149 / 220
七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。
7ーex.間章 銀狼は奔走す
しおりを挟む
彼女が、何者かに襲われた……。
その事実を聞いて、仕事を放り出しそうになった彼を止めたのは、驚く事にこの場にいない筈の上司だった。
会場を押さえてのリハーサル。その現場から足早に立ち去ろうとする現場責任者に、へらへらとした笑いを浮かべる年嵩の男は待ったを掛ける。
「こら、現場責任者。仕事放って何処に行くつもりかなぁ?」
病院に駆けつけるべく車に向かう彼の着るスタッフジャンパーの襟首を掴んで、引きずるように戻すのは五十絡みの若作りな男。
「放して下さい。婚約者が、暴漢に襲われたんですよ。こんな時に側に付いていないなんて、とんでもない人非人に仕立てたいのですか」
「あのさぁ。ウチの業界でさぁ、それ通じると思ってるの?」
上司はあきれた顔をして、美貌の男へ言った。
彼は、そんな上司に目を鋭くして睨む。
「うわあ、美形が睨むとさぁ、無駄に怖いからやめてよ白銀君。別に、絶対行っちゃ駄目とは言わないけど、ここをどうにかしてから行きなさいって話よ」
その手から車のキーを奪い、チャリチャリと揺らしながら上司は言う。
「これってさ、まあでっかい会社で何度も実績積んできた君にはそう珍しいものじゃないかも知れないけどさ、来場者万単位の規模の企画よ? うちみたいな吹けば倒れる程度の中規模会社にしちゃ、それこそ噛ませて貰っただけでも有難がるやつね」
肩を竦めた彼は、車のキーを見せつけるようにしながらゆっくりと駐車場を横切る。
移動手段を奪われた白銀は、キーを取り戻すべくその背を追うしかない。
上司の背中越しに見える光景は、市街を離れ海際の元埋立地にある広大なイベント会場だ。このイベントは、巨大な展示場と、その周辺の駐車場などを使って行われる事になっている。
「ライブだけでない、フリマにB級グルメに著名人の私物オークション。うちみたいな広告会社だけでなく、ラジオ番組やあれやこれやも噛んでる、年に一度あればいいような大規模なイベントね。君はその巨大イベントの調整役だ」
彼はその時、仕事に追われていた。
地元のラジオ局、新聞社や地元企業などの出資を募って行う、大きな催しの企画運営。メインスタッフとして、彼は面倒な調整を一手に引き受けていた。
前歴からすればよくあった事だが、職場を移ってからは、初めて手掛けるビッグイベントだった。
それを放って行こうとするのだから、彼の焦りは相当なものだ。
本質剥き出しの、無表情な強面の下に隠された激情は凄まじく、その怒りを一身に受ける上司はひきつった笑いの表情を浮かべながらも、彼を何とかここに繋ぎ留めようと、必死で言い募っている。
その事実を聞いて、仕事を放り出しそうになった彼を止めたのは、驚く事にこの場にいない筈の上司だった。
会場を押さえてのリハーサル。その現場から足早に立ち去ろうとする現場責任者に、へらへらとした笑いを浮かべる年嵩の男は待ったを掛ける。
「こら、現場責任者。仕事放って何処に行くつもりかなぁ?」
病院に駆けつけるべく車に向かう彼の着るスタッフジャンパーの襟首を掴んで、引きずるように戻すのは五十絡みの若作りな男。
「放して下さい。婚約者が、暴漢に襲われたんですよ。こんな時に側に付いていないなんて、とんでもない人非人に仕立てたいのですか」
「あのさぁ。ウチの業界でさぁ、それ通じると思ってるの?」
上司はあきれた顔をして、美貌の男へ言った。
彼は、そんな上司に目を鋭くして睨む。
「うわあ、美形が睨むとさぁ、無駄に怖いからやめてよ白銀君。別に、絶対行っちゃ駄目とは言わないけど、ここをどうにかしてから行きなさいって話よ」
その手から車のキーを奪い、チャリチャリと揺らしながら上司は言う。
「これってさ、まあでっかい会社で何度も実績積んできた君にはそう珍しいものじゃないかも知れないけどさ、来場者万単位の規模の企画よ? うちみたいな吹けば倒れる程度の中規模会社にしちゃ、それこそ噛ませて貰っただけでも有難がるやつね」
肩を竦めた彼は、車のキーを見せつけるようにしながらゆっくりと駐車場を横切る。
移動手段を奪われた白銀は、キーを取り戻すべくその背を追うしかない。
上司の背中越しに見える光景は、市街を離れ海際の元埋立地にある広大なイベント会場だ。このイベントは、巨大な展示場と、その周辺の駐車場などを使って行われる事になっている。
「ライブだけでない、フリマにB級グルメに著名人の私物オークション。うちみたいな広告会社だけでなく、ラジオ番組やあれやこれやも噛んでる、年に一度あればいいような大規模なイベントね。君はその巨大イベントの調整役だ」
彼はその時、仕事に追われていた。
地元のラジオ局、新聞社や地元企業などの出資を募って行う、大きな催しの企画運営。メインスタッフとして、彼は面倒な調整を一手に引き受けていた。
前歴からすればよくあった事だが、職場を移ってからは、初めて手掛けるビッグイベントだった。
それを放って行こうとするのだから、彼の焦りは相当なものだ。
本質剥き出しの、無表情な強面の下に隠された激情は凄まじく、その怒りを一身に受ける上司はひきつった笑いの表情を浮かべながらも、彼を何とかここに繋ぎ留めようと、必死で言い募っている。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】
階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、
屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話
_________________________________
【登場人物】
・アオイ
昨日初彼氏ができた。
初デートの後、そのまま監禁される。
面食い。
・ヒナタ
アオイの彼氏。
お金持ちでイケメン。
アオイを自身の屋敷に監禁する。
・カイト
泥棒。
ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。
アオイに協力する。
_________________________________
【あらすじ】
彼氏との初デートを楽しんだアオイ。
彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。
目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。
色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。
だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。
ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。
果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!?
_________________________________
7話くらいで終わらせます。
短いです。
途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる