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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。
二十話 目を覚ませば、そこは見慣れた。(4)
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しかし、大男となると、頭の隅を過ぎるものがあるのだが、気のせいだろうか。伊都は胸が騒いで、思わずパジャマの胸元をぎゅっと掴んだ。
「まあ、今時の警察は優秀だしすぐに捕まるとは思うけど。伊都も、今まで以上に用心するのよ?」
「うん、分かった……」
今でも、いつ襲われたのか思い出せないぐらいだから、それはもう突然の事だったろうし、次の時にどれだけ防衛出来るものか不安なものだが、母の気持ちを無碍にするのも、と。伊都は頷いておく。
「それにしても、二日も続けて寝ているなんて何時振りかしらねぇ。社会人になったんだし、徹夜とかしちゃ駄目よ」
「そういう訳じゃないんだけれど……そう、二日も、経ってたの」
言葉には出ていないが、伊都は静かに動揺していた。
(なるほど、道理で彼が夢の中で誤魔化す訳だわ。分からない事が多すぎるし……後で白銀さんに確認しておかないと)
夢の中の白銀の言動と妙な眠気の理由は、よく分かった。
夢と、現実は微妙にリンクする。
あの不思議な眠気は、現実で起きられない伊都の状態によって起こされていたのだろう。
(現実での私が誰かに突き飛ばされた、だなんて。起きるのを怖がると思って、言えなかったのね)
心配するな、楽しんでいろ。彼の気持ちを思えば、その言葉に従っていたかったが、現実はもう日曜の朝。
明日には仕事があるのだから、社会人としては起きざる得ないという訳で。
伊都は気持ちを切り替え、ベッドから立って自分の荷物を探すことにした。
(気持ちは、とっても嬉しいもの。感謝だけは、一杯しておきましょう。メッセージも、早めに入れて置かないとね)
伊都はベッドの周りを見回す。自分の荷物を探して、足下にも、勉強机にも、ローテーブルにも見あたらず、仕方なく母を呼ぶ。
「お母さーん、私の荷物は何処ー?」
「あら、玄関に置いたままだったかも」
「えっ、やだ二日も放置? スマホの電源切れてるんじゃないのかしら」
「それは気が付かなかったわー。何か仕事の電話とか来てたらごめんなさいね。と、いうところでおかゆが出来たから、起きられるならテーブルまで来なさいな」
「はーい。お母さんのおかゆとか久しぶり」
「そうねえ、伊都ってなかなか頼ってくれないから、余計ね」
「そ、そこはだから悪かったって思ってるわ……」
そんな風に、何とも現実らしいしまりのなさで、現実に起きた伊都の一日は始まり、言いようのない胸騒ぎを胸に抱えながらも、伊都は久々の実家と母との会話を楽しむのだった。
「まあ、今時の警察は優秀だしすぐに捕まるとは思うけど。伊都も、今まで以上に用心するのよ?」
「うん、分かった……」
今でも、いつ襲われたのか思い出せないぐらいだから、それはもう突然の事だったろうし、次の時にどれだけ防衛出来るものか不安なものだが、母の気持ちを無碍にするのも、と。伊都は頷いておく。
「それにしても、二日も続けて寝ているなんて何時振りかしらねぇ。社会人になったんだし、徹夜とかしちゃ駄目よ」
「そういう訳じゃないんだけれど……そう、二日も、経ってたの」
言葉には出ていないが、伊都は静かに動揺していた。
(なるほど、道理で彼が夢の中で誤魔化す訳だわ。分からない事が多すぎるし……後で白銀さんに確認しておかないと)
夢の中の白銀の言動と妙な眠気の理由は、よく分かった。
夢と、現実は微妙にリンクする。
あの不思議な眠気は、現実で起きられない伊都の状態によって起こされていたのだろう。
(現実での私が誰かに突き飛ばされた、だなんて。起きるのを怖がると思って、言えなかったのね)
心配するな、楽しんでいろ。彼の気持ちを思えば、その言葉に従っていたかったが、現実はもう日曜の朝。
明日には仕事があるのだから、社会人としては起きざる得ないという訳で。
伊都は気持ちを切り替え、ベッドから立って自分の荷物を探すことにした。
(気持ちは、とっても嬉しいもの。感謝だけは、一杯しておきましょう。メッセージも、早めに入れて置かないとね)
伊都はベッドの周りを見回す。自分の荷物を探して、足下にも、勉強机にも、ローテーブルにも見あたらず、仕方なく母を呼ぶ。
「お母さーん、私の荷物は何処ー?」
「あら、玄関に置いたままだったかも」
「えっ、やだ二日も放置? スマホの電源切れてるんじゃないのかしら」
「それは気が付かなかったわー。何か仕事の電話とか来てたらごめんなさいね。と、いうところでおかゆが出来たから、起きられるならテーブルまで来なさいな」
「はーい。お母さんのおかゆとか久しぶり」
「そうねえ、伊都ってなかなか頼ってくれないから、余計ね」
「そ、そこはだから悪かったって思ってるわ……」
そんな風に、何とも現実らしいしまりのなさで、現実に起きた伊都の一日は始まり、言いようのない胸騒ぎを胸に抱えながらも、伊都は久々の実家と母との会話を楽しむのだった。
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