上 下
148 / 220
七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。

二十話 目を覚ませば、そこは見慣れた。(4)

しおりを挟む
 しかし、大男となると、頭の隅を過ぎるものがあるのだが、気のせいだろうか。伊都は胸が騒いで、思わずパジャマの胸元をぎゅっと掴んだ。

「まあ、今時の警察は優秀だしすぐに捕まるとは思うけど。伊都も、今まで以上に用心するのよ?」
「うん、分かった……」
 今でも、いつ襲われたのか思い出せないぐらいだから、それはもう突然の事だったろうし、次の時にどれだけ防衛出来るものか不安なものだが、母の気持ちを無碍にするのも、と。伊都は頷いておく。

「それにしても、二日も続けて寝ているなんて何時振りかしらねぇ。社会人になったんだし、徹夜とかしちゃ駄目よ」
「そういう訳じゃないんだけれど……そう、二日も、経ってたの」
 言葉には出ていないが、伊都は静かに動揺していた。
(なるほど、道理で彼が夢の中で誤魔化す訳だわ。分からない事が多すぎるし……後で白銀さんに確認しておかないと)
 夢の中の白銀の言動と妙な眠気の理由は、よく分かった。
 夢と、現実は微妙にリンクする。
 あの不思議な眠気は、現実で起きられない伊都の状態によって起こされていたのだろう。
(現実での私が誰かに突き飛ばされた、だなんて。起きるのを怖がると思って、言えなかったのね)
 心配するな、楽しんでいろ。彼の気持ちを思えば、その言葉に従っていたかったが、現実はもう日曜の朝。
 明日には仕事があるのだから、社会人としては起きざる得ないという訳で。
 伊都は気持ちを切り替え、ベッドから立って自分の荷物を探すことにした。
 
(気持ちは、とっても嬉しいもの。感謝だけは、一杯しておきましょう。メッセージも、早めに入れて置かないとね)
 伊都はベッドの周りを見回す。自分の荷物を探して、足下にも、勉強机にも、ローテーブルにも見あたらず、仕方なく母を呼ぶ。
「お母さーん、私の荷物は何処ー?」
「あら、玄関に置いたままだったかも」
「えっ、やだ二日も放置? スマホの電源切れてるんじゃないのかしら」
「それは気が付かなかったわー。何か仕事の電話とか来てたらごめんなさいね。と、いうところでおかゆが出来たから、起きられるならテーブルまで来なさいな」
「はーい。お母さんのおかゆとか久しぶり」
「そうねえ、伊都ってなかなか頼ってくれないから、余計ね」
「そ、そこはだから悪かったって思ってるわ……」

 そんな風に、何とも現実らしいしまりのなさで、現実に起きた伊都の一日は始まり、言いようのない胸騒ぎを胸に抱えながらも、伊都は久々の実家と母との会話を楽しむのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

処理中です...