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SP(息抜きサブストーリー集)

SP3 銀狼の妻問婚(2) 

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「こっちの漬け物も美味い。甘くない」
「それは、浅漬け専用のものより、お砂糖控えめなんです。だからかしら」

 にこにこと屈託ない笑顔を見せるようになったのは、冷蔵室の事件以降だ。
 彼がジルバーであると知ってから。そういう意味では、あの事件も意味があったのだとは思うが。
(あいつは好かんし、許せん)
 彼女を怯えさせ、彼女の手を痛めつけ痣など作ったのだ。灰谷は、彼にとって完全に敵である。まあ、そんな輩は、彼が力一杯追い込む準備を進めているが。

(幸せだ)
 彼女を前にして、心からそう思う。
(やっと、ここまで来た)
 無防備に微笑んでくれる距離に。
 だからこそ、彼は自分の欲を抑える。ただ、彼女の為に、今すぐにでも食らいつくしたいという男の欲を、抑え続けるのだ。

 時間は進み、秋も深まる頃。
 二人の関係は、その時も穏やかなものだった。

 毎朝の抱擁には、大分慣れてきてくれたと思う。だが、強く抱き締める度に怯えたような震えがその華奢な身体に走る。
 それが、彼には不思議でならない。
(一体何が、彼女を頑なにさせているのだろうか)

 その甘い肌を知っている。彼を柔らかく迎え入れる場所を知っている。
 全身で受け入れ、甘く包み込んでくれる彼女。寡黙で気の荒い本性を語るような巨大な狼の姿ですらも、彼女は笑顔で受け入れる。そんな彼女だからこそ、不思議だ。
 あと一歩、現実の薄皮一枚で隔てられた距離は、何とも言えないもどかしさがあった。
 本心ではその先に行きたくて仕方ないが、辛抱する。彼女の心が自分にあると思えば、身体は辛くとも心は満たされていた。
 それに、夜が来れば……。夢の中ではあるが、彼女と触れ合えるのだから。

 お付き合いはそのように順調だが、最近の彼女はどうも多忙の様子だ。
 故郷ティエラナタルの改造計画に沿い、売店に置くニット作品のサンプルの提出を迫られていると聞く。
 そのチェックは、主にはサキが行うという。
 高名なシェフの夫を支える妻であり、元は有名な商社で室長を勤めた程の才媛。ハイブランドを普段着感覚で平気で着こなす女性の目利きであるから、要求は相当に高いのだろう。
 毎日のよう、眠たそうな顔をして白銀を迎える姿を見ると、訪問時間を夕刻にずらすべきかと考えるが……。
(それはそれで、彼女が気にしそうではあるな……)

 彼の仕事は自分裁量で仕事を回すところがあり、忙しくない時は忙しくないなりに営業で回るし、忙しい時は寝食を忘れ駆け回っている。
 昨今、ブラック企業で挙げられるだけの内容がそこにはあるのだが、その分成功報酬は大きいし、己の努力が形になった時の満足感に比べれば、それも仕方がないとも思っている。
 本来、クリエイティブな仕事とは、時間やコストでは割り切れないものでもあるのだ。
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