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六章 貴方と現実で抱き合う日
一話 貴方と現実で抱き合う日
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喉の乾きを覚えふと目が覚めると、見覚えのないダブルベッドの上に伊都は居た。
瞬時に怯えが走るが、ふと嗅ぎ慣れた彼の匂いがして、ここが何処かを理解する。
「白銀さんの、部屋……?」
自分の身体を見下ろせば、ワンピースを着たままで寝かせられている。
(そうよね、紳士な白銀さんが、気絶した女性を無理矢理襲うなんてあり得ないし)
身体の確認を終えた伊都は、首を傾げる。
(ええと、どうして私、白銀さんに連れて来られたのだっけ……)
後半になればなる程ぼやける記憶を何とか繋いでいくと、どうやら伊都は故郷での祝いの席で、酒を過ごしてしまったようだ。
やたら楽しくて、普段は余り飲まない酒がやたら美味く感じて、お代わりをした記憶がある。
伊都は自分の粗相に青ざめた。
「わ、私って……どうして大事な時に限ってこうなの」
今日こそはと、彼に抱いて貰うのだと意気込んでいたのに、肝心の所で寝てしまうなんてどうしようもない。
(それにしても、こんな不本意な形で彼の部屋に来る事になるとは思わなかったわ)
いつかは訪れたいと思っていたが、泥酔した状態で記憶もなく運び込まれるなんて、どうにも残念過ぎる。
(まあ逆に、意識があったとしたら、お断りしていたとは思うけれど)
勇気を出して告白したものの、だからと言ってすぐに彼の部屋に来れる程、覚悟が出来ている訳ではない。
(だって、彼の部屋って……つまり泊まりって事で……無理よ、無理だわ)
いきなりそんな大胆な事は出来ないわと、伊都は心の中で悲鳴を上げた。
では何処で何をするつもりだったのだと言われると、奥手な伊都には全く思い付かないのだが。
(どうしよう……どうすればいいの)
寝起きの寝ぼけた頭でそう煩悶していると。
「……起きたか」
ベッドの前の衝立を回り込んで、白銀が顔を見せる。
「あの……済みません、私、どれぐらい寝ていましたか」
「二時間ぐらいだ。明日は休みなんだろう、もう夜も遅いから泊まって行け」
彼はそう言うと、水を持ってくると言ってまた衝立の先に消えていった。
彼の部屋に招かれたのは、今日が初めてだ。
モノトーンで纏められた、余計なもののない部屋は、とても白銀らしいと伊都は思う。
彼の部屋はワンルームだが、物が少ないからかやたらと広々として見える。キッチンから水を汲んできた白銀に、ベッドで半身を起こした伊都は頭を下げる。
「済みません、普段はこんなに飲まないんですけれど……」
「それだけ、楽しかったのだろう。ならいい」
風呂に入ったのだろうか、寝間着に着替えた彼は、偶には羽目を外すして騒ぐのもいいもんだと軽く言って、ベッドに腰を下ろす。
その距離は、巣穴の夜を思わせる近さで。
思わず、伊都の鼓動が跳ねる。
瞬時に怯えが走るが、ふと嗅ぎ慣れた彼の匂いがして、ここが何処かを理解する。
「白銀さんの、部屋……?」
自分の身体を見下ろせば、ワンピースを着たままで寝かせられている。
(そうよね、紳士な白銀さんが、気絶した女性を無理矢理襲うなんてあり得ないし)
身体の確認を終えた伊都は、首を傾げる。
(ええと、どうして私、白銀さんに連れて来られたのだっけ……)
後半になればなる程ぼやける記憶を何とか繋いでいくと、どうやら伊都は故郷での祝いの席で、酒を過ごしてしまったようだ。
やたら楽しくて、普段は余り飲まない酒がやたら美味く感じて、お代わりをした記憶がある。
伊都は自分の粗相に青ざめた。
「わ、私って……どうして大事な時に限ってこうなの」
今日こそはと、彼に抱いて貰うのだと意気込んでいたのに、肝心の所で寝てしまうなんてどうしようもない。
(それにしても、こんな不本意な形で彼の部屋に来る事になるとは思わなかったわ)
いつかは訪れたいと思っていたが、泥酔した状態で記憶もなく運び込まれるなんて、どうにも残念過ぎる。
(まあ逆に、意識があったとしたら、お断りしていたとは思うけれど)
勇気を出して告白したものの、だからと言ってすぐに彼の部屋に来れる程、覚悟が出来ている訳ではない。
(だって、彼の部屋って……つまり泊まりって事で……無理よ、無理だわ)
いきなりそんな大胆な事は出来ないわと、伊都は心の中で悲鳴を上げた。
では何処で何をするつもりだったのだと言われると、奥手な伊都には全く思い付かないのだが。
(どうしよう……どうすればいいの)
寝起きの寝ぼけた頭でそう煩悶していると。
「……起きたか」
ベッドの前の衝立を回り込んで、白銀が顔を見せる。
「あの……済みません、私、どれぐらい寝ていましたか」
「二時間ぐらいだ。明日は休みなんだろう、もう夜も遅いから泊まって行け」
彼はそう言うと、水を持ってくると言ってまた衝立の先に消えていった。
彼の部屋に招かれたのは、今日が初めてだ。
モノトーンで纏められた、余計なもののない部屋は、とても白銀らしいと伊都は思う。
彼の部屋はワンルームだが、物が少ないからかやたらと広々として見える。キッチンから水を汲んできた白銀に、ベッドで半身を起こした伊都は頭を下げる。
「済みません、普段はこんなに飲まないんですけれど……」
「それだけ、楽しかったのだろう。ならいい」
風呂に入ったのだろうか、寝間着に着替えた彼は、偶には羽目を外すして騒ぐのもいいもんだと軽く言って、ベッドに腰を下ろす。
その距離は、巣穴の夜を思わせる近さで。
思わず、伊都の鼓動が跳ねる。
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