうか、貴女のお母さんに聞けばいいじゃないの』
「あ、それもそうですね……そういえば、お母さんにも痛みが出てくるわよって、脅されたんですよね」
『でしょう? 緩和ケアの仕方なんて素人のあたしがいうより、貴方のお母さん方が詳しいでしょ。ちゃんと言うこと聞いて大人しくなさいな』
「はい、肝に銘じます」
 姉のように親身なサキの言葉に、伊都は神妙な顔で頷く。

「あの、ところで話はぜんぜん変わるんですけれど……」
『何かしら?』
「その。白銀さんに、最近私がやたらトラブル続きになっているからか、心配なので一緒に住まないか、と言われていまして」
 伊都は、そういえば既婚者からアドバイスを聞けばいいんじゃないかと、さっき聞いたばかりの話をする。
『あら、同棲? いいじゃないの』
 だが、サキから明るい声でかえってきた言葉はすっきり明快とした肯定だ。
「そ……そうですか?」
 既婚者二人目のお言葉に、伊都は動揺の余り部屋をうろつく。
『そうよ、一緒に住んでみたら食の好みや生活リズムが合わなくて離婚、なんて今時珍しくないし。お試しで同棲してみるのは結構大事なのよ? 』
「はあ……」
 そういう見方もあるのか、と伊都は新鮮な気持ちで聞く。

 何せ、彼女は職場でも奥手で通ってきたのだから、姉貴分であるサキともこういった恋愛話をじっくりした事がないのだ。
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