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五章 毎日、毎日、貴方を好きになる。

二十二話 深まる秋と、進む気持ちと

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 秋は足早に過ぎ去っていく。
 現実はとても充実していた。
 ブログの更新、商品サンプル作成、事務の引継。
 それは、とても昼寝などしていられない程に。

 そういえば、と気づく。
(最近、夜しか……あの夢を見ていない気がする)

 夢の中では相変わらず巣穴のベッドで裸で抱き合い眠る。
 ぴったりとくっついた肌同士の心地よさは格別で、大好きな彼の匂いとその体温に安心してまどろむ。
 伊都は、我ながら不思議だ。
(きっと大した違いなんてないのにね)
 何故現実では、今でも行為をためらうのだろうかと。

「ねえ、ジル……」
 今日もそれを問いかけようと声を上げるが、彼は何故か話をする前に伊都の唇を奪った。
「んっ」
 またこれか、と思うと同時に疑問も浮かぶ。
 言葉すらない、性急な求めに驚いたのは何時だったか。
 彼はまるで夢の中の伊都……魔女の言葉を怖がるかのようにいつも伊都を抱き潰す。

(現実の私に苛立っているの?)
 それにしては、毎朝の挨拶の時に見せる彼の態度は変わらなく泰然としているから、夢と現実の違いに内心首を傾げてしまう。

 どうしようもなく眠い時には彼も気遣って抱き締めるだけでいてくれるのだが、話せる元気のある日は違う。
 自室のベッドで横になり、夢へと入るとすぐに、狼の彼はその端正な顔を近づけてくるのだ。
 暖炉で燃える火が僅かに光をもたらす闇の中、その大きな体で覆い被さるように抱き締めて──。

 ──その日も、夜の情交の記憶を引きずって朝を迎える。
 白銀が来る前に着替えなければと急いで動き出すけれど、ふと吐いた息は妙に熱い。
 全身が痺れたような感覚は事後のそれで、しかし現実の身体は五年前から誰にも触れられずにいるのだから、何てちぐはぐな事だろうかと奇妙極まる状況に戸惑う。

(何だか、夢の中の彼はどんどん激しくなるわ……)
 現実のお付き合いが健全なだけに、落差が大きくて。

 ……伊都は困惑するしかない。 

 そんな状況でも、彼は朝の訪問を欠かさない。
 夢で見たような仏頂面で、けれど隙なく装ったスーツ姿で朝の挨拶を交わす。
「おはよう」

 秋も深まり冬が近づく頃には、現実でも少しだけ進展があった。
 毎日の朝の挨拶には、親愛を示す頬へのキスと、柔らかい抱擁が加わる。
 海外なら家族の挨拶程度の接触、日本でも熱々のカップルならばあるいは日常の風景だろうが、異性の苦手な伊都にとってこれはとんでもない進歩であった。
 毎朝のキスがルーティンとして加わって半月だが、銀のフレームの眼鏡が理知的な雰囲気を醸す端正な美形と接近するのは、いつだって胸が高鳴ってしまう。

 形のいい唇が伊都の頬に触れて、大きな身体に優しく抱き寄せられる。それだけといえば、それだけなのだけれど。
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