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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。

十六話 間話 賢者と魔女の問答(2)

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(白銀さんの言う通りだったわ……確かに、うん。変人ね)
 うん、と内心に頷き、伊都は現実でこの変人を伊都に近づけまいとしてくれていた白銀、あるいはジルバーに感謝した。

 そうして勝手に伊都が落胆したりこの場にいない恋人に感謝したりしていると。
 隣から元気な怒鳴り声が上がる。
「……おいっ、お前! さっきから勝手に魔女に話し掛けんなよ」
 ぐるると喉を鳴らし、精一杯に木の上のフクロウを威嚇をするのは若い狼だ。
「ほう? 元気のいい狼だね」
 フクロウはぐるりと首を回し、その丸い目で若い狼を見つめる。

 伊都はぎょっとする。
「ちょ、ちょっと。森の賢者にそんな声を上げて、大丈夫なの?」
 あれでも、一応森の実力者なのだ。目を付けられたら大変なのではないか。
 伊都は心配して、若い狼を見るも。
「だ、大丈夫じゃないかも知れないけど、群れの一員のあんたが大変な目に遭ってるんだ、助けない訳ないだろ」
 耳は垂れるし尻尾は股に挟み込んでいるしで、完全に腰が引けている態度だが、それでも頑張ってくれている若い狼に、伊都は少しばかり感動してしまった。
(……お兄ちゃんしてるわ! えらい!)
 思わず頭を撫でる。
「な……撫でんな!! 教育に悪いって言ってんだろ!」
 そう言いつつ、尻尾がぱたぱたしている辺り大変に素直で可愛い。
 思わず伊都は、ほっこりした。

 そんな和やかな交流を気にせず、頭上から無粋に話しかけてくる者がある。
「それで、何から教えてくれる? 出会いから今までの事、いや、君の生い立ちを聞くのもいいな。魔女の背景に深みが出る。こっちでの暮らしぶりを聞くのもいいけど、あ、奴の告白の台詞も聞きたいなぁ」
 当然、それはフクロウなのだが。

「それって、教えなければいけないんですか」
 伊都は頭上に、そう聞くが。
「教えてくれたら、世界の真実を教えてあげるよ?」

「真実……」
「そう。この世界に君と彼が目覚めた理由。それから、此処にいる事の利点と欠点などをね」
 それは、伊都にとっても確かに魅力的な話だ。
 頭の固い伊都には、絶対分からないだろうこの世界の秘密。それを知れるのだから。
 だが、それを知る為に、伊都にとって大事な事を話さねばならないのは、違うのではないかと考える。

(白銀さんとの出会い? 彼の告白? ……そんなの、誰にも教えたくないわ)
 彼が聞いてくるそれは、余りにプライベートな事が多い。
 話している間に、思い出したくもない過去を暴かれるかも知れない。
 そんなリスクを背負ってまで、この変人と向き合う必要があるのかと思えば……。

 伊都は、頭を振って、きっぱりと言った。

「いいです、真実なんて。それを求めるには、リスクが多すぎる気がしますから」

 木の上でフクロウがほう、と鳴いた。
「あれ……? 意外な返事。君、熱心な絵本の読者なんだよね? 世界の秘密、知りたくはないのかい」
 伊都はこくりと頷いた。
「知りたければ、その時は物語をもう一度読み直します。または、続きを待ちます」

 彼は失敗した、と言って木の上で笑う。
「あらら。そうか、君は解説本とか、ファンブックとかは読まない方なんだ?」
「そう、ですね。基本的には、絵本の絵やジルバーというキャラクターが好きで買っているので……世界の謎と言われても、正直、ピンと来ません」
「そうか、うーん。直接取材が出来ればと思っていたんだけれど。でもそうだな、そうじゃなきゃあの朴念仁が好きになる訳なかったか」
 いやいや残念、と笑うフクロウ。全く残念そうに見えないが。

 彼はバサリと翼を広げ。
「じゃあ、現実でまた会おうか。君に興味も出たし、奴を口説き落として必ず会うよ。その日まで楽しみにしていよう」
 ほう、とひと鳴きし。
「ああ、一応ヒント。夢に浸ってばかりだと、現実の彼が泣くよ? そろそろ現実逃避は止めて、起きてあげたらどうかな」
 そう言って、身勝手なフクロウは飛び去っていく。

「な、何だったの今の……」
 伊都は呆然と、フクロウの飛び去る姿を見送った。
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