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SP(息抜きサブストーリー集)

SP1 仔狼だって、押し倒したい。(2)

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(あ……折角魔女が抱きついてきたのに、もったいねぇ)
 甘い匂いや柔らかい身体を堪能する間もなく離れていった身体に、ギャンは寂しさを覚える。
 未だ幼さを残す彼は、性欲よりは母性を求めがちだ。
 それでもその思いは恋により近いから、暴れたから怒ってるんじゃないかと、おそるおそる魔女を見る。

 彼女は平然として、籠の中を漁っていた。
「ええと、こっちは胃腸の飲み薬で、これはやけど用の軟膏で……ああ、これだったかしら」

 真剣な顔をして籠を探る伊都の視線は、いっこうにギャンを見ない。
 嫌われたかとの思いに、キュンキュンと情けなくも鼻を鳴らしていると、彼の怯えを分かっているかのように背を撫でてくれる白い手がある。
 ギャンは、喜びに尻尾を揺らす。

 片手を撫でに回しつつ、伊都は薬瓶を探っていた。
 薬事の魔女には直接会った事はないが、薬事の魔女の友人である機織りを通して手編みの依頼が伊都の元に舞い込んで。いつかの時の頼みにと、頼まれもののロングベストと膝掛けを丁寧に作り贈っておいたら、お礼に色々な薬を分けて貰えたのだ。

 籠の中の素焼きの壷は、どれも同じように見えて中身がわかりにくい。
 そこで伊都は、自ら草木で染めた毛糸をカバーのように巻き付けて、それぞれの薬に印を付けている。

「ああ、これだわ。この間、切り傷や刺し傷に効くってお薬を紡ぎ手に分けて貰ったの」

 ようやく、こちらを向いてくれたと思ったら。
 そう言って開けた壷からは、ハーブの特有の青い臭いが鼻につく。
「うっ」
 プンと鼻につく臭いに、何かの罰かとギャンが思っても仕方がない。

「うわあ、くせえっ! それ近づけんな!」
 鼻の利く狼はもちろん、その強い臭いにぐるると唸った。
「本当、貴方たちはハーブの臭いが苦手よねぇ……。でも、よく効くお薬なのよ?」
 私も切り傷の時にお世話になってるの、と。

 毒にしか思えない薬を自ら使っていると聞き、ギャンは仰天した。
「そんなの使って平気なのか!?」
 彼女は苦笑する。
「もう、そんなに警戒しなくっても。ほら、随分中身が減ってるでしょう。何度も使ってるのよ?」
「う、嘘だぁ」

 魔女は、毒にも強いのだろうか。
 ギャンはとんでもないとばかりにじいいっと、平然と塗り薬を手にした伊都の顔を見つめる。
 そうして驚きに固まっているうちに、さっと塗られて包帯を巻かれた。

「はい、終わり。いい子にしてたから、干し肉のかけらでもあげましょうか」

 魔女は彼の頭を撫で、籠を持ってラグから立ち上がる。
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