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六章 貴方と現実で抱き合う日

十六話 貴方と現実で抱き合う日(6)

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 シャワーを浴び、すっきりとしたところで、スーパーで買い物に向かう。
 彼がマンションの駐車場から出したのはドイツ車のSUVだった。
 普段は営業車か国産の4ドアセダンしか見なかったので、まさかの二台持ちに驚く。
 この車を選んだのは安全性と走りを考えてとのことだが、車の事は余り知識のない伊都にも、その大きな車は大柄な彼に似合うと思った。

 マンションから十数分程走れば、大きな駐車場を備えたスーパーに着く。
 郊外型の大型店舗で、雑貨や衣服なども売っているそこは、土曜日ともあって人も多い。
「本当に大きな所ね……」
「二階はドラッグストアや衣料品も置いてあるから、大体ここで揃うから賑わっているな」
 コンシェルジュから聞いたと、完全に伝聞のそれを言った彼は、自然と手を繋ぐと、ゆっくり歩き出す。

 広い広い駐車場を横切りスーパーへ入れば、今日の目玉が入り口付近に色々と積んであった。
 雑然とした雰囲気は特有で、広告を睨んでは一週間の献立を組む庶民派の伊都としては意外と楽しい場所でもある。

 立ち止まった彼女に、彼は緩く手を引いて名を呼んだ。
「伊都」
「……あ、はい」
 慌てて彼についていくも、彼女は今の事を処理しかねて首を傾げてしまう。
(今、名を呼ばれたわよね?)
 現実で苗字でなく名前で呼ばれたのは初めての筈だ。
(すごく、自然に呼ばれた気がするわ……)


 白銀はカートを押し、伊都は食品を選ぶ。
(これって新婚さんみたい……)
 思わずそんな妄想をするぐらいには、男性とスーパーにくるなんて新鮮で。
 人生初めての経験に、伊都はなんだかくすぐったい気分だ。

 カートには色々なものが積み込まれる。
 彼の部屋には醤油やソースぐらいしかないから、基本的な調味料から買わなければいけない。
(高くつくけど、彼が料理するとも思えないし、賞味期限を考えると小瓶で揃えるのが無難かしら……? 残すのも勿体無いし)
 結構な買い物になりそうだった。

 彼の今日のリクエストは、日本食だ。白銀の養母がよく作ってくれたから、食べ慣れているという。
「あんたが作ってくれる料理は、味が濃すぎなくて何度食べても飽きない」
 しれっとそういう事を言うから、伊都も専ら土日に纏めて仕込む一週間分の料理にも力が入ってしまうのだが。

 流れ的に養母の話となるのだが、初老のご婦人であるが、なかなかにハイカラだった義母は子供の好きそうな料理もよく作ってくれたそうだ。
 だが、どちらかと言えば老舗の洋食店の貫禄ただようドミグラスソースのハンバーグだとか、本格志向ものだったので妙に肩が凝るというか、食べ慣れたものの方がほっとするという。
(老舗の貫禄って……白銀さんのお義母様は、相変わらず底が知れないわ)
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