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六章 貴方と現実で抱き合う日

七話 酔いが回れば、饒舌に

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 少し酔いが回ってきたか、楽しくなってきた伊都の顔にはニコニコと自然に笑みが浮かぶ。

 うふふ、と笑いを零しながらサングリアをハイペースでお代わりする伊都に、白銀は不安そうに聞いてくる。
「伊都さん、酔ってませんか?」
 酒を共にする機会こそ少ないが、深酒するイメージもない伊都がどんどんとアルコールを入れている姿に、彼は心配したらしい。
「酔ってるかも。だけど楽しいの」
 色づいた頬に表情は明るく、気づけば言葉もくだけていた。
「お酒って美味しいのね。私、すっかり気に入ってしまったかも」
 巣穴の魔女の時のよう、朗らかに言う伊都に釣られて、彼は追求を止めてしまった。

 饒舌となった伊都は色々な事を話した。
 日常の事。
「最近、料理に興味が出たの。あれ作ろう、これ作ろうって、編み物してる時にも考えちゃったりして」
「そうなのですか。毎朝ご相伴に預かる身としては有り難いです」
「やっぱり美味しそうに食べてくれる人がいると、張り合いが出るのね」
 仕事の苦労。
「そんな訳で、先月も新人さんが会社の共通フォーマットを書き換えようとしていて……。私の指導が悪いのかしら。年上の人の事を指導するって、こんなに難しかったのね」
「いや、何度も指導を受けていてなお指導員に反抗するのは通常あり得ないですし、たまたまおかしな人に当たっただけの事のような気がします……」
 果ては編み物の事まで。
「うーん、夢が叶った筈なのに、何でかしら。サンプルを編んでもあんまり楽しくなくて。でも、白銀さんに編むのは楽しいの。仕事と趣味の違いかしらね」
「伊都さん、また貴女は何も考えないで言ってますね……まあ、嬉しいですけれど」

 あっちこっち、飛んでいく話はやがて、あの事件にたどり着く。
「あの時は本当、夏で良かったわ。あ、でも今の時期だったら、厚着してたろうし少しは寒さもしのげたのかしら」
「ははは、どうでしょう。外に出た時も同じ気温だったら出た時にめげそうですが」
「あっ、それはあるかも知れないわ。だとしたら夏で助かったかも?」
 恐るべき夏の冷蔵倉庫閉じこめ事件は、時間が経ったからか、こうして自分から話題の一つに挙げられるぐらいには思い出として消化されている。

 ある意味あれはきっかけだっただろう。
 二人の距離が近づく為の。
 無関係な白銀を巻き込んだ以上、灰谷を許す事はないが、恐がりの伊都が彼の手を取るタイミングとしては、確かに価値があった。
 今日の祝いの席だってそうだ。
(今でも、あの日の工場長の気持ちは分からないけれど……恐がりで弱い私が、ここにいるのはきっと、あの事件があったからで)
 あの事件がなければ……伊都はきっと彼の本質を知る事も出来ず、彼もあの夢の話をする事は無く、ただのパソコンの教師と生徒の関係に始終していたのではないか、と、伊都は思う。
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