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五章 毎日、毎日、貴方を好きになる。

二十一話 食欲の秋、あるいは友の襲来(3)

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「うーん、二人の話は難しいね」
 奈々は考える事を放棄したように、前菜をもしゃもしゃ食べている。
「そうね」
 伊都も気持ち的には同じだ。

「伊都、あんたは残念ながら当事者だ」
 外野に努めたい伊都だが、リッコはその美しい眉を顰めてそれを許さない。
「と、言っても。私は多分冷静に自己評価なんて出来ないわ」
 と、首を振る。何分、伊都は途中で学業を放棄した事で、自己評価が低いのであった。

 そこですらりとした指を伊都の隣へと向け、ハスキーな声でリッコが言う。
「そう。じゃあ伊都の彼氏。あんたが代役として働いて。伊都が自信がないだの価値がないだのと勝手に下げる分を、あんたに補填して貰う」
「はい」
「あんたは見るからに良いものを普段から身につけているからね、正しく価値を見積もれる筈だ」
「リッコが身に付けたアイテムは秒で売れる、と言われる程の貴女にそのように高く評価されるとは、光栄です」
「ふん。伊都の隣にあんたみたいな人間が居ると安心だ。お人好し過ぎるからね、伊都は」
「同感です」

 伊都は二人が当たり前に伊都の彼氏と認め合っているのに驚いた。
 それ以上に、伊都の都合に白銀をまた巻き込む事に忌避感を覚える。

「ちょっと、リッコやめてよ」
 膝の上でぎゅっと両手を握りしめ、伊都が声をとがらせると、リッコは興味深そうに伊都を眺めた後に肩を竦めた。
「伊都は黙って。彼氏はいいと言っている。自分は仕事上、イメージを大事にしなければならない。適切な評価が出来る人材なら確保したい。大体、売り込みも彼からだ」
「でも、私の事に彼を巻き込むのは……」
 伊都は言い募るが、意外な所から待ったが掛かった。

「いえ、喜んで巻き込まれますよ。この店の改造計画には、前々から私も興味がありましたし」

「白銀さん……」
 隣を見れば、穏やかな笑顔を浮かべる白銀の姿がある。
 彼はきつく握り締めた伊都の手へ大きな手を重ねた。
「松永さんも計画に一枚噛んでいるようですし、あの日あの場所に居た者の中で私だけが仲間外れなのは、寂しいではないですか」

 それは取って付けたかのような回答だったが、同席する奈々や、先ほどからカウンターで耳をそばだてている鵜飼夫婦には納得のいく言葉であったようだ。
(全く、頭の回転が早いのも善し悪しね……)
 伊都としては、これ以上白銀に余計な負担を掛けたくないのだが。
(白銀さんは、どうして率先して私に巻き込まれに来るのかしら)
 困惑する伊都の前で、どんどんと話は決まっていってしまう。今にも、動き出しそうなスピードで……。

「じゃあ、今後要望は貴方に送るがいいか」
「はい。実際の店舗の稼働は早くとも来年でしょうが、それまで調整を進めましょう」
 二人の美形はがっちりと手を握り合わせた。

「美形が二人もいて、今日は目の保養だなー」
「奈々はいつも楽しそうでいいわね……」
 にこにこと機嫌のいい奈々と、内心頭を抱えたい伊都は、レスポンスが早く即断即決な二人の美形のやりとりを眺めながら、美味しいはずだがよく味の分からなくなった食事を進める事となった。

 少しずつ、少しずつ。
 そうして、夢は実現へ向かって進んでいく。
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