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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。

7ーex.間章 銀狼は奔走す

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 彼女が、何者かに襲われた……。
 その事実を聞いて、仕事を放り出しそうになった彼を止めたのは、驚く事にこの場にいない筈の上司だった。

 会場を押さえてのリハーサル。その現場から足早に立ち去ろうとする現場責任者に、へらへらとした笑いを浮かべる年嵩の男は待ったを掛ける。

「こら、現場責任者。仕事放って何処に行くつもりかなぁ?」
 病院に駆けつけるべく車に向かう彼の着るスタッフジャンパーの襟首を掴んで、引きずるように戻すのは五十絡みの若作りな男。
「放して下さい。婚約者が、暴漢に襲われたんですよ。こんな時に側に付いていないなんて、とんでもない人非人に仕立てたいのですか」

「あのさぁ。ウチの業界でさぁ、それ通じると思ってるの?」
 上司はあきれた顔をして、美貌の男へ言った。
 彼は、そんな上司に目を鋭くして睨む。
「うわあ、美形が睨むとさぁ、無駄に怖いからやめてよ白銀君。別に、絶対行っちゃ駄目とは言わないけど、ここをどうにかしてから行きなさいって話よ」
 その手から車のキーを奪い、チャリチャリと揺らしながら上司は言う。

「これってさ、まあでっかい会社で何度も実績積んできた君にはそう珍しいものじゃないかも知れないけどさ、来場者万単位の規模の企画よ? うちみたいな吹けば倒れる程度の中規模会社にしちゃ、それこそ噛ませて貰っただけでも有難がるやつね」
 肩を竦めた彼は、車のキーを見せつけるようにしながらゆっくりと駐車場を横切る。
 移動手段を奪われた白銀は、キーを取り戻すべくその背を追うしかない。
 上司の背中越しに見える光景は、市街を離れ海際の元埋立地にある広大なイベント会場だ。このイベントは、巨大な展示場と、その周辺の駐車場などを使って行われる事になっている。

「ライブだけでない、フリマにB級グルメに著名人の私物オークション。うちみたいな広告会社だけでなく、ラジオ番組やあれやこれやも噛んでる、年に一度あればいいような大規模なイベントね。君はその巨大イベントの調整役だ」

 彼はその時、仕事に追われていた。
 地元のラジオ局、新聞社や地元企業などの出資を募って行う、大きな催しの企画運営。メインスタッフとして、彼は面倒な調整を一手に引き受けていた。
 前歴からすればよくあった事だが、職場を移ってからは、初めて手掛けるビッグイベントだった。
 それを放って行こうとするのだから、彼の焦りは相当なものだ。

 本質剥き出しの、無表情な強面の下に隠された激情は凄まじく、その怒りを一身に受ける上司はひきつった笑いの表情を浮かべながらも、彼を何とかここに繋ぎ留めようと、必死で言い募っている。
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