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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。

七話  間章 長い昼と、魔法と、狼と(3)

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「魔女の加護とか言うけれど、今の所、ジルバーが強すぎてよくわからないのよねぇ。彼、負ける気がしないし」
 物語のヒーローなだけあって、そもそもが強い彼だと、どうにもその辺りよく分からなかったりする。

 三枚のハーフパンツに紐を付けながらぼんやりそんな事を考えていると、ふとベッドの近くから、耳慣れたアルトボイスが聞こえてきた。
「何だ、そんな事か。だったらまあ、俺が試してやらない事もないぞ」
「きゃっ! ……って、貴方だったの、ああ驚いた」

 驚きに声を上げ、声の主を見れば、ベッドの近くにちょこんと座った若い狼の姿があった。

「驚いたって、ちび達もさっきから声掛けてたぞ」
「あら、そうなの? ちょっと考え事していたのだけれど、悪い事をしたわね」
「まあ待て」
 早速仔らを構おうと腰を上げる伊都だが。
 彼女のチュニックの端を噛んで引っ張った若い狼に、伊都はあきれた目を向けて。
「あら、お兄ちゃんなのにいたずらは駄目よ」

 鼻面を注意するようぺしりとやると、彼はむっとする。

「加護の効果を試してやるって話はどうしたんだ」
「ええ……? そんな話していたかしら」
 伊都は手編みチュニックの裾が解けていないか確かめてから、彼の言葉に首を傾げる。
「した」
 端的に言って、何故か期待に満ちた目を向ける若い狼を前に、伊都は更に悩む。
「うーん……。でも、別に加護がどうのって、私の興味でしかないし。テストするとしても、ちびちゃん達にもティペットや靴下を贈ったじゃない? それでいい気がするのだけれど……」
 自慢のお兄ちゃんを取られて伊都を嫌っている筈の彼から、何故協力の話が出るのか。
 伊都は、彼の突然の歩み寄りに困惑しきりである。

 端から見れば好きな子をいじめる不器用な男子と、それを嫌う女子の構図であるが、当人同士だけなので激しくこじれるのであった。

「いいから、俺がやるって!!」
 彼はいらついた様子で尻尾を大きく振り回しガウガウと唸っている。
 そんな不機嫌な態度を取られれば、余計に嫌われているのではないかと伊都は思ってしまうから。
「そんな、無理する事ないわよ? 貴方に嫌われていることは、よくよく分かってるし」
「ちっがーう!!」
 伊都の揺るぎない答えに、ばっふんばっふん尻尾で床を叩き、思春期男子も地団駄を踏むしかない。

「兄ちゃん、どうしたんだっ?」
「あー、魔女いじめてるー」
「いーけないんだー。ジルバーに言ってやろ」
 ガウガウと唸る兄の声に仔狼らがなんだなんだと近づいてきて、彼を囲んではやし立て始めるから、更に場が混沌としてきた。

「えっと……結局、なんなの?」
 不器用な少年のなけなしの勇気も分からぬ伊都は、彼の願いをすぱりと却下したばかりか、その複雑な機微も理解出来ず首を傾げるばかりであった。
 そんな時、空気を読まずにやってくるのが仔狼である。

「なあなあ魔女。おいらのティペット破れたんだけどさ」
「あらあら、なら繕うか新しいの編みましょうか」
「今の気にいってるから、直してくれよっ」
「まあギャンったら、可愛いこと言ってくれるのね、ふふ」

 そう言って、わしわしと撫でられる弟にまた兄狼は嫉妬して、伏せた姿勢で顔を前足で隠すと、ビタンビタン尻尾で床を叩く。

 ……つまりは人間、いや狼も、素直な方が得をするという話である。
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