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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。

八話 間章 魔女と狼はお散歩へ

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 今日の若い狼は、いつにも増して変だった。
(まあ、あの仔はいつも変なのだけど……)
 伊都の中の若い狼のイメージは「意地悪な少年」 であるから、いきなり協力的になっても、そう簡単にイメージは覆らない。
 それまでブスと貶すだの髪を引っ張るだのをしていた少年が突然改心したところで、気になる女の子が彼を好きになってくれないのと同じだ。
(本当に気まぐれよね、あの仔って)

 伊都は今日を振り返りつつ、ベッドの側の衣装棚として使っている窪みに、裏地も付け終わり出来上がったばかりのハーフパンツを仕舞う。
(まだ時間があるなら、今度は私の着替えも作ろうかしら……)
 次の編み物の事など考えながら、湯冷ましを飲むついでに沸かしたお湯で汗だけ拭いてベッドに横になる。


 夜中になると、今日も彼がベッドに忍んできた。

 待っていた人が来たと言うのに、肝心の伊都はと言えば……目が開かない。
 うっかりと、昼寝を忘れていたのでひたすらに眠いのだ。
(こ、こんな時に限ってまさかの寝落ち……)
 まぶたが磁石で強力にくっついたような具合である為、匂いや肌の感覚のみで、隣にある人が彼だと確信する事しか出来ない。

 それでも、眠い目を擦って用件のみは言おうとする。
「春用の……着替えを作って一番上の棚に……置いたの」
 ふにゃふにゃと語尾が崩れる眠気の差した伊都の声に、彼は律儀に答えた。
「そうか、助かる」

 闇の中、ベッドで二人並んで眠るのに、どうにも今日は色っぽい方向には向かないようだ。
 ただ優しく抱きしめられ、その腕の中で寝言めいた言葉をつぶやくだけ。
「あと……聞きたい事……が、あるの……」
「それは、明日でいいだろう。無理はするな」
 優しく、その大きな手に撫でられ。
「ええ……そう、するわ」
 うとうとしながら頷いて。

「楽しんでいるか?」
「ええ……とっても」
「そうか。なら、何も気にせず、楽しんでいるがいい」
 背を優しく撫でる、大きくて温かな手につられて、腕の中で安心して眠りにつく。


 あくる朝。
 夢の世界に来て三日目だが、伊都もいい加減開き直って楽しもうかと思っている。
「ジルバーが言うのだもの、こちらで楽しんでいましょう」
 彼が言うなら、きっと現実だって問題ない。そう、思えるぐらいには彼を信頼しているのだ。

(現実が気になるのは、変わってないけれど……)
 慎重というよりは気弱な、彼女の性質上完全に忘れ去る事はできない。
 それでも前向きに考えようとする程度には、ジルバーの影響力は強いのだった。
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